FOREST ANGEL その5




「え・・・・・・?」
一瞬耳を疑った。
ただもう1度会いたいと、あの時別れた場所へやって来たのに。
そこには1人の赤い服を着た老婆が待っていたように立っていて彼に告げたのだ。
「あの娘はもうこの森には居ないんだよ。迎えに来た父親と一緒に行ってしまったんだ・・・」
「そんな・・・」
あれから彼女のことが頭から離れなくて。
日に日に想いだけが募っていった。
まだ伝えてない言葉があったのにそれさえ言う事もできないなんて。
「・・・クノールの王子、もう帰りなさい。貴方の運命は"ここ"にはないのだから。」
ここにはない・・・ではどこにあるのだろう・・・
わかるのはもう会えないという事だけ―――・・・
ルリア・・・君は一体どこに・・・・・・



「あれ? 森の天使サンに会いに行ったんじゃなかったのか?」
馬を納屋に繋いでいた彼の肩に、同じ顔をした下の兄が腕を置いて尋ねてきた。
「居なかったんだ・・・」
ずーんと暗くなってクレイは答える。
「は?」
「もう会えないんだ・・・・・・」

・・・暗っ!

朝とは雲泥の差だ。
出かける前は見つからないかもしれないけどとか言いながらにこにこ顔で出て行ったはずなのに。

「・・・じゃあお前これ行って来い。」
そう言ってほいっと一通の手紙を彼に渡した。
「? 何コレ?」
「タスティ国からの招待状。今まで行方不明だった世継ぎの姫のお披露目パーティーだとさ。」
「それで何で僕が行くのさ・・・」
1番上の兄上が行けばいいじゃないかとクレイは言う。
傷心中なのにどうしてわざわざ顔も知らない姫君なんか見に行かなくちゃいけないのか。
「気晴らし×2♪ 俺も兄上も忙しいんだよ。だからお前に拒否権はない。」
「何で!?」
「隣国だろ、一応礼儀として誰かが行かなきゃ。」
もっともらしいセリフで押し切られたら反論もできない。
「わかったよ・・・」



王に手を引かれてホールに現れたルリアはあまりの人の多さに目を丸くした。
経験した事のない人の数。
ヒトってこんなにいるんだ。

でも―――・・・

こんなに人はいるのにクレイの姿はどこにも見えない。
来てるかもしれないという期待は一瞬にして崩れてしまった。

クレイ・・・

会いたいよ。
わがままだって解ってるけど会いたいの。

ねぇ クレイ・・・ どこ・・・・・・?


紹介の挨拶とお祝いの言葉が終わり、ルリアは席に座ってホールを見渡していた。
けれどやはりクレイの姿はどこにもない。
「ルリア? どうかしたのか?」
様子が変だったので心配して王が彼女の顔を覗き込む。
「具合でも悪いのか? 顔が青い。」
「あ、違いますっ。ただ、人が多くて驚いただけで・・・」
慌ててルリアは答えた。
心配かけちゃダメだ。
「・・・そうか。それならいい。」
それを聞いて王は安堵する。

「ほらごらん、みんなお前の美しさに見とれている。」
王に言われてルリアは前を見てみた。
たくさんの視線がこちらを向いている。
言葉を失い立ち尽くしている者、隣と囁き合いながらこちらを見る者も。
でも彼女にとってそれは異様で怖いとしか思えなかった。
クレイ以外はどうでもいいのだ。
「ルリア、誰でもいいから好きな男を選ぶといい。お前を断る者などいないから。」
王が耳元で囁く。

好きな、ヒト・・・・・・

私にはクレイしかいないの。
彼だけが好きなの。
だけどクレイがいない。
会いたいのに・・・ 誰よりもいますぐ会いたいのに!



しまった・・・遅れた・・・・・・

案内されながらクレイは心もち焦る。
まさか馬が足を挫いてしまうとは思ってもみなかった。
もう少し時間に余裕をもって出かければ良かったなと後悔する。
けれどルリアの事を考えたら足が重くてなかなか行く気にはなれなかったのだ。

「こちらです。」
深く礼をして案内してきた年配の女性が入り口を手で示す。
「ありがとう。」
お礼を言ってクレイは中へ進む。


クレイ・・・

不安なの。
今会えないともう2度と会えない気がして。
「いつか」なんて待ってられないわ。
今すぐ会いたい。

そう思いながらもう1度視線を巡らした時、入り口の所で彼女の動きが止まった。
ホールに入ってくる彼の姿を見た瞬間、周り全ての音が止まった。
彼以外の物は全て灰色になる。

ク、レイ・・・?

タンッ

意識するより早く体が勝手に動いていた。
立ち上がって床を蹴ったルリアの体が宙に浮く。

!!?

これには全員が度肝を抜かれて唖然となった。
そんな彼らの頭上を飛び越えて、ルリアは同じく目をぱちくりさせているクレイに飛びつく。
「クレイ!」
「え・・・? ル、ルリア!!?」
今の状況を理解するまで少しかかった。

「やっと会えた・・・」
消え入るような小さい声は少し震えていて泣いているようだった。
「もし・・・もし貴方がここに来てくれなかったらどうしようかと思った・・・・・・」
「ルリア・・・」
腕の中の彼女がとてもいとおしく感じて、クレイも彼女を抱きしめ返す。
「―――君がいなくなったって聞いてすごく後悔したんだ。あの時連れ去ってでも一緒に連れて行けば良かったって。」
掟なんて関係なく連れて行ってたらこんな思いしなくて良かったのに、と。
「言いたかった事があるんだ・・・」
「クレイ?」
「好きだよ・・・」


「あらまぁ、ルリアにはもう恋人がいたのね。」
王の後ろから出てきたロイアが2人を見て笑いながら言う。
「・・・寂しいですか?」
ロイアは複雑な表情をしている王の方を見上げた。
「好きな男を見つけろと言ったのは私だからな・・・寂しいなどとは思わない。」
「あら。そうですか?」
いかにも無理してると解るのでくすくす笑う。

「・・・私には貴女がいる。」
笑われてしばらく憮然としていたが不意に肩を抱き寄せて言った。
「私でよろしいならずっとそばに居ますわ。」
「良いに決まっているだろう。」
そう言って彼女の瞼にキスを落とす。



「2人とも幸せになれたようだね。」
窓の外で見守っていた老婆たちも安心する。
「もう私たちの力は必要ないね。」
「森へ戻りましょうか。」
その言葉とともに老婆たちの姿がポンと消えた。


こうしてその後 国を継いだルリアとクレイの2人はこの国を良く治めたといいます。




おしまい。



<コメント>
主人公2人組より両親ズの方がラブラブやってるのは気にしないで下さい。(オイ)
書いててとっても楽しかったから・・・
削る気にならなかったのぉ・・・・・・(汗)
ネタに詰まったら書くかもしんない。両親出会い編。



←戻るにおうち帰るに