花を愛でる
      ※ 610000Hitリクエスト。キリ番ゲッター慎様に捧げます。今回も素敵イラスト付き☆
      ※ ちなみに50000企画「明けない夜、覚めない夢」(=内緒の恋人)設定です。




「お妃様は最近何をなさっておられますの?」

 この頃の紅珠の関心事は陛下との夫婦仲のことが多いけれど、時々後宮の―――というよ
 り夕鈴のことに興味を示すこともある。
 ただし、陛下に憧れた最初の頃のように後宮に入ることを前提に話すわけではなく、純粋
 に夕鈴を慕っての問いらしい。
 目を爛々と輝かせる紅珠を見ながら、夕鈴は可愛いとくすりと笑った。

「最近は…そうね、西国からの使者が今度いらっしゃるのは知ってるかしら?」
 主に掃除に勤しんでいたとは言えず、一番"妃"らしいものを挙げる。
 すると、流石"氾家の息女"はすぐに頷いた。
「はい。父や兄がその準備で忙しいと零しておりました。」
「それで、その方々の歓待の宴を開くのだけど――― そのための衣装を選んでいるところ
 なの。」
「まぁ…!」
 それを聞いた途端に彼女のキラキラが倍増し、辺り一面に花が舞う。
 どうやら今の言葉は彼女の興味を大いに引いてしまったらしい。
「もうお決めになられましたの?」
 何やら興奮気味に尋ねてこられ、些か引きながら夕鈴は「いいえ」と首を振った。
「それが、悩んでしまって…」

(…実際悩んでいるのは侍女の皆さんだけど。)
 そこはこっそり内心だけで呟く。


 どれだけ着飾っても良いという陛下のお達しで、彼女達はいつになく気合いが入りまくっ
 ているのだ。
 しかし、連日あれやこれやと着せ替えさせられているが、まだ彼女達は満足がいかないら
 しい。

 紅珠が遊びに来ないなら、きっと今日も1日それに費やされていたはず。


「そうですの…!」
 夕鈴が困った顔をすると、何故か紅珠はキラキラと目映いばかりの笑顔になった。
 そうしてさらに、勢い付かせて身を乗り出してくる。…ただし、その所作がものすごく優
 雅に見えるのはさすがだ。
「お妃様、私も是非その衣装選びに参加させてくださいませ。」
「え…? ………えっと、」
 夕鈴は別に構わないのだけど。
 けれど、実際選んでいるのは侍女さん達だ。伺うようにちらりと後ろを見やる。
「…あの、良いですか?」
 普通の妃なら侍女に確認を取るようなことはしないが、夕鈴はそうはできなかった。
 そんな彼女の控えめさを好ましく思う侍女達は、その問いに一様ににこりと微笑むことで
 応える。
「常に流行の先端を切り拓かれる方のご意見ですもの。是非ご覧いただきたいですわ。」
「ええ、是非、お願い致します。」

「―――では参りましょう。」
 答えを聞くやいなや、紅珠が嬉々としてすくっと立ち上がる。
 それに驚いたのは夕鈴だ。
「え、今から!?」
「お妃様、女を磨くのに時間はいくらあっても足りませんわ。」
「…そ、そう。」
 弟とさほど年の変わらない少女から女を説かれてしまった。
 けれど反論などできる雰囲気ではないので頷くしかない。


(世の女性は本当に努力しているのね…)

 何もしていない自分がきっと変なのだろう。
 陛下がそのままで良いと言うから、だからそれに甘えている。

 でも本当は――― 本当の後宮なら、妃がたくさんいて、皆が美しさを競い合っているは
 ず。
 そんな中にいれば、夕鈴はきっと彼の目の端にも入らない。
 今自分が彼の側にいられるのは奇跡のようなものだと、夕鈴は理解していた。


「腕が鳴りますわ。」
 おっとりとした見た目に反して意外に行動的な紅珠は意欲満々だ。
「お妃様は素材がよろしいのにもったいないと常々思っておりましたの。」
 侍女達もそれに一斉に頷いて同意する。

「陛下も唖然とさせるような、最高の仕上がりにしてみせますわ!」
 意気込んだ紅珠に周りからわっと拍手が上がった。
 夕鈴だけがその勢いについて行けずに困惑する。


(……やっぱり止めた方が良かったかしら…)
 今更ながらに後悔し始めてしまう。

 …もう、遅いとは分かっていたけれど。














「え、これ!?」
 そうして、紅珠と侍女達の熟考の結果選ばれた衣装はやっぱり嫌な予感が的中したもの。
 それを着て人前に出る恥ずかしさに最初は必死で固辞したのだけど。

