※ 44444Hitリクエスト、キリ番ゲッタームーミンママ様へ捧げます。
      ※ ちなみに、今回も2人は結婚してる前提の未来話です。




 狼陛下のご正妃にして唯一のご寵妃。
 その彼女が男御子を出産された―――― それはここ白陽国にとって大きな事件だった。
 子が産まれなければと妃の座を狙っていた貴族達は最後の望みが潰えたと嘆き、彼女を慕
 う者達は大いに喜んだ。


 長い間御子が産まれなかったのは、2人の仲の良さに御子が遠慮されたのだろうと人々は
 噂したが、それが夫婦の意志だったと知る者は少ない。


 しかし、真実はどうあれめでたいことには変わりなく、国をあげてのお祭り騒ぎになった
 のは記憶に新しい。






 ―――そして、国王の心境を知る者もまた少ない。


 愛する夕鈴との子ども。
 自分の血を受け継ぐもの。

 腕に抱いたあの時は確かに感動したはずなんだけど……

 今はただ、複雑な思いが残るのみ。










    愛情不足の解消法 1
「よし、できた!」 手際よくおしめを交換して、夕鈴は我が子の服を再び着せる。 いくら小さい子の相手に慣れているとはいえ、それは手伝いの範囲であって母親としては まだまだ初心者だ。 毎日が勉強だという意識で夕鈴は子育てに臨んでいた。 「じゃあ、これは…」 汚れた方の布をくるんでどうしようかと考える。 赤ん坊と布を見比べて、見てもらう方を誰かに頼もうと声をかけようとしたら、侍女が部 屋に駆け込んできた。 「お后様ッ その程度のことならば私共が致しますから!」 ああやっぱりと見咎めた侍女が慌てて止める。 仮にも正妃がおしめの交換なんて… そう彼女は言いたいらしい。 というか、すでにしょっちゅう言われていることなのだけど。 「自分にできることはやりたいの。やらせて下さい。」 それに返す夕鈴の言葉もいつも同じ。 「ですが…」 そしてその返答に彼女達が一様に同じ顔をするのも。 「みんなして私を甘やかすから暇なんです。本当はお洗濯とかもしたいのだけど…」 そう言いながら夕鈴は手に持った布に視線を落とす。 すると侍女はさらに慌てて顔を青くさせた。 「お止め下さい! それこそお后様がなさることではありません!!」 「…分かっています。皆さんのお仕事を奪ってはいけませんね。」 苦笑いして、その白い布を侍女へと渡す。 彼女がそれをさらに下女に渡して命じているのを、夕鈴は少し残念に思いながら見つめて いた。 正妃になって、もうずっと大好きな家事をやれていない。 国が安定するまで忙しいのもあったけれど、掃除婦バイトも陛下に手料理を作ることもい つの間にかなくなっていたのだと気がついた。 (今度、お菓子でも作ろうかな…) 陛下が仕事を全部休みにさせてしまったから、今は子育て以外にすることがない。 その子育てにも余裕が出てきたし、簡単なお菓子くらいなら作る時間もあるかなと思う。 「お后様?」 黙ってしまった夕鈴を侍女が心配そうに呼んだ。 「あ、ごめんなさい。ちょっと考えごとをしてしまって。」 寝台の上の我が子も不満げに見上げている。放っておかれたのが嫌だったらしい。 急いで抱き上げて、その柔らかな頬にキスをする。 「ごめんなさいね。後でお散歩に行きましょう。」 愛して、叱って、抱きしめて―――… いつか陛下が呟いたそれが夕鈴にとっての理想の育て方だ。 貴方は愛されて産まれてきた子どもなのだと、胸を張って言えるように。 「―――お后様。陛下がお見えになっておられます。」 いつもと同じ時間になると、部屋の外から女官が声をかけてきた。 ほとんど毎日、彼は昼食の休憩になると妻と子に会うために後宮に戻ってくる。 我が子が産まれてから日課となりつつあるこれにも夕鈴はもう慣れた。 「はい。分かりました。」 それに応えてから、侍女にお茶を淹れる準備をして欲しいと頼む。 「貴方も一緒にお父様に会いに行きましょうね。」 最後に我が子に優しく言って、夕鈴は子を抱いたまま 夫の待つ居室の方へと足を向けた。 「僕って心狭いなぁ…」 李順以外誰もいないのを良いことに、黎翔は執務机に突っ伏してさっきからぶちぶちと愚 痴を零している。 昼食休憩の合間に後宮に行って帰ってきてからずっとこの調子だ。 気分転換になると思ったが、結果は余計に気分が重くなっただけだった。 元々嫌いなデスクワークなんか、ますますする気が起こらなくて、視界の端に追いやった ままだ。 仕事をしろと言うのはもう諦めたのか、李順はその横に無言で書類を積み上げていた。 「でも悪いのは僕だけじゃないよねぇ… 放っておく夕鈴も悪いと思うんだけど…」 「…。私に愚痴らないで下さい。」 李順から思いっきり嫌そうな顔で言われても、黎翔は気にせず続ける。 愚痴というものは誰かが聞いてくれればそれで良い。 ちなみに浩大は愚痴る前にさっさと逃げた。 「だってさぁ、ぎゅってしたいなとか言ったら、赤ん坊を渡されて「優しくですよ」とか 言われるし。」 抱きしめたかったのは夕鈴なんだけど。 それは言えずに飲み込んで、彼女の言うままに我が子を優しく抱きしめた。 それで癒されないことはないけれども。それでも完全には満たされない。 いつ会いに行っても彼女は我が子のもので、独り占めなんかできなくて。いい加減ストレ スも溜まる。 「早まったかなぁ…」 ようやく国政も落ち着いて、余裕が出てきたから決めた。 望んだのは夕鈴。許したのは僕。 でも今はそれを少し後悔している。 「―――陛下を待っていたらいつまで経っても御子は産まれません。」 なんだかんだで相手をしてくれる李順ではあるが、その答えはかなり手厳しい。というか 冷たい。 「むー…」 「……夫婦には夜の時間もあるでしょう。」 それでも凹んだ黎翔を不憫に思ったのか、深い溜め息の後でフォローを入れてくれた。 けれどそれは残念ながら、気分を浮上させるには至らない。 「…夜は、我が子が夜泣きするからと別々なんだ。」 寝れないから辛いし、黎翔の仕事に支障が出てはいけないともうずっと別々の部屋で寝て いる。 …それは彼女の気遣いなのだが。 気遣いだと分かるから無碍にもできないわけで。 「はあ〜…」 「……重症ですね。」 だらだらと起き上がる気配も見せない彼に呆れつつ李順は呟く。 このままだと寝不足じゃなくても仕事に支障が出そうだ。 最近は急ぎの案件はないとはいえ、仕事優先の李順にしてみればこれはかなり困った事態 だった。 「…まあ、割り込まないだけ大人ですね。」 「ああそれ、ものすごく怒られたんだよねぇ…」 すでにやった後だったらしい。 「…赤ん坊相手に何されてるんですか。」 「はー…」 聞こえなかったのか聞き流されたのか、呆れかえった李順の質問には溜め息だけが返って きた。 →2へ 2011.7.9. UP
--------------------------------------------------------------------- 遅くなってしまってすみませーん! と、今回もまた謝りつつ後半に続きます。


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