月夜  −再会−




―――また会えたな、姫さん。

自分の最期を悟った時、彼は突然現れた。
たとえるなら、風・・・ 
一陣の風のように彼は私の前にやってきたの。
そして私と彼等との間に入って 彼等――…私の命を狙う者達と対峙した。
驚いて声が出ない私に彼は不敵な笑顔を向ける。

―――安心しな。アンタは俺が守ってやる。

その言葉にはさらに驚いたけれど、疑う気は無かった。
初めて会った時とは違う、優しいものがそこにはあったから。


男達は彼の登場に驚いた様子だった。
お互い相手の事を知っているみたいで。彼等の方は本当に意外そうな顔で彼を見ていた。

―――裏切ったのか!?

―――裏切る? 冗談じゃない。俺は金さえ貰えば何でもやるって言っただけだぜ。
      失敗したって言ったろ? だからもうお前等とは関係ない。

フンと鼻で笑って言い返す。

―――ならばキサマも一緒に葬るだけだ!

一斉に襲いかかってきた彼等を一瞥した後、彼は私の前から消えた。
その瞬間 風が吹いたかと思った。


呆然としている私の目の前で、彼の前に彼等は倒されていく。
余裕すら見える笑みを浮かべて まるで踊っているように。
そして私が彼の動きに魅入られているうちに、彼は全員を地面に伏せさせていた。

―――大丈夫か?

私の前にやってきた彼を見た瞬間、我慢していたものが溢れる。

―――とても 怖かった・・・

泣きながら私は彼の胸に飛び込んだ。
彼はそれを黙って受け止めてくれたの。

―――俺が間に合ってよかったぜ・・・ 警備の奴等は何をしてるんだ?

彼が言っている事は気づいていたけれど あまり聞こえていなかった。
ココに居られる事の方が何故かとても嬉しくて。
彼が傍に居てくれるだけで心が満たされた気がして むしろ今は誰にも来て欲しくなかった。


―――姫さん、アンタ自分がどうして狙われてるか知ってるのか?

夢見心地から私を引き戻したのは彼のその言葉。
もちろん知っているわ。知っているからこんな目に会っても仕方無いと思うもの。

―――私と隣国の王との結婚に反対している者達・・・よね?

好きでもない男のもとへ嫁ぐ上に、それを反対されて命を狙われる。
バカみたいな事だって思う。
でも仕方が無いといつしか諦めた。
これが私の運命で、避けられないものなら受け止めようと思ったから。

―――だけど 貴方にもう1度会えたのは幸せだと思ったわ。だったらこういうのも悪くないかなって・・・

命を狙われた事より貴方に会えた事の方が今の私には何倍も大切なコト。
そう言ったら彼は可笑しそうに笑った。

―――ホントに退屈しない姫さんだな。

そっと私の頬に触れた手はとても温かくて。
その吸い込まれそうな瞳に見入っていたら不意に口を塞がれた。
長いような短いような時間のキス。
突然の事でビックリしていた私の耳元で「護衛代だ」と囁かれた。
これが護衛代ならずっと守ってもらいたい。
このままずっとここに居て欲しかった。


けれど そんなに長く一緒に居られない事はわかっている。
私の願いなんて儚い夢。
遠くで足音が聞こえて 彼の方を向いた時にはもう彼は窓の外に出ていた。

―――また会えるといいな 姫さん。

そして彼はまた 風のように消えていったのだ。


私は彼の事を誰にも言わなかった。
誰にも知られたくなくて、私だけの秘密にしておきたかったから。
彼は私だけが知っている 私だけの騎士様だわ。
そう思いたかったから。



<コメント>
前半の 2人が2回目に会った部分。だから「再会」。
すでに彼女は彼にラブラブvv(笑)
"騎士様v"ってヤツは傭兵ですよ 姫サマ・・・(汗) そりゃあ彼女には騎士かもしれないけど・・・
つーか彼女視点は珍しいかな。
うーん 彼視点だったらまた少し違ったのかもしれないね。



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