魅惑で誘惑? 1
      ※ 55555Hitリクエスト、キリ番ゲッター聖様へ捧げます。




 いつもの通りの夜の妃の部屋。
 人払いを済ませた部屋には夕鈴と陛下の2人しかいない。


 何も知らない彼の傍で、夕鈴はもう一度昼間教えてもらったことを反芻した。


(えっと、まずは…)

 夕鈴が淹れたお茶を飲み終わって長椅子で寛いでいる陛下の隣に座る。
 そこまではいつも通り。違うのはここから。

(教えてもらった通りにすれば大丈夫!)

 よし! と内心で気合いを入れると、そっと彼の傍に手をつき身を乗り出して陛下との距
 離を縮めた。

「夕鈴?」
「陛、下…」
 そして上目遣いで陛下の赤い瞳をじっと見つめる。
 きょとんとした陛下の瞳に自分の姿が映って見えた。今のところそこに不自然さは見られ
 ない。


(後はここで、可愛くお願いを…)


「―――どうした?」
 甘く低い声が、甘い微笑みと共に耳に届く。
 突然現れた狼陛下が夕鈴の髪を撫でて引き寄せた。

(っ しまった――ッ!!)
 予想外の近い距離。
 こうなることは、これまでのことを考えるとないはずはないのだけれど、自分のことで精
 一杯だったからすっかり抜け落ちていた。

「あ…や、……」
 対処しきれなくて真っ赤になる。
 そのまま続く言葉をなくしてしまった。




「で、何してるの?」
「う…っ やっぱりバレちゃいますよねー…」
 あっさり小犬に戻った陛下に尋ねられて、夕鈴は仕方なく認める。
 まあ、演技でこの人に敵うわけがないのは分かっていたし。
「可愛いんだけどね。表情がまだ硬いよ。」
 指摘されて、やっぱりと肩を落とす。

 演技の幅を広げようと思ったのだけれど、どうやらこの演技はまだ自分には難易度が高す
 ぎたようだ。


「小悪魔ってゆーのに挑戦したかったんです。」
 バレてしまったなら隠しても意味がないし、正直に全部白状することにした。
「何? それ。」
「えっと、可愛さや思わせぶりな仕草で男を翻弄する女性のことだそうです。」
 知識も仕草も、今日遊びに来た紅珠に教わった。
 流行に聡い彼女からはいつもいろいろ教えてもらっている。紅珠という存在は夕鈴にとっ
 ては貴重な友人だ。

「そんなの意識しなくても十分翻弄してるよね…」
「はい?」
 ぼそりと呟かれたそれが何だったのか分からなくて夕鈴は聞き返す。
 心なしか疲れたような声だったのは気のせいだろうか。

「んー 何でもない。」
 夕鈴の頭を撫でてお茶を濁した彼は、それ以降その話題には触れなかった。


















「夕鈴って自覚ないから困るよね…」
 昨日の夜の彼女の言動を思い出して、黎翔は独りごちる。

 可愛くて、面白くて、飽きなくて。
 追いかけると逃げられるし、何を言っても本気にとってくれないし。
 この手に捕まえることができない、幻のような君。
 いつだって振り回されて、ドキドキさせられているのはこちらの方。

 …それなのにこれ以上だなんて、君は僕をどうしたいのか。





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2011.9.3. UP



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スミマセン。全部書き直してたので遅くなってしまいました…(汗)
ここまでが前振りで、今回は後半の方が長めです。
さらに陛下視点オンリーです。陛下頑張れ!(謎)
 


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