会いたい 1
      ※ 100000Hitリクエストです。キリ番ゲッターJUMP様に捧げます。




「なんじゃお主。浮かない顔をしおって。」
 無言で棚にハタキをかける夕鈴に、老師が怪訝な顔で話しかける。
「何でもないですよ。」
 それに素っ気なく返して、夕鈴はまた黙々と掃除を続けた。


 いつもは楽しい掃除のはずなのに、今日は気分が乗らない。

 それもこれも―――陛下のせい。…って、言えたら良いんだけど。



「それがさぁ。今日でもう4日目なんだよね。」
 ひょっこり窓から顔を出した浩大が、逆さまのままニヤニヤと笑う。
「浩大っ 余計なこと言わないでよ!」
 びしりとハタキを向けるが彼は笑うだけ。
「なんじゃなんじゃ?」
 老師が興味を持って身を乗り出すと、浩大はくるっと回って窓から中に入ってきた。

「陛下がさー ここんとこずっと忙しくてすれ違いばっかなの。」
 夕鈴の抗議を無視して、浩大は老師のお菓子をかすめ取りながらベラベラとしゃべってし
 まう。
「そんで会えないまま4日目ってわけ。」


 ―――でも浩大の言う通り。
 いつも忙しい陛下は、最近ますます忙しくなった様子。
 政務室に呼べる状態でもないらしく、夕鈴は後宮でお留守番になったのだ。

 それからずっと、朝も昼も夜もすれ違い。
 夜も毎日遅いみたいで、陛下が訪れた時にはもう夕鈴は寝ていたり。

 長い間会えないのは初めてではないけれど―――…


「ほう。それで妃はご機嫌斜めということじゃな。」
 髭を撫で付けながら老師がからかうように言う。
「違… わないけどッ!」
「おー認めた。」
 それに今度は浩大が珍しいとケラケラ笑った。
 人で遊ぶ気満々な2人組にハタキを持つ手がブルブル震える。

「――――…」
 でも、いつもならここでドカンと叫ぶところだけれど、今日はそんな元気もなくて黙って
 掃除を再開させた。
 背中に刺さる痛ましげな視線は無視だ。



「…私が会いたいって言うのはおかしいことでしょう?」
 ぽつりと独り言のように呟く。

 だって、私は臨時の花嫁。
 そんな我が儘が言える立場じゃない。

 ―――困らせるだけの言葉なんて言いたくない。

「だから、待つしかないんです。」

 それがバイト妃の正しい姿だ。
 あの人の近くにいるために、少しでも役に立つために。
 余計なことはしない言わないのが正しい…はず。



「なんで待つの?」
「…浩大?」
 いきなり何を言い出すの と。
 それが不思議だと言わんばかりの浩大を思わず振り返ってしまった。
 夕鈴としては、浩大の言葉の方が不思議だ。

「会いたいなら会いに行けば良いじゃん。」
 頭の後ろに手を回して、いつもの軽い調子で彼は言う。
「別に禁止されてるわけじゃないんだろ?」

「―――…」

 浩大の言葉は、耳に届いて心にすとんと落ちた。
 本当に浩大の言う通りだ。

(私、どうしてこんなに悩んでたのかしら…)

「…そうよね。待ってるなんて性に合わないわ。」
 ぐっと握り拳を作ると、なんだか力が沸き上がってくる気がする。

 会えないなら、会いに行けば良いじゃない。
 こちらから会いに行くなら陛下に迷惑もかけないし。


「私から会いに行くわ!」
 高らかに宣言すると、2人がわっと声を上げた。
「おお、その意気じゃ 掃除娘!」
「お妃ちゃんがんばれー」

 老師と浩大のエールを受けて、思い立ったら吉日と着替えのために飛び出した。



































「…あれ、紅珠?」
 侍女を引き連れて王宮に向かう途中で、回廊の向こうから見知った人物が歩いてくるのが
 見えた。

「お妃様!」
 夕鈴の姿を見つけると、彼女は嬉しそうに花が綻ぶような笑顔を見せる。
 とても可愛いそれにきゅんと胸が高鳴りつつ、同時に疑問も浮かんだ。

「……ええと、今日は来る日だったかしら?」
 もしかして約束していたのを忘れていたのかしらと不安になる。
 けれど彼女は違うと首を振った。
「そ、そう。」
 内心で良かった、と夕鈴は思ったのだけど。
「あの…もしやご迷惑でしたか?」
 夕鈴の態度をどう受け取ったのか、うるうるっと大きな瞳が潤む。

(ヤバい 泣かれる!)

 感受性が豊かなこの少女は、感情が高ぶると嬉しくても悲しくても泣いてしまうのだ。
 彼女に泣かれるのは非常に困る(主に私の心的な意味で)。

「まさか。貴女が来てくれるのはとても嬉しいわ。」
 内心では焦りつつ、にっこりと微笑んでフォローする。
 とにかく泣かれることだけは避けたかった。
「あちらの四阿にお茶を準備させるわ。一緒に行きましょう?」
「お妃様…」
 そっと手を包むように握って促す。
 何故か頬を赤らめられたけれど、そこはまあ気づかなかったことにしよう。


「でも、本当にどうしたの?」
「珍しい絵巻物が手に入りましたの。父様がぜひお妃様に見せに行きなさいと。」

 どうやら、彼女の耳にも陛下が忙しいという話は届いていたらしい。
 それで夕鈴が気落ちしているのではないかと思ったとのこと。
 後宮に行くことを勧めた氾大臣も、夕鈴に気を遣ってくれたのだろう。

 …そんな優しさを無碍にすることはできない。

「まあ、それは楽しみね。」


 ……とりあえず、午前中に行くのは諦めた。




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2011.11.29. UP



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今回は恋する乙女度全開(?)でいってみようと思います☆
いや、ノリはいつも通りなんですけど。

まずは後宮から。浩大&老師と紅珠。
オールキャラ指定いただきましたので、主要キャラは全員出したいところ。
 


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