※ 840000Hitリクエストです。キリ番ゲッター慎様に捧げます。2には素敵イラスト付き☆
      ※ ちなみに50000企画「明けない夜、覚めない夢」(=内緒の恋人)設定です。




「―――武術大会?」
 李順から書類を受け取りながら、黎翔は興味を惹かれた単語に顔を上げた。
 変わり映えなくつまらない書類仕事より、よっぽど面白そうな予感がしたのだ。
「ええ、両将軍からの要望です。軍の士気を上げるために行いたいとのことです。」

 他の書類は端に置き、渡されたその報告書を机上に広げる。
 なかなか子細に決められていて、彼らの本気を知った。

「ほぉ、なかなか面白そうだな。優勝者には褒美もとらせよう。」
 春の宴の時とは打って変わって、あっさりと承認の印を押す。
 進めて構わないと言う黎翔は上機嫌で、嫌な予感がした李順は一応釘を刺しておくことに
 した。
「陛下。参加しようなどと考えないでくださいね。」
「…分かっている。」
「今の間は何ですか。」
 やっぱりその気だったのかと李順は呆れる。
 いくら武に長けているからと、王が試合に出るなどできるはずもない。

「我慢してください。…夕鈴殿を隣に座らせますから。」
「ならば良い。」
 あっさりと諦めた黎翔に別の不安を感じ、李順はもう一度深く息を吐いた。














    お妃様とご褒美 1
「おい、聞いたか!?」 「ああ!」 陛下からの許可が下りたということで、軍内は一気に色めき立った。 自分達の鍛錬の成果を十分に発揮できる場が設けられ、しかも優勝すれば褒美がもらえるという。 誰もがやる気に満ち溢れ、自由参加のはずがほぼ全員参加希望という事態にまでなってい た。 「てか、褒美かー 何だろうなー」 褒美は陛下から直々にいただけるらしいと聞き、その中身も気になるところだ。 「酒一年分とかないかなー」 「そんなん みんなで飲めばすぐ終わりだろ。」 酒好きの一人が呟けば、隣の男が即座にツッコミを入れた。 軍は体力自慢の男達の集まりだ。確かにそれも一理ある。 「じゃあ、何が良いんだ?」 「…おれは嫁が欲しい。」 「彼女でもいい。」 「……それって褒美か?」 今度は独り身連中から出た言葉だ。それに既婚の男が呆れて言う。 新婚ほやほやで現状に満足している彼には全く褒美にはならないからだ。 「お前にはわかんねーよ。」 「幼馴染と結婚なんてうらやましーぞ コノヤロウ。」 一斉に文句を言われ、既婚男は悪かったと口を噤む。 確かに自分は少数派だ。 「右も左も男しかいねー。出会いの場すらねーからな。」 「あー 潤いが欲しいーっ」 褒美の話がいつの間にか女の話に変わっていた。 それにほとんどが気づかず、気づいている既婚男もまた責められてはかなわないと放置。 そのおかげで、話はずれたまま進んでいく。 「野太い男共の応援より黄色い声援が聞きたいっっ」 「きゃあ素敵!とか言われたい!」 寂しい男達の夢は膨らみ続け、1人冷静な既婚男だけが「素敵はないだろうなぁ」と心の 中でツッコミを入れる。 「そうだ。お妃様はご覧になられるのか?」 1人の男がふと気づいて聞いた。 「陛下が来られるというのならその可能性は高いな。」 「他の女性は目に入らないほどのご寵愛のようだからな。」 「ということは、後宮の女官とかも来るということか!?」 おおっと、男達の顔が期待に輝き出す。 「女性に見られているというだけでもやる気が出るぞ!」 これを機にお近づきになれたらいいなーなんて。 暗くなりかけていた場が途端に明るくなる。 「………」 そしてそれを見つめる既婚男の目は、もはや可哀相なものを見る目になっていた。 …ただし、浮かれた男達には幸か不幸か見えていない。 「なー 賞品はお妃様からもらったりとかできねーかな?」 「何それめっちゃやる気出る。優勝狙う。」 「近くに行くと花の香りとかすんのかな!?」 「汗の臭いとかじゃなくて!」 「手とか触れたりしないかな!?」 「さりげなさを装ってちょっとだけでも!」 「…………」 それ以上聞くのは可哀相で聞いていられず、既婚男はそっとその場を去った。 「―――とのことですが。」 狼陛下唯一の花から褒美を受け取りたい。との旨を、李順はどうでも良いことのように事 務的に伝えた。 この件に関して、どっちの結果でも彼にとっては損も得もないことだからだ。 