※ 700001Hitリクエスト。キリ番ゲッターmikan様に捧げます。
      ※ ちなみに2人が結婚してる前提の未来話です。未来夫婦部屋書き下ろしSS「祈りの日」前提の話。





「夕鈴を守るためとはいえ―――… 君を守れなくて、すまなかった。」

 小さな墓石の前にひざまずき、黎翔は花を手向ける。





「貴方を守れなくて、ごめんなさい。」

 四阿で一人たそがれ、夕鈴はぬけるような青い空に呟く。








 ―――今日は、一つの命が消えてしまった日。

 王と后に深い傷を残した日。



 二人はそれぞれの場所で、今は亡き 小さな命に思いを馳せる。










    秘密を知る日 1
<凛翔・八歳> 「父上、どちらに行かれるのですか?」 先を行く父に声をかけるも返事は返ってこない。 いつもなら歩幅を合わせたり、時々振り返ってくれたりするのにそれもない。 ただ黙々と足を進めるその背中に常と違う雰囲気を感じ取り、凛翔はそれ以上の言葉を飲 み込んだ。 父の手には白い花束。 それが何を意味しているのか凛翔には分からない。 父の足が止まった場所は、普段足を踏み入れることのない竹林の奥。 自分達の他には誰もおらず、風が葉を揺する音以外聞こえない。 こんな場所があったのかと凛翔が辺りを見渡していると、父は膝を折って小さな碑の前に 花束を添えた。 (これは―――墓碑?) だが、それにしては質素で小さい気もする。 何も書かれていない石碑は何故こんなに隠れた場所にあるんだろう? 目を伏せ黙する父に倣い、凛翔も隣に座って目を閉じる。 けれど何を思えばいいかが分からなかったから、とりあえず自分も両親も妹も元気ですと だけ伝えた。 凛翔が祈り終えてもまだ父は動いておらず、何をそんなに祈っているのか不思議に思う。 黙って見つめながら待っていたら、ようやくこちらを向いてくれた。 「―――お前はいずれ私の後を継ぐ。」 そう言う父は、父親ではなく王の顔。 真っ直ぐに注がれる自分と同じ色の瞳に心臓が跳ねあがる。 「立太子はまだ先だが、そのための教育もこれから本格的になる。その意味は分かるな?」 「…はい。」 自分は今、覚悟を問われている。 何故今かは考えない。 迷うべくもなく、その覚悟とともに深く頷いた。 「―――凛翔。」 ぽんっと頭を撫でた手が、同じように石碑を撫でる。 父の声も表情も狼陛下のまま、けれどその奥には悲しみが混じって見えた。 「父上…?」 「次期王としてお前に伝えておくことがある。……これは、夕鈴も知らないことだ。」 母も知らないことを教えられる… 何を言われるのかとさらに緊張感が増す。 王だけが知り得る機密か何かだろうか? それとも知られざる歴史の闇か―――? 「凛翔。お前には、鈴花の他にも"兄弟"がいる。」 「……え?」 告げられたことはあまりに予想外だった。 「正確にはいた、だか。今はここに眠っている。」 父がもう一度撫でたそれに視線を移す。 ここに、つまり、それは…… 「ああ、一応言っておくが、この子も私と夕鈴の子だから誤解するな。」 「…? ですが、母上は知らないのでしょう?」 子を産むのは母親だ。なのに、母がその存在を知らない。 それは一体どういうことなんだろう。 「夕鈴は妊娠していたことも知らない。―――そうするように私が老師に言った。」 一瞬だけ苦しげに表情を歪めた父は、すぐに施政者の顔になって凛翔を見る。 「お前には全て話しておこう。……私が守れなかった命の話を。」 → 一年後・鈴花 2013.9.30. UP
--------------------------------------------------------------------- 長くなったからではなく、時が飛ぶのでページを分けました。 何に時間がかかったのかが非常に謎ですが。


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