Gold Eyes その5
「・・・本気なのか?」 さっきとうってかわってこちらは他に人がいないせいかとても静かだ。 2人のよく通る声以外は何も聞こえない。 「ええ。」 2人の話し声が聞こえてきたのでライルは思わず近くの木の陰に隠れる。 (・・・あれ? 何で隠れなきゃいけないんだ?) 不思議に思いながらも、とりあえず様子を見ようと息を潜ませた。 「―――明日、式が終わったら城を出るわ。もう2度と戻って来ないつもりよ。」 会えば決心が鈍るかもしれない、だからライル様には何も告げずに行くつもりだ。 「あなたには言っておかなきゃいけないと思って。」 「・・・別に出て行かなくても嫁ぎ先くらいいくらでも見つけてきてやるのに。」 王子の制約もなくなるわけだから相手に困ることはないだろうし。 けれど彼の言葉を否定するようにアイラは首を振る。 「それは相手の方に失礼だわ。・・・ずっとあの人を想ってきたのよ。そう簡単に忘れられるはずないわ。」 それに、近くで見ているのは辛いから。 だったら見れないほど遠くへ行けばいい。 「・・・ずっと遠くまで行って、知ってる人もいない土地で。・・・そこでいつか新しい出会いがあればいいわね・・・・・・」 あの人を忘れさせてくれるような人に。出会えればいい。 「―――・・・まさかそこまで好きだったとはな。」 少し後悔した様子でルークはため息をつく。 「私はアイラを苦しめるために引き受けたわけじゃない。誰よりも大切だから大臣達の誘いにのったんだ。」 このまま傍にいればいつかきっと彼女は傷つく。だから2人を引き離そうと思った。 ただ、アイラの気持ちがそこまで強かったのに気がつかなかった。 「そこまで好きなら言えば良かったんじゃないか? 傍にいられる方法がないわけじゃなかったんだし。」 「何・・・言ってるの?」 少し自嘲気味にアイラは笑う。 「私は金の瞳の一族、その生き残りです。とでも言えと?」 「―――そういう事だ。」 「冗談言わないでよ。今さら言って何が変わるっていうの? ライル様は明日には結婚してしまうのに・・・」 それに・・・・・・ 「それに、今までずっと隠してきたのよ? 出会ってからずっと・・・9年間も・・・・・・」 約束なんて最初から破ってた。 ずっとその罪悪感を背負ってきたのに今さら言えっこない。 「それは仕方のないことだろう。ちゃんと理由があるんだ。」 ため息混じりにルークが言う。 「でもっ・・・!」 そんなコト関係ない。 「・・・確かシュリー家だっけ?」 !? 木の陰からライルが現れる。 「先王・・・祖父の時代に無実の罪を着せられて、当時の当主の親友だった父王が即位と同時に無実を証明した・・・ってアレだろ?」 国最強の一族が滅んだというこの歴史的な話を知らない者はいない。 軍部の最高職にいた彼らを妬む者達が王に謀反を企てているという嘘の進言をし、一族は自害せざるを得ない状況に追い込まれたのだ。 それは最強の戦いの一族が故に起こった悲劇・・・ 「ライル様!?」 (まさか今までの話を聞かれてた!?) 「・・・盗み聞きとは・・・・・・いけませんね。」 あいかわらずルークは平然として慌てた様子は見せない。 「聞こえたんだよ! それよりアイラがシュリー家の生き残りってどういう事だよ。アイラは西方の村出身だと言ってたろ?」 盗賊に襲われてその小さな村は壊滅し、唯一生き残ったのが彼女だと聞いた。 「・・・それは、その・・・・・・」 ホントはまずどの辺から聞いていたのか尋ねたかったんだけどな・・・ 先に質問されてしまった。 「・・・えっと・・・・・・西方の村で育ったのは本当なんです。」 確かにライル様に会う前私はそこにいた。 「・・・18年前、当主だった父が一族自害を決めた時、生まれたばかりの赤ん坊だった私はある使用人の夫婦に預けられました。 そして何も知らず、私は普通の少女として育つはずだったんです。」 普通の村娘として一生を終えるはずだった。 けれど運命はそうさせてくれなかった。 「・・・盗賊に村を襲われた時に一族の力が目覚めてしまったんです。」 私をかばって矢を受けた養父。 怒りで頭が真っ白になって、養父の声で我に返った。 「全てを養父が死ぬ間際に教えてくれました・・・・・・」 炎に包まれる家、冷たくなる養父の手、自分の瞳を見て恐怖する盗賊達。 全てが昨日のことのように鮮明に浮かんでくる。 「・・・そしてこれがもう一つ隠していた事――」 1度瞳を閉じ、一呼吸おいて再び開く。 「!? 金の瞳!?」 「シュリー家当主の証ですよ、王子。彼女くらいの年になれば意図的に変化させることもできますが、 それ以外は気が高ぶった時や戦闘中などに自然に変わる時もあります。シュリー家が戦いの一族と言われた所以です。」 瞳が金に変わる時、彼らの戦闘能力は最大に引き出される。 そしてその能力は代々の当主となるべき者にしか受け継がれない。 