[ 1.5 『恋の悩み』 ] 「あ、李順!」 その姿を見つけた途端、鈴花は凛翔を置いて駆けていく。 輝くような笑顔はあの男に向けられ、こちらを振り向くことはない。 「怖いカオになってますよ。」 「悪かったな。」 言われなくても分かっていると、隣の闇朱を睨み付ける。 嫉妬している自分の顔がどれだけ醜いのかも自覚しているが、それでも止められないから 仕方がない。 「あんなののどこが良いんだか…」 「殺すぞ?」 心からの溜め息付きで言われたので腰のものに手をかける。 鈴花は誰よりも可愛い。…苦しいくらいに。 「ハイハイ。人の好みはそれぞれですからね。」 殺気を向けても闇朱は悪びれない。 そんな相手にこれ以上何を言っても無駄かと思い、息を吐いて感情を納めることにした。 人の想いはどうにもならないものだ。 鈴花の想いが父より年上の男に向けられていることも、 …自分が妹を愛してしまったことも。 「……きっと、どんなにいい男でも私は許せないと思う。だから、相手は関係ないんだ。」 「つまり、結局のところ 公主が誰を選んでも構わないと?」 「人間的に問題なければな。それでも一度は難癖付けるだろうが。」 「難しいですねぇ。」 珍しく苦笑いなんてしている男を置いて自分も2人の方へと向かうことにした。 もちろん 邪魔しに行くためだ。 妹の気持ちは尊重したいと思っているが、だからといって黙って見ているつもりもない。 …残した男がどんな顔をしていたかなんて気にしていなかった。 * 「太子の感心する点は、自覚しても距離を置かなかったところかな。」 「―――置いたらそばにいられないからな。」 「っ!?」 独り言に返事が返ってくるとは思ってなくて驚いたが、隣を見て闇朱はさらにギョッとす る。 「…隠密相手に気配消さないでください、陛下。」 肩を落として呟けば、相手にニヤリと笑われた。 本気で気づかなかった自分が恨めしい。 「修行が足らんな。」 「ソウデスネ…」 初めて会ったときからこの人に勝てた試しはないし、今更勝とうとも思わないが。 それ以上の反論は諦めて、闇朱は自分の主に目をやった。 「実らないと分かっていて想い続けるのもキッツイですけど、見てる方もツライものです ねぇ……」 「そうだな。」 歯がゆい気持ちで呟けば、隣からも同意の返事が返ってくる。 彼の気持ちを知る大人はほぼ同じ気持ちなのだ。 他の誰かなら、彼はきっと愛した相手を手に入れて幸せになれた。 なのにどうして彼が好きになったのが実の妹だったのか。 「お后様はどうして平気なんですかね…」 「それは私も知りたい。」 「「………」」 しばしの沈黙の後、意図せず同時にため息が漏れた。 →次へ --------------------------------------------------------------------- ちょっと長くなったので、閑話のような短い話を。 自覚からしばらくしてですかね。鈴花がすでに恋してるので。 ちなみに次回は凛翔視点ではないです。 というか、凛翔視点って意外に少ないかも…(ぇ) 2018.1.2. UP