特別な日




 さわさわと風が葉を揺する音。
 青い空を白く薄い雲が流れていく。

 そんな、穏やかな日。

 水面が日の光を反射して穏やかに差し込む四阿で、国王夫妻は今日も仲睦まじく過ごして
 いた。


「―――今日は大人しいな。」
 からかうように笑う陛下の吐息が耳元を掠める。

 四阿は幾人も入れるような広々とした場所なのに、陛下は相変わらず膝の上に夕鈴を乗せ
 ている。
 腕の中に囲った最愛の妻の髪に触れ頬に口づけ、溢れるばかりの愛を囁く陛下は上機嫌だ。

「逃げないのか?」
 いつもならとっくに逃げ出していそうな場面でも、今日の夕鈴は少し肩を竦めただけで耐
 えた。
「……今日は、特別、です。」
 耳まで真っ赤に染めながら、彼の首に腕を回して顔を隠す。
「今日? 何かあったか?」
「ナイショです。」

 陛下には教えない。
 今日は私だけが知る“特別な日”

「私には教えてくれないのか。」
「はい。」
 少しばかり拗ねた口調になるけれど、夕鈴も珍しく折れなかった。
「―――では、当ててみせようか。」

 低く甘い声にドキリと胸が高鳴る。
 ぱっと顔をあげると、紅い紅い狼の瞳に射抜かれた。

 いつまで経ってもこの人は私を少女みたいにときめかせる。
 でも、今日は負けない。


「出会った日、ではないな。」
「そうですね。」
「夫婦になった日とも違うし……」
「無理しなくて良いですよ?」
「嫌だ。」

 この分だと当たりそうもない。
 おかしくなって夕鈴はクスクス笑う。
「たぶん陛下には分かりませんよ。」
 だって、私が勝手に決めた日だもの。

「……夕鈴の意地悪。」
 小犬の耳がぺしょんと下がって見える。
 今度は小犬で懐柔ときたか。でもそうはいかない。
「言いませんよ?」
 陛下がむぅと眉をしかめても、その眉間を指先でもみこんで笑うだけ。


「降参しますか?」
「―――降参だ。」
 しばらくして、陛下はついに諦めた。
「では、秘密のままで。」
「えーっ!?」
 結局教えてくれないの!?と声をあげる彼を前に、夕鈴はただ明るく笑い続けた。


 今日は、私が初めて“貴方”を見つけた日
 私だけが知る“特別な日”

 


2014.3.10. UP



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イメージ曲:吉田純子『特別な日』

ローカルネタですが、この歌大好きなんですよー
気になった人はYouTubeへ☆

貴方を見つけた日=本当の貴方を知った日
というイメージです。過去話を聞いたとかそんな感じの。



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