[ 1.薄布の向こう ] 「陛下っ!?」 布の向こうに消える背中は答えない。 「私が戻るまで妃をそこから出すな。」 「は、はい…」 寝室の外で女官に釘を刺し、彼の足音は遠ざかる。 彼女達も常ならぬ陛下の様子に戸惑いを隠せないようで、彼女達がいる隣の居間はざわ ついていた。 しかし、今の夕鈴にそれを気にしている余裕はない。 「何なのよ…!?」 一人きりの寝室で、陛下の寝台に取り残された夕鈴は途方に暮れた。 いきなり抱き上げられて連れ去られて、一方的な言葉の後にわけも分からず閉じ込めら れたのだ。 涙を流しても何度名前を呼んでも彼は聞き入れてくれなかった。 まだ熱い首筋を押さえる。 本気で食べられてしまうんじゃないかと思って怖かった。 ふと自分を見下ろすと格好がとんでもないことになっていると気がつく。 髪はぐしゃぐしゃだし、衣も乱れて足も肩も露わになっていて。 恥ずかしいとかそういうことよりも、戸惑いと、そして恐怖が勝って何の抵抗もできな かった。 「…ああもう 意味が分からないわっ」 ようやく涙が止まって怒りを思い出したときには彼の姿は消えていて、やり場のない気 持ちだけが残る。 何に怒ったのか分からない。理由も言ってくれなかった。 悪いのがこちらなら謝ることもできるのに、これでは理不尽だと怒ることしかできない。 「っ私が何をしたのよーっ!!」 爆発しそうな怒りを抑えきれず、とりあえず目に付いた枕を思いっきり叩き付けた。 →次へ --------------------------------------------------------------------- シリアスというか暗いのかもしれませんが。 冒頭から雲行きが怪しい感じですみません。どこかでこれの前のシーンが入ります。 この話は他の作品がダークサイドに引っ張られないための話なので、内容的には薄いと思います。 全体的な長さは普通の短編よりちょっと長めというくらいですし。 ここまで読んで無理だな、と思った方は読むのを止めてくださいね。 頑張って夕鈴で持ち上げたんですけど… 表に置けるレベルまでには上げられませんでした。 2011.4.30. UP