空の青さと風の音色
「武王がとうとう起き上がれなくなったそうだ。」 「ああ、それは私も聞いた。もう時間の問題だろうと・・・」 ! その会話を天化は偶然聞いてしまう。 王サマが―――・・・? けれど考えられないことでもなかった。 周の建国から2年。牧野の戦いで彼が受けた傷が完全に癒えるはずがなく・・・ その傷は少しずつ彼の命を削っていった。 2年生きていられただけでも奇跡だと、そしてもう限界なのだと。 わかっている。頭では十分理解していることだ。 だけど・・・・・・ 「発―――・・・」 きつくこぶしを握りしめる。 頭ではわかっていても心はそうはいかない。 不安と焦りで落ち着かない。 今どうしている? 今までは何とも思っていなかった、会いに行きたいとは1度も思わなかった。 でもそれは大丈夫だと思っていたから。元気でいると知っていたから。 けれど 今は・・・ 会いたい―――・・・ 何処へ向かうでもなくぶらぶらと歩く。 右手にはいつもの煙草。 「うーん・・・・・・」 会いたい・・・ そう思い立ったのはいいものの、問題はどうやって行くのかだ。 彼ら「神」が下界に下りるには何か理由が要る。 「会いたい」という理由では無理だろう。 「・・・どうすれば行けるか、ねぇ・・・・・・」 こうしている間にも彼は弱っている。 時間がなかった。 ガン! 「っ・・・!」 壁にぶつけた手が痺れる。けどそんな痛みは問題じゃない。 会いに行けないもどかしさの方がよほど痛い。 発――・・・っ! 「あ、良かったー。天化くん!こんな所にいたんだね。」 「・・・普賢、真人サマ・・・・・・?」 にこにこ笑顔でこちらにやって来る彼を天化は半ば呆然と見た。 「ちょうど良かった。ちょっとついて来て。」 「は?」 グイ! 鍛えた天化よりはるかに細い腕や体。 そんな見た目からは考えられない程強い力で彼は問答無用で天化を引っ張っていく。 「ついて来てって一体どこへ・・・」 「行けばわかるよ♪」 ? ほとんど引きずられるような形で天化は彼の言う通りついて行った。 そして着いた所は・・・ 「おお! よく来てくれたな、普賢よ。天化も久しぶりじゃのう。」 そう言って彼らに席を進めて座らせると白鶴がお茶を運んでくる。 「ついて来るって元始天尊サマの所のコトだったさ・・・」 はっきり言って今はゆっくりお茶を飲んでいる気分ではないのだが。 一刻も早く発に会いたい。 今頼めば行かせてもらえるだろうか。 「元始天尊様、実は今から下界に行ってこようと思うのですが・・・」 唐突に普賢がそう切りだした。 ! 下界!? 「おお、この前頼んだ事じゃな。よろしく頼むぞ。」 「はい。それで1つお願いがあるのですが・・・天化くんも一緒に行ってもらっていいですか?」 「ヘ? 俺っちも・・・?」 よく意味がわからなかった。 「―――・・・許そう。2人で行ってくるがよい。」 「ありがとうございます。―――というわけだから行こうよ♪」 くるりと天化の方に笑顔を向ける。 「・・・はぁ・・・・・・」 そしてわけもわからないまま天化は下界に下りれることになった。 「―――さぁて着いた。」 普賢に連れられて天化がやって来たのはある建物の上空だった。 「・・・ココって・・・・・・王宮?」 ―――そう、発が居る所。自分が来たかった場所。 けれどどうしてココに・・・? 「あ、天化くん。居られるのは日が暮れるまでだからね。それが過ぎたら迎えに来るから。」 思い出したように普賢は笑って言う。 「!? 一緒に来たのは俺っちに手伝って欲しい事があったからじゃ・・・」 「だって来たかったんでしょ?」 そう、ココに来たかった。 彼に会いたかった。 「元始天尊様もわかってて許可してくれたんだよ。だから遠慮しないで会っておいでよ。」 ああ、そうか。 俺っちのために協力してくれたのか。 「・・・ありがとう。普賢真人サマ、元始天尊サマ・・・・・・」 ―――そういえば普賢真人サマは何をしに来たさ? 何気ない質問。 ―――・・・人探し。いまだどこに居るかわからない人を、ね。 その時の表情はひどく寂しそうで・・・ 天化は考えなしだった自分に後悔した。 けれど黙ってしまった天化に普賢は明るい笑顔を向ける。 ―――今ね、ちょっと怒ってるんだよ。僕にすらどこにいるか秘密にしてるんだから。今度会ったらまず核融合したいくらいにね♪ ゾクッ その笑顔は凍りつくくらいに恐ろしくて、天化は顔を強張らせた。 眠る姫発のとなりにはずっと付き添っている邑姜の姿。 痩せ細ってしまった彼の青白い顔に触れながら、いつになく悲しそうな、辛そうな表情で見つめている。 その周りでは女官たちがせわしなく動きまわっていた。 「武王・・・」 ―――――・・・・・・ どこからか聞こえる懐かしい声。 ―――誰かが俺を呼んでいる・・・?