星にかける願いごと




朝でもじわりとした蒸し暑さを感じる頃になった。
それだけでも嫌なのに。
朝っぱらから無駄な体力使うだけの自転車で汗かいて来なきゃならないバカらしさ。
坂道だらけの道のりも ただ暑いだけ。
しかも今日は月曜日。
気分は最悪に近い。
まぁそれは 昨日遅くまで起きてた自分が悪いのだけど。


片腕を枕にして、ボケっと憎らしいほど晴れ渡った空を見る。
昨日まではあんなに雨が降ってたくせに それが嘘みたいに雲が1つも無い。
今夜は星が見えるかもしれない。
そこで、ふと 妹に貰った物を思い出した。

「おっはよー! って何ソレ。」
元気な挨拶の後に ポカンとして言ってきたのは友達の亜紀で。
その彼女が指差した"ソレ"は、私が目線の上でブラブラさせてる紙のことだった。
ツルツルした面とザラザラした面がある、黄色くて細長い四角の紙。
その紙には紐が通してあって、私はそこに指を通して持っている。
「短冊。小6の妹に朝貰ったの。」
視線は向けずにそう告げる。
「今日は七夕集会なんだって。」

余ったからあげるね、と言われて行く間際に貰った。
それまで忘れていた 今日が七夕だってこと。
毎日が忙しくてそれどころじゃなかったから。
そうでなくても七夕なんて、興味なんかとっくに失ってた。

「ふーん、で願いごとは?」
面白そうに亜紀は笑って言った。
でも願いごとなんて。
そして あまり考えずに出てきた言葉は。
「……志望校合格?」
「うっわ。夢がな〜い。」
心底呆れた声で言われてしまったけど。
そりゃ私だって分かってるけどさ。
でも。
「何言ってんの。今私達が願うのってそれくらいなものでしょ。」

―――受験生なんだから。

7月に入ってますますその色は濃くなってきた。
課外が始まってもう1ヶ月、その生活にも慣れたくないけど慣れてきた。
先生達は合格だなんだと煩くなって。
周りは目指す大学の為にピリピリし出してる。
放課後まで束縛されるなんて冗談じゃないけど、上に行きたいならそれでも足りないくらいで。
誰もが日々に追われてる。
クラスのほとんどは朝から参考書なんて見てて。
やってて面白いわけは無いんだけど、やんなきゃいけないから。

「でも七夕じゃん? もっと他に無いワケ?」
「他、ねぇ…」

そういえば私も妹ぐらいの時にはいろいろ書いてたな。
今思えばバカらしいくらい小さなことだったり、途方も無いほど無謀なことだったり。
でも 楽しんで願いごとを考えてた。
今はそんな叶わない願いごとなんて 考えてもいないけど。
星に願いをかけて叶うはずが無い。
こんなつまらない現実的な考えをするようになってどれくらい経っただろう…

「そんな急には思いつかないわよ…」
じゃあ亜紀はどうなのよ。
そう聞いたら自身有り気にフフンと笑った。
「あるワケ無いじゃない。」
「……」

コイツは……

生憎ツッコミを入れる気力も無くて 脱力しただけに留まったけれど。
「そんな、星に願わなきゃいけないほど困ったことなんて無いもん 私。」
「…受験は?」

星に願いたいほど困ってるってこと、これくらいじゃない。
やってもやっても足りない勉強。
諦めなきゃいけなくなったらどうしようって不安。

けれど彼女はけろりとしてこう言った。
「それは自分の実力次第でしょ? そんな現実的なこと願ってどうすんの。」
妙に的を得た意見だった。
「七夕ってもっとロマンチックなものじゃない? 年に1度だけ会える恋人達のイベントだし。
だったらもっと夢のある願いごとにしたくない?」
亜紀がそういうこと言うなんて。
言っちゃ悪いけど意外だなって思った。
「好きな人と両思いになりたい!なぁんてベタなことじゃなくてもさ。」
叶わなくても良いじゃない。
だいたいそんなことばっか書いてたんだから。
そう言った彼女に、私は可笑しくなって思わず笑ってしまった。
「ご高説ありがとう。」
笑いが止まらない私に 亜紀は顔を赤くしながら小突く仕種をしたけれど。

「……で? 願いごとは決まった?」
ポツリと加えられた言葉に 私はスッキリした気分で応えた。
「うん。―――今はまだ書かない。」
「そっか。」
私の気持ちを察したように、亜紀はそう言って ポンっと私の頭を軽く叩いた。


今はそんなこと考える余裕は無いから。
来年までこれはとっておこう。
そしてもう少し余裕ができたとき、ゆっくり考えてみよう。
叶う叶わないはともかく。
宙の上の恋人達に、見てもらいたい願いごとを…



<コメント>
書くのに2時間かかってません(死)
でも話自体はずいぶん前から考えてたので。
書きたかったんですよ〜 こういう季節ものって。
いつも時間無くて挫折してましたが…
久しぶりに 高校生に気分(だけ)戻ってみました。
思えば 毎年誰かが笹持ってきて飾ってましたねー(面白い高校だ)
受験生… 懐かしい響きですね〜…
今は弟クンが受験生です。私にとってはもう3年も前ですか…



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