月夜 −遠くまで…−
夜、宿屋の一室に寝ていた俺は不快感で目を覚ました。 嫌な夢を見た気がする。離れ離れになってしまった夢だったような・・・ ―――そうだ、アイツは・・・? 視線を横に移すと隣で寝ていたはずの彼女の姿がない。 っ!? 言葉では言い表せないほどの不安を感じて身を起こすと彼女はちゃんといて、俺は安堵の息を漏らす。 いなくなったのかと思った。 あれは全て夢だったのかと思ってしまった。 夜着一枚で窓の側に寄って彼女は夜空のある一点を見つめていた。 哀しい色を映した瞳に何かを思うような切なげな表情。 月光を浴びている彼女の白い肌は光を帯び、儚げなその姿は今にも夜に溶けて消えてしまいそうだった。 月に帰りたいのか? 思わず声を出して尋ねる。 話しかけなければ本当にいなくなってしまいそうな気がして。 彼女は振り向いて可笑しそうに声を出さずに笑った。 どうして? 私は貴方といることを選んだのよ? 確かな将来を約束され、何もかも手に入るはずだった彼女。 俺は己の欲望のためにその道を絶ってしまった。 だけどどうしても手に入れたかった俺だけの宝石。 俺は彼女を望み、そして彼女もそれに応えてくれた。 これ以上にない幸せのはず。 けれど、だからこそよけいに不安になる。 俺なんかについて来て本当に良かったのか? 今ならまだ戻れる。 ここを出てしまったらもう故郷には戻れないんだ。 だから空を見ていたんだろう? 私はもう貴方なしじゃ生きていられないもの 俺を抱きしめて彼女はそう言った。 この肌の温もりは嘘じゃない。 夢じゃない、と俺は彼女の細い体を抱き寄せた。 幸せに・・・してくれるんでしょう? 震えた声だった。 見知らぬ土地へ行くのが怖いのか? それとも大切な者たちとの永遠の別れが辛いのか? でもそれでも俺を選んでくれるんだな。 当然だ。 他の誰よりもこの世で一番幸せな女にしてやるさ。 王妃の立場より、あの男の側よりも俺を選んでくれた。 国を捨ててでも俺について行くと言ったお前を。 ・・・ああ 幸せにしてやるさ。 もう絶対に離したりなんかしない。 永遠に、一緒だ。 この命懸けてでもお前を幸せにしてやるよ。 だからもう、 離れたりするな―――・・・
<コメント>
月夜シリーズのこれは真ん中くらいでしょうか?
てーか何も言えませぬ…(−△−;)
誰かこの2人を止めて……