初恋の行方 -4-




「ちょっと、李順! これはどういうこと!?」
 彼らに聞こえるのはマズいので、腕を引いて顔を近づけ小声で抗議する。

「お会いすれば気も変わるかと思いまして。」
 鈴花の噛みつくような剣幕にも、彼は常のようにしらっとして答えてきた。
 …それに、胸の奥が重く鈍く痛む。
「私の気持ちを知っててそれを言うの?」

 どうして他の誰でもなく貴方がこんなことをするの。
 私は貴方が良いの。どうしてそれが分からないの。

「貴方は他を知らないだけです。年相応のお相手と話してみれば、そちらが良いとお分か
 りになりますよ。」

 優しく言わないで。
 そんな、我が儘で困らせる子どもを諭すように言わないで。

 ―――これが貴方の答えなの?


「…これ、どういう基準?」
「家柄と本人の能力と、あとは人柄ですね。貴女の我が儘に付き合えるような相手を選ん
 だつもりですよ。」

 …全ては私のために。
 貴方はそういう人よね。分かってた。



「……分かったわ。」
 力が抜けて、李順から離れる。
 彼の気持ちが変わらないことはずっと前から知っていたけど。
「そんなに嫌だったのね。ごめんなさい、もう言わないわ。」

 泣きたくはなかった。
 だから、泣いてしまう前に背を向けた。









「…嫌ではありませんでしたよ。」
 呟いた声は、すでにいなくなった彼女には聞こえない。
 それは今までもこれからも、誰にも聞かせることはない本音。

 年を重ねるごとに美しくなっていく少女、それを自分のために磨いたのだと躊躇い無く言
 う。
 表も裏もなくストレートに好意を寄せられて、嬉しくはあっても嫌だと思うはずがない。

 彼女は全身で李順が好きだと告げていた。
 真っ直ぐに感情をぶつけてくるからいつも戸惑っていた。

 彼女の本気を知った今は、もう彼女の気持ちを疑っていない。
 ―――だから、手遅れになる前に突き放した。
 嫌われるのも覚悟で。もう笑いかけてくれないかもしれなくても。


「私といても、また同じことの繰り返しです。」
 亡き妻を思い出す。彼女と同じ思いはさせたくない。

 産まれたときから見守ってきた彼女に苦労などさせたくなかった。
 苦しみも悲しみも味わって欲しくなかった。

「―――私は、貴女の幸せを願います。」

 李順が願うのはそれだけだ。
























 一通り会話をして今日はお開き。
 気に入った相手を次に呼べば良いらしい。

 李順の目に適っただけあって、皆理知的で、それでいて優しい。
 …つまり、全部同じに見える。
 誰にも心惹かれることはなかった。

 あの場にいて、1番目を引かれたのはやっぱり李順だった。
 彼は鈴花の斜め後ろに控えていて、ちらりと視線を送ると彼らのことについて補足してく
 れる。

 …その前の出来事など無かったかのように。淡々と。
 公主と宰相としての立場を崩さない彼に、鈴花も公主として応えるしかなかった。






「鈴花? どうしたんだ?」
 部屋にとぼとぼと帰る途中で兄に出会う。
 顔色を見ただけで心配そうな顔になった彼はすぐに駆け寄ってきてくれた。
「兄様…」
 兄の前では感情は隠せなくて、広い胸に縋り付き顔を埋める。
「ダメなの… 李順以外はみんな同じなの…」

 他を知らないわけじゃない。
 …本性がバレるほど親しくしてる異性は碧家の3兄弟くらいだけど。

 他の誰にもときめかない。李順だけだった。


「でも、もう無理だわ…」
 完全な拒絶を示されてしまった。
 私のために他に男を用意し、その中から選べと言う。彼以外の誰かを。

 胸が苦しかった。痛かった。
 告げる前に拒まれてしまったことが悲しかった。

 ぼろぼろと涙が零れる。
 気持ちの行き場がなくなってしまって、どうすれば良いか分からなくて。


「鈴花…」
 そんな鈴花を兄は強く抱きしめてくれる。

 何も言わない兄は優しいと思った。
 何も言われたくない。今はどんな慰めの言葉も欲しくない。

 今はただ、思いきり泣きたかった。




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えーと、3年を待たずに鈴花失恋?
李順さーん!?Σ( ̄△ ̄;)
凛翔はちょこちょこ登場します。妹にはすこぶる優しい兄です。

次回は… ああ、いちゃつき夫婦の話ですね。←??


2012.4.17. UP



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