月夜  −不安−




ねぇ どうして・・・?
どうしてそんなに優しいの?

私は1人じゃ何もできない。
貴方と一緒に居たい一心でついて来たけれど。
1度も城から出た事のない私。
何も知らない、何もできない。
きっと足手まといだって思っているに違いないのに。
なのにどうして笑いかけてくれるの?
どうして優しくするの?


うわ言で繰り返す言葉。
熱を出して倒れてしまった彼女に意識はない。

彼女を連れ戻そうとする追っ手から逃れるためにムリを通して進んできた。
倒れてしまうのは仕方ないが俺は怒りを隠せなかった。
彼女にじゃない、気づけなかった俺自身にだ。
絶対に守ると約束しただろう。
なんて不甲斐ない。


―――どうして・・・

意識なく呟く彼女の手をとる。

―――当たり前だろう? 何のために俺達は逃げ続けてると思ってるんだ。

離れたくないからだろう?
傍に居たいから、お前を愛しているからに決まっている。
何でそう不安そうにしてるんだ お前は。

熱くなっている彼女の手のひらに口付ける。
頬に押し当てるとものすごく熱かった。
不規則で荒く、苦しそうに息をする表情は見ていて痛々しい。

―――代わってあげられないのが悔しいな・・・

俺にはこんな痛み それほど苦痛じゃない。
見ている方がよほど苦しいぜ。

―――嫌いにならないで・・・ 

―――ならないさ。

―――迷惑だと思ってない・・・?

―――絶対に言わない。

たぶん彼女も何を言っているかわからないだろう。
けれどそのひとつひとつに言葉を返す。

早く笑顔を取り戻せ。
前のように元気になってくれ。
そう思いを込めて。

こんな心の痛みもあるんだと始めて知った。
俺にも痛みを感じられる心がまだあったのだと。
変わってしまった自分には驚くけれど、嫌いな変化じゃない。
俺にもヒトを愛せる心が残っていた。
彼女が気づかせてくれた。


―――不安にならなくていい。俺はここにいる。

自分より細く小さなカラダを包み込む。
壊れやすいモノに触れるように、優しく。

―――ごめん・・・なさ・・・・・・っ

まだうなされている彼女。
熱でよほど弱っているらしかった。
精神的にも限界だったのだろう。

―――ゆっくり寝ていろ。心配する事はない。

今度は少し強めに抱きしめる。
せめて夢の中では安心して過ごせるように。


スゥ・・・・・・
静かに寝息をたて始める彼女にホッとする。

お前は俺が守る。
何があっても。
絶対1人にはさせないさ。

またすぐに逃げ続けなければならない日が来るだろうが・・・
せめて今は
幸せな夢を見るといい。

俺も今夜は、
このままこうしておいてやるから。



<コメント>
後半部。もうかなり進んだ後かな?
ああもうラブラブ度全開!(笑)
・・・今回は彼女視点のみで書き始めたはずが変わってるよ オイ。
主人公はどっちってわけでもないけどやっぱ彼の方だろうね。
なんてったって私は彼が(現在)お気に入りナンバー1!(爆)



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