※ 570000Hitリクエスト。キリ番ゲッター雪様に捧げます。
      ※ ちなみに女装してます。え、誰がって、二人ほどww




「―――では、一つ条件を出します。」

 人差し指を立てた美女が艶やかな笑みを浮かべる。


「それを飲んでいただけるのなら、こちらも考えましょう。」








    花よりも美しく 1
「…というわけで、長には貴女一人で会ってもらいます。」 「え!?」 メガネを光らせた鬼上司からそんなことを突然言われて夕鈴は驚いた。 そして、話を聞けば聞くほど顔が青褪めていく。 李順さんの説明によると、現在、流通の新規ルートの開発のために国外の商団との取引交 渉をしているのだという。 彼らは流浪の民で自国を持たないが、それ故に幅広い人脈を持っているらしい。 そして彼らはとても慎重で、こちらが出した好条件を保留した上で一つの条件を提示して きた。 ―――"狼陛下に会う前に、唯一の寵妃に会いたい。"と。 「そ、そんな重大な仕事をバイトに任せて良いんですか!?」 本物の妃なら有りなのかもしれないが、夕鈴はただのバイトだ。 良いのかと大いに不安になる。 「交渉を進めるためには妃に会わせることが前提なので仕方ありません。」 「…そんなに良い相手なんですか?」 李順さんの口振りからしてもその意気込みは伺えるけれど。 「西との交易には欠かせない相手です。…しかし、今代当主はもの凄い男嫌いの女性なん ですよ。」 「え、女の方なんですか?」 夕鈴はそっちに驚いた。 "長"というくらいだからてっきり男性だと思っていたのだ。 (ひょっとして、おばば様みたいなやり手の女性なのかしら?) それだったらあり得るかもしれないと思った。 おかげで夕鈴の中の"長"のイメージはすっかりおばば様になる。 「その"長"が、私になら会うと言ってきたんですね。」 「ええ。こちらとしてはどうしても繋ぎたいのでこの条件を受け入れたわけです。」 (やっぱり、大きな仕事のような気がするんだけど…) おばば様と向かい合って話すイメージが浮かぶ。 …ちょっと怖いかもしれない。 「意図が分からんな…」 そう呟いたのは自室の文机に座っていた陛下だ。 彼の前には今日も書簡が山と積まれている。 そのせいか、あんまり機嫌はよろしくないらしい。 「妃からこちらの情報を聞き出すつもりなのかもしれませんし、いつものように当たり障 りない会話で乗り切ってください。」 夕鈴の仕事は"何も知らない 考えてない、ただ狼陛下に愛される妃"を演じることだ。 だから、紅珠との時も瑠霞姫の時も深い話は一切しない。いつも誤魔化せと言われている。 今回も同じようにやれと言われればやるしかない。 (でも、おばば様 か…) 瑠霞姫も紅珠も好意的だったからできた部分もある。 しかし今回は異国の商団の長。演じきれるかしらと少し不安に思った。 「…嫌なら止めとく?」 小犬に戻った陛下が心配そうに尋ねてくる。 どうやら夕鈴の表情の変化に気付いたらしい。 ―――優しい人だと思う。 こんな風に優しい人だから、この人の力になりたいと思う。 だから、大丈夫だと言って握り拳を作ってみせる。 「いえっ これも妃のお仕事ですから、しっかりやらせていただきます!」 陛下はまだ何か言いたそうにしていたけれど、李順さんが「良いでしょう」と頷いたので それ以上は言われなかった。 * それからまた話し合いが進み、長とは王宮の庭園にある四阿で会うことになった。 今回は陛下も李順さんもいない。対応はいつも通りで良いと言われても、初めて会う相手 だから緊張してしまう。 何てったって相手は"おばば様"だ。 「本日はこの者達をお連れください。」 準備を終えた夕鈴の前に、李順さんが数人の女官を連れてきた。 それを珍しいことだなと思いながら、相手が相手なので何か理由があるのだろうと一人納 得する。 ほとんどが知らない顔だけれど、その中には女官長もいたからちょっと安心した。 きっとフォローのために入れてくれたのだろう。 「―――それではお気をつけて。」 表面上は柔らかい口調でありながら、その後ろには(絶対余計なことをするな)的なオーラ が見え隠れしている。 感情にまかせて突っ走る癖に自覚があるだけに何も言えない。…元々鬼上司には何も言え ないけれど。 「では、行って参ります。」 表情だけは鉄のお妃スマイルで乗り切り、お妃バイトの任務を全うすべく四阿に向かった。 (わぁ…) 本日のお客様―――もとい、"長"と対峙した夕鈴は思わず感嘆の息を漏らしてしまった。 一応扇で隠してはいるものの、紅潮した頬や輝く瞳までは隠しきれていない。 (すっごい美人さん…!!) 勝手におばば様を想像していただけなのだけれど、紅珠や瑠霞姫にも劣らない美女だった ことに心底驚かされた。 しかし、彼女の王宮に似合うきらびやかな美しさとはまた違う類のもの。 生命感溢れる伸びやかな四肢と、全く隠すことなく大胆に見せる豊満な肉体。 日に焼けた肌さえも彼女の健康的な美しさを引き立てる。 夕鈴は向こうの視線も気にせずに、見慣れない種類の美女にただただ見惚れていた。 「―――お妃様。」 艶やかな紅色から軽やかな音が紡がれる。 そうして照りつく太陽のような鋭い瞳が和らいだ。 「そんなに緊張されないでください。」 「ぇ!? あ、はい…」 実は見惚れていましたとは言えずにもごもごと言葉を濁す。 恥ずかしくて扇の後ろに隠れてしまうと、小さく笑う声がした。 「狼陛下のご寵妃とお聞きしましたが… 想像していた方と違って驚きました。」 「よく言われます… すみません…」 だいたい最初はみんな同じ反応だからもう慣れた。 どうせ美人じゃないですよー 期待に添えなくてごめんなさいねーと内心でふてくされる。 全ては陛下の過剰な演技のせいだ。 変にベタ褒めするから、"妖艶な美女"とか実体とかけ離れた妃像が出来上がってしまうの だ。 「そのように卑下なさらないでください。可愛らしい方だと言ったのです。」 しまった。どうやら表情に出ていたらしい。 (李順さんにバレたらまた小言を延々と聞かされる!!) さっと青くなる夕鈴の前で、相手はクスクスと笑った。 「私は可愛らしい方が好みですわ。」 「え… あ、ありがとうございます…?」 お礼を言うのは違うのかもしれないが、何を言えば良いのか分からない。 これはひょっとしてフォローされてしまったのだろうか。 「今日お妃様に会いたいと申し出たのは、確かめたいことがあったからなのです。」 「…確かめたい、こと?」 「はい。実は―――」 ダンッ 「「!!?」」 鋭い音を立て、二人の間の卓に矢が刺さる。 二人の髪を軽く浮かせるほどの風―――ギリギリの至近距離を狙ったものだ。 「なっ」 こんな時に刺客が!?と立ち上がりかけた夕鈴の肩を誰かが押し戻す。 さらに女官の一人がひらりと夕鈴達を守るように前に立った。 (あの立ち方、どこかで見たような…) 女性にしては広い背中に既視感を覚える。 見た目は可愛らしいのに、どこか違和感がある不思議な感覚。 「―――…」 クスリと笑った"彼女"が腕を振るとひゅんっと音を立てて鞭がしなった。 そして、それもまた夕鈴には見覚えのあるもの。 (まさか…) 楽しげな笑みを見せる横顔がちらりと見えて、夕鈴はそれを確信する。 「こ―――」 「―――夕鈴は動かないでね。」 「え…?」 耳元で囁いて、夕鈴の肩を押さえ込んでいたもう一人もまた前に出る。 すらりと細身の剣を抜いて、その人も鞭を持つ"女官"の隣に並んだ。 (今の、って……) その声を、夕鈴が間違うはずがない。 時に胸を締め付け、時に夕鈴を翻弄する声だ。 どうして今まで気づかなかったんだろう。 緊張していたせいもあるだろうけれど、あまりに違和感なく溶け込みすぎてて本当に気が ついていなかった。 「お妃様」 女官長に耳打ちされて、夕鈴はこくんと頷く。 これも今の私の仕事のようだ。 「その者達を捕らえなさい!」 応えの代わりに、二人の"女官"は現れた刺客の中へと飛び込んだ。 二人の優秀な"女官"の働きにより刺客はあっという間に全員捕らえられた。 裾が長く動きにくい衣装をものともせず、二人の動きは実に鮮やかでみんな見惚れていた ほどだ。 ―――確かに綺麗だった。 (ええ、二人ともとっても綺麗だわ。その容姿もね!) 気付かなければ一緒に見惚れてたんだろうけれど、気付いてしまったから夕鈴はちょっと 微妙な気分だ。 警備兵達が駆けつけてきたときにはすでに全て終わった後。 彼らは首を捻りながら刺客達を牢へと引っ立てていった。 →2へ 2013.5.23. UP
--------------------------------------------------------------------- 5/31) ふぅ、ようやく前後編に分けました。長すぎたので…


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