「滅んだはずの一族の証を持つ者がいたらおかしいでしょう? だから今まで隠してきたんです。」 「・・・それはよくわかった。でも1つだけ納得いかない部分がある。」 ライルがじっと睨んだ視線の先にはルークがいた。 「何でオレでさえ知らない事をこいつが知ってるんだよっ!」 誰も知らないならともかく何故ほかに知っている人間がいるんだよ。 そこが気に入らなかった。 彼女の一番は自分でありたいのに。 「残念ながら彼女に最も近いのはあなたではなく私なのですよ。」 勝ち誇ったように言われてすごく悔しい気分になる。 「・・・っ!」 だけど言いたい事が声にならない。 「ルーク! 誤解するようなこと言わないのっ!」 「少しくらいはいいだろう。大事な妹を散々悩ませてくれたんだ、兄としてはこれくらいの意地悪もしたくなる。 それが例え王子殿下であってもね。」 ・・・・・・は? 状況を理解するのにしばらくかかった。 「兄妹・・・? え? でも・・・ え??」 どこをどうしたらそういう事になるんだ? 「実は私養子なんですよ。六番目でしたし当主の証もないし。ほぼ同時期に流産した母の妹夫婦に養子として出されたわけです。」 出会った瞬間にお互いが同じ血族の者だとわかった。 そして手合わせに戦って確信した。 ただ1人の仲間だと・・・ 「・・・んだよそりゃあ・・・・・・」 力が抜けてその場に座り込む。 どうりでアイラが気を許していると思った。それが実の兄ならば納得できる。 「紛らわしい事すんなよなぁ・・・」 思い切り悩んだじゃねーか。 「兄としては今のままの状況じゃ許せないものがありましたからね。王子にアイラを幸せにする力がないのならいっそ引き離してしまおうと。」 「・・・で? 本心は?」 もっともらしい事を言いながら声が楽しそうなので、ジト目で彼を見る。 「面白そうだったから。」 「やっぱりそっちか!」 勢いで立ち上がって暴れだそうとするのをアイラが止めに入る。 「・・・ライル様、落ち着いて下さい。この人まともに相手にすると疲れるだけですから・・・」 彼をなだめるように言う。 「でも前に言ったのも本当ですよ。彼女を傷付けるだけならそばには居させません。」 これは兄として。たった一人の血の繋がった妹を不幸にするならたとえ王子でも許さない。 「ああその点ならもう。姫にはさっきフラれてきた。」 「へ? ちょっ・・・ライル様っ!?」 「他に好きな女がいる男は嫌なんだってさ。」 少し違うけど間違ってはいない。 「なっ・・・一体何考えてるんですか! 結婚式は明日なんですよ!? 今さら中止なさるつもりなんですか!?」 もし中止にすれば国の威信にかかわる大問題だ。 「いや、結婚はするよ。」 「・・・誰と?」 「もちろんお前と。」 にっこり笑ってライルは答える。しばらく間があった。 「っ!? 何言ってるんですかっ!」 顔を真っ赤にして反論する。 彼女にしては珍しく感情が表に出てしまっている。金の瞳のせいかもしれない。 「私はライル様の側近ですけど身分的には庶民なんですよ!?」 「でもシュリー家跡取りなんだろ?」 「証拠もありますしね。」 「ルークまで・・・・・・」 さっきまで反対していたはずなのに。 「・・・じゃあ後見は? 後見がいなくちゃ大臣の方々は納得しませんよ?」 王の妻になるならばそれなりの財力も必要だ。 しかし今の彼女には何もない。 「私がいるよ。カイザール家が後見になればいい。」 確かに不可能なことではない。 そしてそれはカイザール家にとっても有利な話になるため反対する者はまずいないだろう。 「じゃあ王は・・・・・・?」 「親友の娘を嫌だと言うはずないって。逆に大喜びするんじゃないか?」 「・・・オレとの結婚嫌なの?」 次々に問題ばっか出してきて。 「いえ、そういうわけではないですケド・・・」 それは絶対にない。 ただ心配なだけ。 今の状況が幸せすぎて。 「じゃあいいじゃん。ずっと一緒にいよう。そういう約束だろ?」 そして優しく彼女を抱きしめる。 それが初めて彼女に触れた瞬間だった。 「結婚してくれるよね?」 「・・・・・・嬉しいです。」 少し頬を赤らめてこくんとうなずく。 (・・・ラブラブですねー・・・・・・) 見ているこっちが恥ずかしくなってしまう。 けれどそれで安心したのでルークはそっと気づかれないようにその場からいなくなった。 『・・・ずっといっしょだからね。やくそくだよ。』 子供の頃の約束。 『いなくなったりしちゃダメだからね。』 『うんっ。』 『ぜったいだよ?』 それはプロポーズの言葉にも似ていた幼い頃の思い出・・・ 変わらない想いはずっと、永遠に・・・・・・ ー終ー
<コメント>
はい、終わりです。
展開早いですか?
つか最後がね・・・トントンと進みすぎてるような、ね。
でもこれ以上直しようもないしこんなモノかな〜と。
いいですよね??