※ 150000Hitリクエストです。キリ番ゲッタームーミンママ様に捧げます。
      ※ ちなみに2人は結婚してる前提の未来話です




「―――は?」
 浩大からの報告を聞いたここ白陽国の正妃 汀夕鈴は、思わず間の抜けた顔で聞き返した。


「だから、陛下が舞姫を部屋に連れ込んだってハナシ。」
 ニヤニヤ笑うその顔は完全に面白がっている。
 簡単に言えば夫の浮気報告。…頼んだ覚えは一度としてないのだが。
「今頃は2人きりで…」

「―――!」
 その途端に、夕鈴は浩大がいる窓に背を向けた。
「あれ、行くの?」
 修羅場?なんて暢気に笑って言うものだから、夕鈴はプツッと切れる。

「何 悠長なこと言ってんのよ! それ刺客でしょう!?」
 動く気の全くなさそうな浩大に怒鳴ると、夕鈴は長い裾をからげて部屋から飛び出した。






「ありゃ、ばれてたかー」
 独り言は彼なりの賛辞を含むもの。
「さっすが伊達に"狼陛下"の傍にいないね。」
 臨時妃の頃から何度も命を狙われて、それでも今彼女がここにいるのは陛下に守られてい
 たからだけではない。
 それは彼女自身の強さ故。

「―――そんじゃそろそろオレも仕事しなくちゃ。」
 じゃないと狼陛下に殺される。
 軽い身のこなしで、浩大もまたその部屋を出ていった。












    嫁の浮気宣言 1
「陛下…」 薄い衣を纏った美女が長椅子に座る黎翔にしなだれかかる。 男を誘う甘やかな声、細い指が襟元を肌蹴させて素肌を撫でるのを、彼は無感情に見下ろ した。 好きにさせてはいるが、流されているわけではない。 「陛下は、どのような戯れがお好みでいらっしゃいますか?」 「…さほど興味はないな。」 冷ややかな声で言い捨て、背に隠された舞姫の手首を掴む。 無遠慮に強く握ると、その手に握られていた短刀が軽い音を立てて下へ落ちた。 「っっ」 「―――残念だったな。この程度では私は殺せない。」 押しかかっていた女の身体と体勢を入れ替えて長椅子に縫いとめる。 色とは正反対に絶対零度の冷ややかな瞳。 獲物を捕らえた狼は、顔色を変えた女を見下ろし愉しげに笑んだ。 「さて、お前を雇った主人の名から聞こ」 「陛下ッ」 人払いをしていたはずの室内に、人が飛び込んできた。 それが誰かだなんて分からないはずがない。 …唯一それを許された、狼陛下最愛の妻。その声を彼が間違うはずがないのだから。 「夕、鈴…」 一歩踏み込んだところで足を止める彼女を呆然と見やる。 「――――…」 そうして、彼女が見つめる自分の格好を見た。 肌蹴た自分の胸元と、組み敷いた女が1人。 「…あら、すみません。私の方がお邪魔だったみたいですね。」 表情を変えずに言った夕鈴がくるりと背を向ける。 声を発する前に夕鈴の姿は消えていた。 「夕鈴、ちょっと待って!」 いつも通りの歩調だった彼女にはすぐ追いつけて、細い手首を掴んで引き止める。 「何ですか?」 言いながらふり返った彼女の表情は珍しく読みとれない。 何事もなかったかのようにあまりにもいつも通りで、だから余計に怖かった。 「ゆ」 「…さっきの方は置いてきてよろしかったんですか?」 そう尋ねてくる彼女の声は静か過ぎる。 この反応は怒鳴られるより凹むと思った。 ―――これは、完全に誤解されている。 「……彼女は、本当に何でもないんだ。」 だからといって今の黎翔にはそれ以外に何も言うことができない。 苦しい言い訳だと言いながら思うけれど。 けれど刺客と言えば心配させるし、黙っていれば浮気にしか見えない。 信じてと言ってもあの状況では無理がある。 何と言えば彼女を傷つけずに済むのか。 考えるが何も浮かばない。 そして、そんな時間も彼には許されなかった。 「…私に何か弁解することがあるんですか?」 彼女の目に静かな怒りが宿る。 ひょっとして今自分は地雷を踏んでしまったのだろうか。 「いや、あの」 「弁解をするということは認めるということですよね?」 思いきり言葉を間違ったようだと、今更気づいても後の祭り。 「ゆ…」 感情を露わにした彼女から掴んでいた手を振り解かれた。 それ以上は何も言っても無駄だと、ギッと睨まれて固まる。 泣く一歩手前のこの表情。 過去の最も苦い思い出が一気に蘇り、血の気が引くのが自分でも分かった。 「ッ私も浮気します!!」 捨て台詞のように叫んでから、彼女は風のように走り去る。 「……え。」 最初は彼女の言葉が理解できなくて。 あまりの衝撃に、追いかけることすら忘れてしまっていた。 「やるなぁ。相変わらずあの娘は予想外だ。」 ケラケラと腹を抱えて窓から入ってきた男が笑う。 睨んでみるが今回はその笑い声も引っ込まない。 「煩い 浩大。…それで、夕鈴はどこだ?」 あれから彼女の行動は早かった。 黎翔が謝罪に来た時には、すでに後宮を抜け出した後だったのだ。 すぐに浩大に命じて後を追わせ、焦れる思いで報告を待っていたのだが。 「あーほら、例の幼馴染の男んとこ。」 「!?」 さらっと返ってきたとんでもない報告に、今度こそ黎翔は顔色を変えた。 →2へ 2011.12.22. UP
--------------------------------------------------------------------- ちょっと前半と後半のバランスが悪いですが、あまりに長かったのでぶった切りました。 …というわけで、後半には兄貴が登場です。 苦労性なのは兄貴なのか陛下なのか(笑)


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