秘密を知る日 2




<鈴花・七歳>


「お母様!」
 父と兄の姿が見えなくて探している途中で、四阿でお茶を飲む母を見つけた。
 卓の上にはいくつかの書簡が置いてあるので、どうやら仕事の小休憩中らしい。

「あら、鈴花。どうかした?」
 軽い音を立てて茶器を置いた母が少女のように笑いかける。
 そこへとたとたと走り寄ると頭を撫でられた。それをしばらく堪能してから顔を上げる。
「あのね、お父様と兄様は?」
 探しているのに見つからないと言うと、少しだけ困ったような顔をされた。
「男同士の秘密のお話ですって。」
「ふーん?」
 何の気もないふりをして返事をしながら探すことは止めて、ついでとばかりに母の膝によ
 じ登る。
 普段は父に取られることが多い場所を独り占めできるチャンスは逃さない。


「今日は何の日?」
「え、そうね… 今日は、ちょっと特別な日。」
 さっきと同じ困った顔で優しく頭を撫でてくれる母の顔をじいっと見上げる。
 そして、そこで「やっぱり」と思った。


 ――― 今日もいつもと変わらない朝のはずだった。
 両親は相変わらず仲良しで、周りはそれをにこにこと見てて。

 でも、本当は、その時からずっと感じていた。
 お父様もお母様も兄様もいつもと雰囲気が違っていたから。
 …それに気づいたのは、たぶん私だけだけど。


「…かなしい日?」
「えっ?」
「お父様も兄様も、さっき怖い顔してた。怒ってるわけじゃないけど… どこ行くのって聞
 けなかった。」

 その背中を追いかけることもできなくて、その場で呆然としていたら見失ってしまった。
 我に返って急いで探したけれどもう見つからなくて、その代わりにここで母を見つけたの
 だ。

「―――お母様は悲しそうなの。」
 ぎゅっと母の胸に縋り付く。
「……鋭い子ね。」
 母の手は変わらず優しい。…それに意味も分からず胸が痛んだ。


「そうね、今日は悲しい日だわ。」
「…ッ」
 びくりと震える背中を母の腕が包み込む。
 宥めるように抱きしめられて、詰めた息をホッと吐き出した。


「…鈴花。私達は女同士で秘密の話をしましょうか。」
 頭の上から降ってくるのは優しい母の柔らかい声。でも、少しだけ悲しみが滲んだ声。

「二人には秘密にしてね。」
「うん…分かった。」
 子守歌でも歌うように背中をぽんぽんと叩きながら、母はゆっくりと話し始める。


「私は、二人が秘密にしていることを知ってるの。」







→ 一年後・それぞれの想い




2013.9.30. UP



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凛翔が知った日からちょうど一年後に鈴花が知る。
そして二人が秘密を共有するのが「祈りの日」
最後は「祈りの日」直後で、浩大と李順さん視点でそれぞれお送りします。

 


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