初恋の行方 -1-
      ※ 未来夫婦設定の、李順さんと鈴花メインの話です。




 ―――今年も無事に迎えられた春。

 花の宴は今年も滞りなく進み、国王陛下一家を始め 皆がその空気を楽しんでいた。


 内部政治が荒れ果て、国が疲弊していたのも今は昔。
 憂いなき豊かな国となった白陽国。

 そんなこの国で、今1番の関心事。
 …それは、国王陛下の2人の御子のお相手だ。



「―――鈴花様もお年頃。そろそろお相手を探される時期ではないのか?」
 遠く 王族専用の席に座す姫君を見ながら、隣に座る同僚に彼は話しかけた。
 彼の家にも釣り合う年齢の息子がいる。
 ならば、その可能性を考えるのは当然のこと。…まあ、我が家の場合は砂粒ほどの確率だ
 が。

「まだどの家も打診を受けてはいないそうだ。むしろ全て断られているという話だぞ。」
 手酌で酒を注ぐふりをしながら、声を落として隣の男がそう返す。

「…やはり隣国か?」
 確か隣国にも、公主より3つ上の皇子がいたはずだ。
「しかしそれならばもう話が出ているだろう。」
 そう返されて、それもそうかと考える。

 公主は今年で15、いつ嫁いでもおかしくない年齢だ。
 なのに全く話がないというのも不思議なものだ。

 …まあ、自分達が知らないだけで相手は決まっているのかもしれないが。
 かつての陛下がそうであったように、突然現れるのかもしれない。


「容姿、教養、そして王家の血筋… 全て完璧なあの方を貰い受けるのはどんな男なのだろ
 うな。」

 とりあえずうちの息子である可能性は低い気がした。
 まあ、高望みはしない。

「その男は幸せ者だな。」
 隣の男は完全に他人事と、のんびりした様子だ。
 上流貴族とはいえ、その中では下の方の自分達にはあまり関係ないのかもしれない。

 大臣達は今頃躍起になっているのかもしれないな、なんて。

 だんだん彼も他人事っぽくなってきて、とりあえずと、手元にあった美味しい酒を飲み干
 した。














*














「貴方に見合う女性になりたくて、琴だって何だって完璧にこなせるようになったのに…
 頑張ったのに……ッ」
 李順からの冷たい一言に、鈴花はぐっと拳を握りしめる。

 李順の言う"理想の姫君"の基準は高い。
 それを知っていたから、ものすごく頑張った。
 幸いお父様とお母様の子だった私は、何でも努力すれば完璧にこなせるようになったけれ
 ど。

 なのに、なのに…ッ


「どうしてダメなの!?」
 だいたい、好きだと言う前に「いい加減諦めたらどうですか」とか言う!? 普通!!
 …まだ3年経ってないから言わないけど。あと半年あるし。

「根本的な問題があります。」
 鈴花の訴えはすっぱりと無碍に切り落とされる。
 受け入れる気はゼロとでも言わんばかりだ。

「貴方なら家柄も身分も釣り合うわ。誰も文句は言えないじゃない。何がいけないの?」
「…そこに年齢を加えてください。」
 そんなに呆れた顔で言わなくても良いじゃない。
 30ウン歳の年の差がどうしたというの。
「愛さえあれば年の差なんて些細なことよ。」
「あれば、の話ですが。」
 つまり、李順にはないと言いたいのか。

「ひっどーい! お母様、李順に何か言ってください!」
 今度はすぐ横でお茶を飲んでいた母に訴える。
 何気に母は鈴花の味方だ。
 乳母の華南と一緒に今までもいろんな助言をくれた。

「―――そうね。私達より障害は少ないと思うわ。」
 のんびりと茶杯を傾けながら、母は笑いもせずに言う。
 李順はそれに思いきり顰め面をした。
「夕鈴殿… ですから煽らないでくださいと」
「私は覚悟してくださいと言いましたよ。」
 さらりと言われて李順はぐっと言葉に詰まる。


「ちゃんと3年我慢したわ。」
 まだ半年残ってるけれど。今までそうだったのだから今更何も変わらない。

 その間に李順に釣り合いたいと努力して自分を磨いた。
 あの言葉が勢いで出たものだと思われないように、3年後に胸を張ってもう1度言えるよ
 うに。


「……それとも、まだ亡くなった奥様を忘れられないの?」
 他に拒まれる理由が思いつかなくて不安な気持ちで彼を見る。

 鈴花が産まれる前に病気で亡くなってしまった李順の奥方。
 彼が再婚しないのは今も彼女を想っているからかもしれないって、考えなかったこともな
 いけど。

「―――そう思っていただいても結構ですよ。」
 そう答える李順の表情は変わらなかった。


「ッ 李順のばかぁ!!」
 後から思えば明らかに理不尽な捨て台詞を残して、鈴花はその場を走り去った。









「…何故自由にさせてらっしゃるんですか? あの方はいずれ他国の王族か有力貴族の元に
 嫁ぐ身。何故誰も教えないのです。」
 小言ともとれる言葉をぼやきながら、傍らに座ったままの彼女を見やる。
 その彼女は、娘が泣いて走り去ったのに何故か落ち着いている…どころか、全く動じずお
 茶を飲んでいた。
「あの子はちゃんと知ってますよ。というか、李順さんは有力貴族じゃないですか。」
「もっと他に釣り合う方がたくさんいるでしょう!」

 確かに身分的には誰も文句が言えない地位にいる。
 しかし何だって、30以上も年が離れた自分なのか。
 周りには彼女の年に見合った貴族の息子や有望な官吏が多数いるというのに。

「私は鈴花が選んだのなら下級貴族でも庶民でも応援するつもりですから。―――良いじゃ
 ないですか、今はまだ縁談の話もないですし。」
「…山ほど話は来ていたはずですが?」
 かつての陛下と同じように、太子にも公主にも話はキリなく来ていたはずだ。
 凛翔太子は自分で全部断っていたな、確か…
「……まさか。」
 嫌な予感を覚えて夕鈴殿の方を見ると、彼女は肩を竦めて苦笑いで答えた。
「だって、陛下と凛翔が全部断ってしまうんです。」

「……本当にあの方々は…」
 治世が盤石でなかった陛下の頃とは違うのだ。
 そんなにあっさり断っても良いことは何もないだろう。
「それに無理矢理決めてもあの子自身が突っぱねてしまいます。だって、私と陛下の子で
 すから。」

「……」
 何故だか納得してしまう自分がそこにいて、また深い溜め息が漏れた。




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まずは拍手に書いていた部分まで。
最初に考えていた頃より鈴花ちゃんは元気になりましたねぇ。
おっとり設定はどこ行ったって感じです。←今や影も形もない

さて、次は李順と陛下の話です。


2012.4.15. UP



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