花咲く 1
      ※ 1100000Hitリクエストです。キリ番ゲッターyuki様に捧げます。
      ※ 66話から派生したパラレル「花舞う」の続きです。
      ※ ☆夕鈴視点、★黎翔視点、でお送りします(笑)




☆

「お会いできて光栄ですわ、国王陛下」
 今日も瑠霞姫様は麗しい。
 斜め後ろに控えながらも、そのキラキラしいオーラを肌で感じる。

 ―――そして、それに応える国王陛下もさすがは瑠霞姫様の甥なだけあって、直視できな
 いくらいの美貌の持ち主だった。



(いや、立場的に元々直視できないんだけど)
 すました顔の下で、夕鈴は自分にツッコミを入れる。
 今日の夕鈴は瑠霞姫様の侍女という立場だ。頼りない父から離れられない母の代わりに付
 いてきていた。

(すっごい綺麗な人だなって思ったのよねえ…)
 "舞姫"として言葉を交わしたときのことを思い出す。
 楽麗館でからかわれて迫られたときも、王宮で散策しながら話したときも。女の自分が負
 けたと思うくらい綺麗な人だと思っていた。


「―――せっかくの十余年ぶりの帰国、懐かしい面々とゆっくり旧交を深めるのがよろしか
 ろう。叔母上」
「お心遣い感謝致しますわ。」
 場は和やかに、会話は穏やかに進められていく。
 一瞬だけ刺さるような視線を感じた気がするけれど、気のせいだと思うことにした。















★

 再会は思った以上に早く、そして予想外の形で叶った。


 ―――数ヶ月前に出会った、本当の名も知らない少女。
 軽やかに舞う姿に惹かれてその姿を追いかけるようになり、声を交わして完全に落とされ
 た。

 再会の証に贈った髪飾りは、自分を忘れて欲しくなかったから。
 忘れなければ、優しい少女はまた会いに来てくれるだろうと思っていたから。

 そしてまた会ったなら、そのときは―――逃がさないと、そう決めていた。




「…彼女をつれてきていないのはわざとですか?」
 先程は公の場でだったので、次は個人的にと思って叔母上と茶会の場を設けた。
 …というのは表向きで、単に彼女に会いたかったのだ。

 ―――しかし、その場にあの少女はいなかった。

「何のことでしょう?」
 黎翔の問いは鮮やかな笑みで流される。
 が、あの読めない表情が絶対に全て知っての態度だと分かるのは血縁だからだろうか。
「先程貴女の左に控えていた栗髪の侍女のことです。」
 回りくどく言っても意味がないと考えて、はっきりと彼女のことだと示してやる。
 いい性格をしている叔母上に遊ばれる気も、焦らされてやる気もないのだ。
「あの子が何か、陛下のお怒りを買うようなことをしまして?」
「いえ。ただ、あまりに早い再会に驚いたので。」
「あら、どなたかと間違えておりませんか?」
 確信を持って伝えても彼女は笑顔を崩さない。口元の扇がはらりと揺れる。
「まさか。私が彼女を見間違えるはずがない。それに、私が贈った髪飾りをしていた。」
「よく似た違うものとは思いませんの?」
「それは有り得ない。あれは、私が彼女のために、彼女に似合うと思って作らせたもの。」

 あれは初めから彼女のために用意したものだった。
 石の一つまで自ら選んだのだ。彼女以外に似合うはずもない。


「……つまらないくらいにあっさりバレたのね。」
 ふぅと一つ息を吐いて、叔母上は笑顔の仮面をあっさり外した。
「叔母上。」
 どういうことだとその先を促す。

 彼女はおそらく初めから叔母上のものだった。
 それが何故この国で、旅の小楽団の舞姫などしていたのか。


「―――あの子の母親と私はね、主従を越えた親友同士なの。私が嫁いだときも、家を捨て
 て付いてきてくれたのよ。」

 自ら選んで愛した男のもとへ嫁いだが、風習も違う他国へ行くのは不安もあったこと。
 それを支えてくれたのが彼女の母親だったこと。
 その娘である彼女を、叔母上も自分の娘のように思っていること。
 そう語る叔母上の柔らかな雰囲気と表情は、それを事実だと伝えていた。

「白陽国に行くのはあの子の昔からの夢だったのだけど、旅の小楽団を提案したのは私。
 どうせなら表向きだけじゃなくて裏まで見て欲しいと思って。」
 突飛な発想もこの叔母上の思いつきなら納得がいく。
 だからといって舞姫という身分は些か危険な気もするが。しかしそうでなければ彼女に会
 うことがなかったという事実もあるから心中複雑だ。
「帰ってきたときの表情は良かったから、きっといい経験をしてきたのね。」
「…つまり?」
「だからね、あの子が貴方に言ったことに嘘はないの。違うのは旅の小楽団なんかいないと
 いうことくらいかしら。」

 ああ、つまり叔母上は彼女は悪くないと言いたかったのか。
 別に怒っているわけでも責めているわけでもないからそこは構わないのだが。

「それは気にもしていないので安心してくれていい。」

 そう、気にしているのはそこではない。
 むしろ再会を喜んでいるのだ。

「誤解も解けたのだから、彼女に会わせていただきたい。」
 今度はこちらが笑みを向ける。
 しかし叔母上はすぐに頷いてはくれなかった。
「何故? 陛下があの子に会う意味が?」
「それを叔母上が気づいていないとは思わぬが?」
 笑む自分と探るように見てくる叔母上の視線が絡む。
 その視線には狼陛下への怖れもなく、見定めているようにも責めているようにも見えた。

「―――あの子には幸せになってもらいたいの。だから、軽い気持ちで手を出されると困る
 のよ。」
 どうやら叔母上は彼女を"娘"として思った以上に溺愛しているらしい。

「では、軽い気持ちではないとしたら?」
「あら」
 それは予想外だったのか、叔母上の目が瞬いた。





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2017.5.6. UP



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ちょうど書き直してるところでのリクエストだったので急いで仕上げました☆
今回、視点をわざと変えて遊んでます。分かりにくいので☆★で区別してみました。

2年近く前の話だと言うことにガクブルしてますが。
それよりも、更新せずに1年経ってたことにもっとガクブルしてますが…
 


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