愛と感謝の日 1
      ※ 240000Hitリクエストです。キリ番ゲッター埼玉県の20歳様に捧げます。
      ※ オリキャラ・景絽望さんは相変わらず普通に混じってます。




「まあ、これは何?」
 紅珠と恒例のお茶会中に、彼女から"それ"を渡された。

 一目で高価だと分かる桃色の染め布に包まれたもの。
 促されてそれを開くと、―――中には可愛らしい焼菓子が入っていた。


「愛謝節のお菓子ですわ。当日はお会いできませんので今日お持ち致しましたの。」
「愛謝節?」
 聞いたことがなくて夕鈴は首を傾げる。
 紅珠は流行ものに敏感で、夕鈴がそういう情報を手に入れるのはいつも彼女からだ。

「西方の国の風習で、大切な方や普段お世話になっている方に贈り物をする日だそうです
 わ。ですからお妃様にと思いまして。」
 そう言って、紅珠がほんわりと微笑む。
 それに癒されつつ、あることに気づいて夕鈴は表情を曇らせた。
「ありがとう。…でも、私は何も用意していないわ。」
 知らなかったから当たり前なのだけど、貰うだけというのは気が引ける。
 けれど、それを聞いた紅珠は大丈夫だと首を振って答えた。
「お気になさらないで下さい。私が贈りたかっただけですもの。」
「紅珠…」

(本当になんて良い子なのかしら…)
 そんな彼女が夕鈴は可愛くて仕方がない。

 今度会う時にお返しを用意しておこうと、強く心に誓った。












「大切な人に、か…」
 紅珠が帰ってからしばし、焼き菓子を前に夕鈴は考え込んでいた。

 彼女が言うには、本当の愛謝節は3日後。
 もう少し詳しく聞いたところによると、
 大切な人=愛
 お世話になっている人=感謝
 …ということらしい。その際、贈る物は何でも良いとのこと。

 "愛"の方はとりあえず置いておくとして、"謝"の方はいろいろと顔が浮かぶ。


「…よし、頼んでみよう。」
 思い立ったら即行動。
 その言葉の通りに、夕鈴は頷くと早速目的の場所に向かうための準備を始めた。

























*

























 その日の政務室は、ちょっとした騒ぎになっていた。

「俺食えねぇ!」
「いや、食えよ 勿体ない。」
 小さな包みを持った1人が感動して叫ぶと隣の同僚がツッコミを入れる。
 そこにいる全員が同じ物を手にしていて、夕鈴が主旨と包みの中身を教えた途端この騒ぎ
 になったのだ。
「1日1つずつ、大切に食べます!」
「―――あの、できれば早めに召し上がっていただきたいのですが…」

 中は手作りの焼き菓子。
 多少日持ちはするかもしれないけれど、食べ物なのでできれば食べてもらいたいと思う。

(ただのお菓子なのに…)

 彼らのこの反応には夕鈴も少し驚いていた。
 まさかここまで喜ばれるとは思っていなかったから。
 人が多かったから1人1人の数が少なくなってしまって、それが申し訳ないくらいだ。



「―――お妃様。」
 いつものように突然現れ、甘ったるい微笑みを浮かべた絽望がすかさず夕鈴の手を取る。
「今日はお会いできないと聞いていたので落胆していたところです。ですが、こうして会
 うことができました。麗しいお妃様にお会いできたおかげで、私は今日も幸せな気分で政
 務に励むことができます。」
「ありがとうございます。はい、絽望さんもどうぞ。」
 そんな彼の淀みない長台詞も、いつもの冗談と軽く流して同じ包みを渡した。
 絽望がそれを見つめて黙った間に夕鈴はさりげなく手を抜くが、彼はそれにも気づいてい
 ない。

「……これは"愛"ですか?」
「"謝"の方です。」
 しばしの間の後、真顔で聞かれたそれには即答で返す。
「残念。」
 分かりきっていた答えだからか、彼は全く堪えた様子もなくただ苦笑いしていただけだっ
 たけれど。

「ご存知だったんですね。」
 国外の風習だったから他の人達は誰も知らなかった。
 知っていた彼の方に驚いてしまう。
「恋愛系の行事には詳しいのです。」

「―――頭が常春なだけだろう。」
 得意げに言った絽望の背後から冷たいツッコミが入った。
 いつも不機嫌そうな柳方淵は、今日も相変わらず不機嫌そうだ。

「柳方淵殿。貴方もどうぞ。」
「…は?」
 差し出した包みを受け取らず、彼からは怪訝な顔を返される。
 まあ、日頃の関係から考えれば当然の反応ではあるのだけれど。
「政務室の皆様に配っているのです。日頃お世話になっているお礼に。」

「…誰が、」

 受け取るか―――

「相変わらず素直じゃないね。」
 彼が言葉を続ける前に、ひょいと夕鈴の手からそれを取った誰かが方淵の手に乗せる。

「人の好意は受け取るべきだよ。」
 にっこりと微笑む"彼"を、方淵はじろりと睨んだ。
「氾水月… 貴様」

「今回は水月殿が正しいね。お妃様は"皆"にと言ったんだ。君だけ受け取らないわけには
 いかないだろう。」
 絽望も水月に賛同して続ける。
「それにこれは、陛下のために尽くしている証だよ。」

 確かにそれが夕鈴が政務室の皆に贈った理由。
 そしてそう言われると、陛下第一の方淵は反論できない。

 舌打ちしながらも渋々その包みを受け取った。
 もちろん、お礼の言葉なんていうのはないけれど。そこは気にしなかった。


「水月さんにも。」
 同じように差し出すと、彼は笑顔でそれを受け取ってくれる。
 夕鈴は同じことをしているはずなのに、それぞれ反応が違うのが何だか面白い。

「ありがとうございます。―――今日は愛謝節でしたね。」
 夕鈴に教えたのは紅珠だから、兄である彼が知っているのは当然のこと。
「紅珠も朝一番でくれました。」
「仲がよろしいのですね。」
 その様子が容易に浮かんで、ふふと夕鈴も笑み返す。
 心優しい少女は家族全員に贈ったのだろう。
「1番愛がこもっているのはお妃様だと言っていましたが。」
「まあ、紅珠ったら。」

「…ズルイな、君ばかりお妃様と仲良くして。」
 水月の肩に腕を乗せて絽望が恨み言を囁くように言う。
 もちろん本気などではなく冗談半分で。


「―――貴様ら、さっさと資料の準備をしろ。」
 もうすぐ陛下が戻られる時間だと方淵から催促が飛ぶ。

「…では、私は後宮に戻りますね。」
 今日はここに来る日ではないし、これ以上ここにいると迷惑になりそうだ。
 そう思って夕鈴は周りに挨拶をして政務室を退出した。




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2012.2.14. UP



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今回は浩大の老師の出番を削りました。
柳氾子息組+絽望のトリオが楽しかったんです!
 


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