 ―――その時 紅珠が言った、「陛下を見惚れさせたくはありませんか?」という言葉に
 負けた。


 大好きな人、私に「愛してる」と囁くあの人に見せるため。
 西国の使者達ではなく、陛下に見せるためなのだと。

 そう言われてしまったら、拒否する理由なんて消えてしまった。


「陛下に、見せるため…」
「そうですわ。」
 衣装を見つめて呟く夕鈴に、紅珠がにこりと笑う。
「陛下は何と仰るかしら…?」
「お任せくださいませ。陛下も言葉を失われるような装いに致しますわ。」
 気合い十分の侍女達に夕鈴も小さく笑んだ。

 そしてもう一度衣装へ視線を落とし、さらりと滑るその生地を撫でてから顔を上げる。

「…そうね。たまには良いかもしれないわ。―――お願いできますか?」
 やる気を見せた妃を前に、全員が応援すると笑顔で頷いた。



(…私もたまには驚かせたいわ。)
 小犬と狼がコロコロ入れ替わる彼の人の顔を思い浮かべる。
 あれに振り回されるのももう慣れたけど、それでも悔しいと思ったりすることもある。

(だから、良いわよね?)
 いつも翻弄されてばかりのあの人に、ほんのちょっとだけ意趣返しをしたいと思った。
















*

















 ―――赤かった空が藍色に染まる頃、歓待の宴が始まった。

 しかしまだ狼陛下最愛の寵妃は姿を見せていない。
 西国の使者達から時折視線を送られるが、黎翔は涼しい顔で無言を通した。


 準備に時間がかかっていると李順から連絡は受けている。
 その李順が怒っている様子はないので、彼も了承済みのことなのだろう。
 それが分かっていたから黎翔も特に慌てはしなかった。


 柔らかな風に花が舞う。
 その風流さに誰かが歌を詠み、楽の音色が僅かに変わる。

 ふと はぐれた花びらが黎翔の杯に舞い込む。
 取り替えようと動く周りを制し、花びらを浮かべたまま酒を口に含んだ。

「私の花が訪れるまでは、この花に慰めてもらうとしよう。」
 甘ったるい声音に対する周りの反応は様々だ。
 一番近くで聞いた李順は内心呆れているだろうが、寵愛を見せつけるためだと何も言わな
 かった。

 狼陛下の、ただ一人の妃への変わらぬ寵愛。
 今宵の宴の主旨の一つだ。

 ―――黎翔にとってはただ己の気持ちを正直に言っているだけなのだが。
 今、その真実に文句を言う者など一人もいない。




「お妃様の準備が整いました。」
 雲が晴れて満月に近い月が明るく輝きだした頃になって、夕鈴付きの侍女が現れてそう告
 げた。
 それは思いの外に響き、使者や大臣達の談笑の声も止む。

