運命の人




「―――――…?」
 呼びかけた名を忘れて開きかけた口を噤む。
 ぱちりと瞬くと、見慣れた自室の天井が目に入った。

 懐かしい夢を見た…気がする。
 いつもよりぐっすりと眠れたような、すっきりとした朝。

「今日は…… ああ、休みか…」
 だったらもう少し寝ても良いかと、ごろりと寝返りを打ち、
「!!?」
 そこで彼はぴしりと固まった。

 彼は一人暮らしだ。
 恋人とも、一月前に仕事を理由に別れている。
 昨日の飲み会に集まったのは男ばかりのはずだし、そもそも…
「……誰だ?」
 相手とは面識がない。

 ―――目が覚めたら、隣に知らない女が寝ていた。なんて。

「…ちょっと待て。」
 混乱する頭のまま起き上がり、昨日の記憶を必死に辿る。
 …が、途中からの記憶がさっぱり抜け落ちていた。

「あり得ないだろ……」
 ガクリと項垂れると視界に入る自分の姿。
 そうしておそるおそる覗き見た彼女の、掛け布から出た肩も予想に違わないもので。
「……うわ…」
 確定かと頭を抱えた。
 正直、ベッドの下に散乱しているものは視界に入れたくない。

「…ん……」
「!」
 悶々としている間に、隣の彼女が目を覚ます。
 ゆっくりと目を開いた彼女は数回瞬いて眉を寄せ、そうしてゆっくり視線を上げた。
「〜〜〜!!?」
 何と言ったらいいのか。
 目が合った瞬間にガタピシと固まる彼女を前にして、彼自身も言うべき言葉を探していた。



「…君、昨晩の記憶は?」
 ベッドで向かい合って座り、現状把握に努めてみる。
 正直互いにパニック状態なのだが、そのまま固まっていても状況は変わらないしと言い出
 したのは彼の方からだった。
「ええと… 昨日は、親友の明とハタチの記念にって飲みに行って…、……行って………
 途中から記憶がないです。」
 ごめんなさいと俯いてしまう彼女に慌てる。
 記憶がないのはこちらも同じだ。
「僕の方こそゴメン… 昨夜は昔馴染と久々に飲んでたはずなんだけど…」
 高校時代の友人達と、駅近くの居酒屋で飲んでいた。はず。
 全員進路が違うから会うのは久々で楽しくて、おかげで飲み過ぎたのだとは思う。

 でも、だからって、知らない女性をお持ち帰りとか何してんだ。

「…合意の上、なのかな?」
「ええと、たぶん…?」
 救いは、彼女が良い人そうなところだろうか。
 責められるかと思ったのに、彼女はこちらこそすみませんと謝ってきた。…逆に申し訳な
 い。

「…あ。」
 そういえば、と大事なことを思い出す。
 僕は彼女の名前すら知らない。
「今更こんなことを言うのも変なんだけど… 僕の名前は翔。君は?」
「私は鈴です。」
 ふんわりと笑う彼女に既視感を覚える。


 ―――… ーりん、…

 懐かしい。
 僕はこの笑顔を知っている。

 遠い遠い記憶。
 この日だまりのようなあたたかさを、僕は知っている。

 やっと、見つけた―――…

 僕の中で、僕じゃない誰かの声がした。


「あ!」
 突然大きな声を出した彼女にビックリする。
 思い出しかけた何かが霧散して、目の前の彼女の姿がはっきりと像を結んだ。
「昨日のこと、一つだけ思い出しました。」
「え、何?」
 興味を持って問い返すと、彼女がくすくすと笑う。
「それが嬉しくて、"私も"って答えたんですよ。」
 勿体ぶらずに教えて欲しいと先を促すと、彼女は内緒話をするように耳を寄せて。
「私を見たとき、貴方が笑って言ったんです。」


 ―――やっと見つけた、僕の運命の人。




2014.12.26. UP



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しばらく頭の中でぐるぐる回っていた話です。転生パロってやつですかね?
舞台が現代日本なので名前が違っていたりします。
続きを書く予定はないですー ネタがないのでww
この後は、寝言で「夕鈴」とか呟いて、「元カノと間違えるなんてサイテー!」とか喧嘩する
しか思い付きませんww

以下、SNSに殴り書いておいた設定のようなもの。
ここでの名前は翔(かける)24と鈴(すず)20。鈴の親友は明(あき)。
名前が出てこなかったけれど、翔が飲んでた相手は大(ひろ)と順(じゅん)と克(まさる)ww
アニキは学(がく)にしとこうかなと思ったんですが同じ読みなら岳でもいいな、とか。
ちなみに鈴の元彼で、初めての人です。←え?
夕鈴愛しの弟くんは慎(しん)で!(ブラコンは変わらないw)

※さらにコメント欄に書いたその後の小ネタ。
「本当にごめん。ひょっとして初めてだった?」
「え? ああ、違うから大丈夫ですよ。」
「違うの!?Σ( ̄□ ̄;)」
「? はい。大学入ってすぐだったかな?当時付き合ってた人と。もう別れましたけど。」
「ど、どんな男?(動揺)」
「幼馴染でした。気安くて一緒にいるのが楽で、その延長というかその場のノリで付き合った
 んですけど…… しばらくしてなんか違うねってお互いに思って。 話し合って別れて……
 あ、でも今も普通に遊んだりはしますよ。」
「……もっと早く君と出会いたかったな。」
 そうしたら、絶対誰にも渡さなかったのに。



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