短冊に願いごと。
星空の下で聞いた 星にまつわる恋物語。

もうそんな年でもないけれど。

もし叶うのなら、ひとつだけ願いを届けて欲しい―――…





〜夏の記憶〜

「…これじゃ星が見えないわ。」 雨音がかすかに響くカーテンの外を睨みつけ、彼女が残念そうに呟く。 朝から雲が増えだした空は 日が暮れた頃にはゆるやかに小さな雫を降らせていた。 窓際のフローリングに寝そべって 何度同じことを繰り返しているのか。 いい加減聞き飽きたが賛同する気もない。 ソファに背を預けて、リモコンは取られたままだったから 読みかけだった雑誌を手に取った。 「せっかく七夕なのに意味無いじゃない。」 ありったけのクッションを敷いて、1番大きいものを腕に抱いて。 頬を膨らませているのはよく見る光景。 「星なんていつ見たって同じだろ。」 雑誌から目を離しもせずに答えたら、クッションが飛んできてぼすっと音がした。 小さなビーズクッションだから頭に当たろうが痛くもなく、傍に放って読み進める。 「七夕だからって星が近づくわけでもないし。」 「〜〜〜夢がないっ」 クッションを取りにきたと思ったら 雑誌を取り上げられてテーブルに置かれた。 「今日だから意味があるのよ。」 引き離された恋人達の 年に1度の逢瀬。 逢えなかった分、きっと想いは募っているはず。 だから今日の星空はちょっと特別なの。 「―――女ってどうしてこう夢見がちなのかね。」 目の前で切々と語る彼女から目を離して はぁ、と呆れた溜め息をつく。 それがさらに癇に障ったのか ムッとしてギッとこちらを睨み下ろしてきた。 「アンタみたいな奴には女の子の気持ちなんて一生わかんないわよっ」 「…お前が女の子って年か?」 「って そっちを言う!?」 睨みつけられ、平然と見返して。 沈黙の後 どちらからともなく吹き出した。 そして響く笑い声。 来年晴れたら 星がよく見える高台までドライブしよっか。 他愛もない約束。 今が永遠だと思い込んでいたあの頃。 1年先なんて 疑いもしなかった。 「今年は晴れたな…」 車に凭れて見上げながら独り呟く。 一面に瞬く星。 頭上を流れる星の川。 そこにはもちろん 恋人達の星も。 約束の高台、隣に彼女はいない。 ここに来たのは他にすることも無かったし、不意に1年前の約束を思い出したから。 気が付いたら車を走らせていた。 「今頃同じこと言ってんのかね…」 "女の子の気持ちが分かる" 隣にいる男に。 そこまで思って自嘲気味に笑った。 互いにすれ違って傷つけて。 別れたのは冬の終わり。 去年の今頃はそんなこと考えてもいなかった。 日々は変わらないと思っていた。 何気無い日々が幸せだったと 今更後悔しても遅すぎる。 「…まだ 忘れられないと言ったら、お前はどんな顔するんだろうな……」 馬鹿な男だと笑うのだろうか。 今更だと怒るだろうか。 でも、それこそ今更だ。 何を言ってもあの日の2人には戻らない。 「バカだな…」 見上げたまま目を閉じる。 それでもまだ振り切れない想いがある。 思い浮かぶのはあの日の憧憬。響くのは楽しげな笑い声。 ―――星に願いを。 叶うならどうか、今の気持ちを彼女に。 未練がましい想いを 欠片でも届けて欲しい―――…




<コメント>
ネタ思いついた時にFIELD OF VIEWを聴いてたもので…
んで、タイトルはそこから取りました。
この曲のメロディが好きなんですv(まだ歌詞は覚えていない/死)

今年も七夕話です。
クリスマスは未だ書けてないのに2つ目になってしまいました(苦笑)
短いんですが まぁ場面と雰囲気さえ解っていただければ。
約束した場所に1人で来る男ってのを書きたかっただけなので。

このカップルー☆は名前も出てきませんが気に入っています。
100のお題に使おうと思っている2人です。
今回別れちゃってますが…




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