 ―――そうして、妃がいるであろう 侍女の後ろの帳へと視線が注がれた。


「待ちわびたぞ。」
 黎翔が手を振ると侍女は一礼して脇へと下がる。
 そして彼女が合図を送り、帳がゆっくりと上げられた。


「……?」
 皆が同じような表情になり、にわかにざわめきが広がる。

 開いた帳の先、―――そこには誰もいなかった。

 いるべき人物がいないことに皆が戸惑い 顔を見合わせる。
 視線はそこに集まったまま、そして再び沈黙が落ちた。

 黎翔も目を瞬かせて、愛しい恋人の不在を訝しむ。
 何かあったのだろうかと腰を浮かせかけ、李順に「陛下」と小声で呼ばれて制された。


「お妃様…?」
 侍女も戸惑いながら帳の奥に声をかける。
 どうやら夕鈴はそこにはいるらしい。

「……やっぱり、無理です…!!」
 静まり返った場に、夕鈴の震える声が響いた。
 は?と 大臣や使者達は目を丸くし、思わず吹き出しかけた黎翔は李順に睨まれる。

 それでも、あまりの夕鈴らしさに黎翔は頬を微かに緩めた。
 きっと涙目で真っ赤になっているのだろうと、表情までも想像できる。

 好きに着飾らせて良いと侍女に指示を出したのは黎翔だ。
 彼女はきっとそれに戸惑っているのだろう。

 ―――そんな夕鈴が可愛くて愛しくてたまらない。



「我が妃は本当に奥ゆかしい。」
 声に甘さを滲ませながらクスクスと笑う。
「今宵の月が明るすぎて隠れてしまったか。」

 ただ一人の妃へ寵愛を注ぐ狼陛下は妃にだけは甘い。
 彼女だからこそ、何をしても許される。


「…ならば、私が迎えに行くとしよう。」
 もう一度笑みを見せて、李順の制止を待たずに腰を上げた。





「―――妃よ。皆が待ちわびている。」
 手を差し出しながら、観念するようにと言外に言う。
 もうここまで来てしまったのだから今更逃げられない。
「う…」
 彼女もそれは分かっていたらしく、小さく唸った後でおずおずと手を伸ばしてきた。
 そうして白く小さな手がそっと黎翔の手に重ねられる。
 それをすかさず引いて、彼女を表舞台へと引っ張り出した。



 シャランと涼しげな音が鳴り、

 風に乗って甘い花の香りがふわりと香る。


「―――――」
 突如目の前に現れた天女に、黎翔は言葉を失った。



 普段より高く結われて晒された項、剥き出しの肩はなだらかなラインを描き、ギリギリま
 で見せた肌は透き通る白。
 桃色と若草色の衣は身体の線をはっきりと映し出し、時折覗く足首さえも艶めかしい。

 喉の奥が渇くような感覚に、ごくりと唾を飲み込んだ。



「…陛下?」
 不思議そうに呼びかけられて我に返る。
 今ここがどこだか一瞬忘れかけた。

「―――いや、君のあまりの美しさについ見惚れていた。」
「まあ。」
 狼陛下で甘い笑みを向ければ、プロ妃は先程の躊躇いが嘘のように扇の向こうから笑み返
 す。
 それを合図にしたかのように周囲も我に返ったかのようにざわめきを取り戻した。


「お美しい…」
「あれを出し惜しみなさるとは、陛下も人が悪い。」

 そのざわめきのほとんどは妃に関するもの。
 全てが褒める類のものではあるが、気分が良いものではなく眉を寄せる。
 不機嫌な様子に夕鈴が僅かに困った顔を見せ、それに何でもないと返すと彼女の手を引い
 た。

「―――皆様。」
 黎翔に促され、夕鈴が一歩前へ進み出る。
 彼女の鈴のような声に、盗み見るようだった視線が一気に彼女へと寄せられた。
「お待たせしてしまい申し訳ありません。引き続きお楽しみくださいませ。」
 李順が教えた通りの言葉の後、次に彼女は使者達へと微笑みを向ける。
 あまり喋るとボロが出るという李順の判断により、彼らには何も言わなかったが、それで
 十分効果はあったようだ。
 ぽぅと見惚れる者あり、口をぽかんと開けて呆けている者あり。
 誰も妃が遅れてきたことを咎める様子はなかった。

 ―――元々夕鈴を着飾らせたのは、使者達が遠回しに勧める縁談を避けるためだ。
 私には唯一の花がいればいい、他の花は不要だと。
 そしてその花は、他に引けを取らぬほど美しいと見せつけるためだった。


 私の花は誰よりも美しい。
 普段は控えめで隠れているが、花開けば大輪の華になる。

 また、内面からにじみ出る心の美しさはそれ以上。
 彼女以上の女など、そうそういるはずもない。

 今宵、彼らもそれを実感したことだろう。
 この後に及んで縁談を勧めるようなことはしまい。



「妃よ、こちらへ。」
 もう良いだろうと、彼女の手を引き自分の方へと向けさせる。
 夕鈴をあまり他の男達の視線に晒すのは面白くなかった。
「はい、陛下。」
 黎翔の思惑などにはきっと、彼女は全く気づいていない。
 素直に従ってこちらへと笑顔を向ける。
 それに多くの男が息を飲んだことに優越感を得て、黎翔は内心で昏く笑んだ。


