初恋の行方 -5-




 ―――しばらくして、鈴花と候補の1人との縁談が決まる。

 父も兄も渋い顔をしていたけれど、鈴花が譲らないと知ると諦めた。


「…本当にあの方で良いの?」
 そうして誰より鈴花の気持ちを知っている母には、心底心配そうに言われてしまう。
 今ならまだ間に合うと、そう言われたけれど。
「李順がわざわざ私のために選んでくれた人ですから。間違いはないでしょう?」
「鈴花…」
 頑として譲らない娘に、母は困った顔をしていた。



 ぶっちゃけ選んだ理由は、李順と同じでメガネをしていて、李順と違って優しそうだった
 からだ。

 ―――自棄になっている自覚はある。
 でも本当に誰でも良かった。李順以外は誰でも同じ。


 勝手に進んでいく縁談の話も、他人事のようにしか感じなかった。




















「…ほんと妙なところが私にそっくり。自棄になって何かやらかさないと良いけど。」
 寝台の上にぺたりと座って、夕鈴はふうと溜め息を吐く。
 横に寝そべる夫は夕鈴の髪を弄って遊びながらそれを黙って聞いていた。

 鈴花が今回の縁談が決まった相手に何も感じていないのは一目瞭然。
 選んだ理由だってあのメガネなんだろうなと、華南と2人で呆れたほどだ。

 このままで良いのかと何度か鈴花を諭してはみたけれど、意地になったあの子は何を言っ
 ても聞き入れない。


「だいたい李順さんは分かってないんです!」
 いつしか夕鈴の感情は、鈴花の心配から李順への怒りに変わっていた。
「あの子が変わったのは李順さんのためだったのにっ」

 あの子が李順さんのために努力をしていたのを知っている。
 あの子がどこに嫁に出しても恥じないような娘に育ったのは、全部彼のための努力だった
 のに。

 なのにあの人は、鈴花が1番傷つく方法で引き離したのだ。
 いくら何でも酷すぎる。怒りが沸くのも当然だ。



「陛下はこのままで良いんですか!?」
 怒りの矛先は、さらに何もしない夫へも向けられる。
 彼が一言否を唱えればこの話も破談となるのに、今回だけは彼はそうしなかった。

「鈴花が何を言っても聞かないんだ。君が止められないものを、他の誰が止められると言
 うんだ?」
 陛下は仕方ないという風にそう言って、軽く伸び上がり夕鈴の頭を引き寄せるとキスで反
 論を塞ぐ。
「んっ んん…ッ!」
 胸を押して逃げようとするけれど、離れようとすればするほど逆に深くなる。
 もう一方の手は腰に回って敏感な箇所を的確に撫でていき、反応を示す声は彼に飲み込ま
 れた。


「ふ…ぁ」
 力が抜けてしまったところでくるりと体勢を入れ替えられて、夕鈴の背は寝台に縫い止め
 られる。
「ちょ、陛下っ!?」
 まさかなんてものではない。彼の意志は明確だ。
 帯に手が掛かり、彼の体が覆い被さってくる。
「〜〜〜ダメですっ!」
 咄嗟に空いた手で降ってくる唇を塞いで留めた。
 このまま流されるわけにはいかない。
「もうっ すぐそうやって誤魔化そうとするんですから!」

 この手を使って夕鈴の思考までも溶かしてしまい、うやむやにされてしまうのはいつもの
 こと。
 でも今回はそうはいかない。大事な娘の将来がかかった話だ。

「―――私達の子は良くできた子達だ。」
 被せた手のひらに、ちゅっと音を立てて口付けられる。
 反射的に引きそうになったけれど、いつの間にか手首を捕まれていてそれはかなわなかっ
 た。
「心配しなくても大丈夫。」
「…?」
 確信を持ったそれを不思議に思う。彼は何かを知っているのだろうか。

「すぐに分かる。」
 にこりと笑んだ彼はどちらなのか判別がつきにくく、戸惑っている間に再びキスが降って
 きた。



 ―――後はいつも通り。


 ただ、彼の言葉だけがずっと頭の奥に残っていた。




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何してんだこの夫婦…何故か勝手にいちゃつきだしました(笑)
娘は失恋で半分自棄になってるのに ホントこの夫婦はっ

えーと、次は…って、もうあと2話で終わりですね。
鈴花が答えを出す回です。


2012.4.18. UP



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