「まあ、普段女性と接する機会なんて皆無でしょうからね。あんなんでも喜ばれるんじゃ ないですか。」 「…相変わらずお前はさりげなく失礼だな。」 あんなに可愛い兎を捕まえて…と呟く黎翔を無視し、李順は許可を出して良いですかと先 を促す。 断ると面倒なことになるのは予想がつくし、李順的にはさっさと次に進めたいところだ。 「私としてはお金がかからないのは大歓迎です。」 機嫌悪く考え込んでいる黎翔も、断ったときのリスクを考えれば許可を出した方が楽なの は分かっている。 ただ、夕鈴に対してだけ狭量になる自分がいるだけだ。 「……徐克右を呼べ。」 しばし後、一つの妥協案を見つけた黎翔は1人の男にあることを命じることにした。 「いきなり無茶言いますね…」 狼陛下お気に入りの―――苦労性の彼は、陛下からの命を聞いてそう答えたという。 * キンッ 剣同士がぶつかり合う甲高い音が会場に響き渡る。 よく晴れた空の下、国王とその妃の臨席のもと、武術大会は盛大に幕を開けた。 「それまで!」 勝敗が決すると地が鳴るような大きな歓声がわき起こる。 会場は熱気に包まれ、彼らのテンションも最高潮だ。 ―――そして、 「素敵! あっという間に勝たれましたわ!」 「お強い方って惹かれますわね。」 国王夫妻が観戦する脇では、後宮の女官達がはしゃぐような声を上げていた。 主催者側からの要望により、今回は妃の他にも女性が観戦している。 大会を観戦したい、もしくは強い男が好きという女官を募り、集まった者の中から女官長 が厳選した女性達を連れてきたのだ。 「…では、」 「ええ。」 彼女達は視線を交わして頷き合い、 『皆様 頑張ってくださいませ〜!!』 と、黄色い声援を送る。 それに応え、おおー!っと野太い歓声が上がった。 「すごいです!!」 一方夕鈴もきらきらした目で試合に魅入っていた。 「皆さんお強いですね!」 試合が終わる度に、興奮冷めやらぬ雰囲気で隣の黎翔に語る。 …今すぐ彼女の身体を引き寄せて、その口を塞いでやりたい等と考えているとは気づかず に。 「陛下、聞いてますか?」 適当に返事をしていたのがバレたらしい。 可愛く頬を膨らませながら、身を乗り出して詰め寄ってくる。 そんな無防備な兎をすかさず腕の中に捕まえて、自分だけしか見えないようにしてやった。 「―――私にも、その熱い視線を向けてもらいたいものだが…」 後頭部に手を回し、額同士がくっつきそうな近さで甘い言葉を囁く。 そして、大きな瞳をまん丸に見開いて自分を見つめる彼女に満足する。 もうこのまま連れ去ってしまっても良いかななんて、そんなことを思っていた。 「何を言ってるんですか! これに興奮しないわけないじゃないですか!」 けれど、瞬きの間にまん丸が一気に逆三角になり、え、と思う暇もなく思わぬ反撃を受け た。 そしてその勢いに呆けている間に、兎は腕の拘束から逃げてしまう。 「もうっ 邪魔しないでください!」 プイッとそっぽを向いた彼女は、タイミング良く始まった試合に目を向け、それっきり 構ってくれなくなった。 振り向いてもらおうと手を伸ばしても、「離してください」と素っ気なくされるだけ。 行き場をなくして手のひらを見つめてため息をつく。 「…陛下、駄目です。」 行動を起こす前に李順から制止を受ける。 まだ首を動かしただけなのに。 「………何故分かった。」 「我慢してください。」 じとりと睨めば呆れた顔で首を振られた。 彼女が試合に夢中なら、こちらに振り向かせるには自分が試合に出るしかないと思ったの だが。 そんな浅い考えは李順には筒抜けだったようだ。 「………」 諦めて座り直し、彼女の腰を引き寄せようとしたら避けられた。 一切こちらは見てないはずなのに。 「ああっ そっちですそっち!!」 「…………」 女官達と一緒になって夕鈴も「頑張ってください!」と声を張り上げる。 さらに、それに選手が応えると、一緒に拳を振り上げたりして。 兎から放置された狼の機嫌は急降下。 「―――… 覚悟しておけ。」 試合に夢中の横顔に、低く低く呟いた。 →2へ 2014.6.30. UP
--------------------------------------------------------------------- 変な切り方ですが、長いのでここで一旦一区切り。 素敵挿し絵は後半ですよーvv


BACK