 ―――この美しい花は、私のものだ。







 黎翔と夕鈴が揃って席に座ると楽の演奏が始まる。
 そして黎翔が合図をすれば、奥から舞姫達が現れて踊りだした。

 優美な楽の音、麗しき舞姫達の舞。
 明るい月が作る影が 場を幻想的に彩る。

「きれい……」
 夕鈴はそれに魅入りながらうっとりと呟く。
 扇で口元を隠しつつ ほぅと吐息を漏らし、ほんのりと頬を赤らめる。

 …その顔を私に向けてくれないだろうか。
 その熱い視線に見つめられたい。

 先程から彼女だけに視線を注ぎながら、黎翔はそんなことを強く願う。

 褥の上で見せるそれにも似た横顔に、強く鼓動が脈打つのを止められない。
 常より他の女など目に入らないが、今宵の夕鈴からはいつも以上に目が離せずにいた。


「――――――」
 そして、同時に感じるいくつもの視線。
 それは舞姫達を通り越して夕鈴へと向けられていた。

 狼陛下をも虜にする美しい花
 それを他の男共が放っておくはずがない。
 それくらいは予測していたことだ。

(…だが、面白くないな。)



「―――もっと近くへ。」
 おもむろに彼女の腰を抱いて引き寄せる。
 夕鈴は突然のことに少し驚いた様子だったが抵抗はしなかった。
 ここが人前であることを理解して、寵愛を見せつけているだけだと思っているのだろう。
 男共の視線にも気づいていないに違いない。

「……今宵の君はまた一段と艶やかだな。」
 耳元で甘い言葉を囁けば、彼女の肌がいつものように首まで真っ赤に染まった。
 それに気を良くしてもう少し攻めてみる。
「今すぐここから連れ去ってしまいたいくらいだ。」
「ッッ」
 耳元には熱い吐息を混ぜて低く掠れた声を注ぎ込み、剥き出しの白い肩をゆっくりと愛撫
 するように撫でる。
 ビクリと反応する彼女にほくそ笑んでさらに引き寄せた。
「…陛下、」
 それを勝負と捉えたらしい夕鈴はすぐにお妃スマイルで対抗してくる。
 面白いと腕の力を緩めれば、彼女はさりげなさを装って身を少しだけ離した。

 さて、彼女は一体何と言ってくるだろう。


慎様よりいただきました☆


「……そのようなことは、二人きりの時に仰ってくださいませ。」
 黎翔にだけ聞こえるように、囁くような声で彼女は恥じらいながら言う。
 ほんのり色付く肌の色は風に舞う花と同じ。


(…それは逆効果だよ、夕鈴。)
 仕草も言葉もこちらの理性を崩すには十分な破壊力だった。
 それが、元から君に溺れている男なら尚更。


「―――では、二人きりになろうか。」
「へ?」
 彼女が意味を理解する前に抱き上げ、李順には退席する旨を伝える。
 李順は単に宴に飽きただけだと解釈したらしく、ため息付きで了承された。

「陛下?」
 ざわざわと戸惑いを隠せない周囲に、狼陛下はいつになく上機嫌に気にするなと告げる。
「皆は引き続き宴を楽しむと良い。私はこれから妃の可愛らしい願いを聞かねばならん。」
 察したらしい男共は赤くなったり視線を逸らしたり顔を顰めたり、実に分かりやすい反応
 を返してくれた。


「わ、私は何も言ってませんっ」
 小声で訴える夕鈴の言葉は無視する。
 今更抵抗されてももう遅い。黎翔の箍を外したのは彼女自身だ。

「二人きりの場所で、じっくり愛でてあげるよ。」
「〜〜〜!!?」



 ―――そうして二人きりになれる場所へと彼女を連れ去った。




2013.3.28. UP



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お題:イラストから連想する話♪

イラストを見た瞬間に、「なんて脱がせやすそうな…!」と思ったのは内緒です☆
この後きっと美味しくいただかれてしまったに違いありません。

最初はオリキャラ出そうと思ったんですが、某御方に似てきたので却下。
どうせならと思って紅珠にしました〜
なんか最近の紅珠はパワフルですよね。特に巻物の辺りからww

後半は陛下視点で、どこまでもベタ甘な話を。
もう慎様の夕鈴が可愛すぎて、エロすぎて!←!?
陛下よりむしろ私が暴走しました(笑)
見惚れる男共に「これは私のものだ」アピールすると良いよ 陛下!がコンセプト。…かもしれない。
セクハラです、陛下。でもこれ恋人同士だから良いのか。
恋人になってから陛下の触れ方に躊躇いはありません。

慎様、今回もありがとうございますvvvv
私が毎回イラストイラスト叫ぶので、嫌だと思われてないか心配です…
だって、好きなんですもの!!(告白か)
……叱責や苦情はいつでも受け付けております。




※ …で、続きのイラストをもらってしまいました♪
  ちなみにR15指定です〜

→その後へ
 


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