※ 260000Hitリクエストです。キリ番ゲッター葵様に捧げます。
      ※ オリキャラ・景絽望さんがメインです。さらに「内緒の恋人」とのコラボです。
      ※ 下部に慎様からいただいたイラストがありますvv




 ―――どうして誰もお妃様の変化に気づかないのだろう。

 最近絽望が思って止まないことだ。

 ますます美しくなったあの方に、どうして誰も気がつかないのだろうか。

『お二人は仲睦まじく、陛下の寵愛は冷めることを知らない。』
 誰もが口にするそれは確かに真実だ。
 …だから、誰もが今更だと思っているのだろうか。だから誰も気づかないのか。


 絽望は最近、以前のようにはお妃様に触れられないでいる。
 白い手を掬い軽口を叩き、微笑みで聞き流される… ただそれだけのことも躊躇われるほ
 ど、今のお妃様は男を惑わす香りがするから。


 あの色香は男の肌を知った証だ。
 …つまり、今までお妃様はそれを知らなかった。

 それに気づいたときは驚いたが、今までの疑問も解消された。
 …一番驚いたのは、あれだけ愛していて、手を出していなかった陛下にだが。

 大切すぎて出せなかったのか。
 そう思うと納得できた。
 あの純真さには私でも躊躇う。



 だから白い花が似合う。


 王宮という場にいてもなお、染まらない純真さを持つあの方には。














    白い花 1
「……お妃様?」 池の畔に見知った横顔を見つけて、絽望は通路の途中で足を止める。 お妃様が1人で池を覗き込んでおられたのだ。 「何か心惹かれるものがありましたか?」 「あ、絽望さん。」 声をかければ、「こんにちは」と気軽に返してくださる。 元々身分や立場をあまり気にされない方ではあるが、その中でも自分はかなり近い距離に いると思う。 …そこに生まれる感情を、この方は知らないのだろうけれど。 「いえ。水面を眺めていただけです。」 小さく笑って彼女は立ち上がり、絽望と向かい合う。 そこには隠せない喜びのようなものが見えて、少し胃が焼ける感じがした。 もちろん、それを表に出すことはないが。 「では、自分に咲く花を見ておられたのですね。」 「あ…」 どうして分かったのかという風に、彼女はそっと髪飾りに触れる。 「その、これは陛下がくださったもので…」 嬉しそうに、柔らかに綻ぶ顔。 それはさっき水面を眺めていた時と同じ。 鈍く痛む胸を知らぬふりで、代わりに軽い笑みを浮かべる。 「ああ違います。私が言ったのはそちらではなくて…」 そう言いながら自分の首元を指さす。 絽望が示したのは、襟元からギリギリ見えるくらいの紅い痕。 あの方からの寵愛の証の方だ。 「っ!?」 思ったより早く気づいたお妃様は急いでそこを押さえて隠す。 今更だとは絽望も言わなかった。 「へ、陛下のバカ…ッ」 真っ赤になりながら泣きそうな顔。 「すみません。お妃様を泣かせる気はなかったのですが。」 どこまでも純粋なお妃様に絽望は苦笑う。 からかうだけのつもりが、彼女には刺激が強すぎたらしい。 「―――では、これはお詫びです。」 元々贈るつもりだった白い花を彼女の前に差し出した。 「私は貴女の笑顔が好きなのです。」 最初に惹かれたのは、月の夜に咲いた大輪の花の艶やかな笑顔。 愛しくて止まないのは野に咲く花のような明るい笑顔。 どちらも彼女であり、どちらも美しくて惹かれる。 「お妃様には、いつも笑っていて欲しいのです。…いつも笑っていてください。それだけ で私は元気が出るのです。」 「まあ、相変わらずお上手ですね。」 いつもの調子で流されて、お妃様からはクスクスと笑われる。 自分の軽さが祟ったせいで本気も冗談としか受け取られないのだ。 「本当のことですよ。」 一応訂正してみる。 「ありがとうございます。」 けれどやっぱり信じないお妃様は、笑顔で花を受け取った。 でも、それで良いと思った。 だから、私は貴女の傍にいることができる―――― * 「どうしようかな…」 白くて可愛い花。花占いに使うにはちょっと花弁が多すぎるけど、丸く開くその形がとっ ても好みで。 指でくるくると回して自然と笑みを零していた。 あの人から贈られるものは気楽に受け取れる。 深く考えなくて良いから。 陛下から貰う時のように、ドキドキしなくて良いし。 あの人と話すのは気負わなくて良いから楽だった。 言動は軽いけれど、そこに相手を気遣う気持ちが見えるから。 「残るのはダメだから、硝子の器に浮かべて―――――!?」 突然横から手が伸びてきて、その手に捕まえられる。 「なっ …むぐッ」 声を出す前に口を塞がれ、抵抗する間もなく近くの部屋に引っ張り込まれた。 「…ここなら誰も来ないか。」 扉が閉じられると同時、頭上から降ってくるのは見知った声。 感覚の全てが"彼"だと伝えてくるから夕鈴は抵抗することを止める。 大人しくなると、ようやく口元を解放された。 「な、何ですか!?」 後ろから抱かれた腕の中で、夕鈴は抗議の声を上げる。 窓は開けられておらず薄暗く、雑多にものが放り込まれて整理もされていない物置のよう な場所。 いきなりこんなところに連れ込んで一体何なんだと。 「夕鈴」 耳元に注ぎ込まれた低い声にぞくりと背筋が冷える。 甘くない方の狼陛下の声だった。 (な、なんで怒って…!?) 「―――私が古狸共と戦り合っている間に、君は他の男と談笑か。」 「ッ!」 回された腕に力が篭り、夕鈴の身体は彼と密着する。 動きは緩やかなはずなのに、そこには有無を言わせない何かがあった。 背に感じるのは熱。なのに声は冷え切っていて怖い。 「しかも君に下心を持つあの男とは…」 空いていた手が腕を伝い、夕鈴が手にしていた白い花に行き着く。 「あ…」 そのまま花は奪われ彼の手に渡った。 目の前に翳されて、花弁を掴んでいた手が… 花を握り潰す。 「―――――!」 手のひらの中の無残な残骸は 白い花弁を散らしてぱらぱらと落ちていく。 夕鈴はただそれを呆然と見つめるしかなかった。 「君は、誰のものだ?」 「…ぁ……っ」 熱い舌が晒された耳の形をなぞる。 「夕鈴」 首筋を、花を潰した指がゆっくりと撫で鎖骨へ降りていく。 爪を立てられて、小さな悲鳴が漏れた。 「や だ…っ」 足下に何かが滑り落ちる音。 きちんと閉じられていた襟が緩んで冷たい手が中に入り込む。 「へい か…!」 彼の意図を悟って夕鈴は青ざめた。 「やめ、… っ」 「……私を拒絶するか。」 ―――彼は嗤ったのだろうか。 「君はまだ自覚が足りない。」 目尻から溢れ出る涙を舌が舐め取る。 けれどそこに優しさは感じない。 「君が誰のものであるか―――もっと心にも身体にも教え込まねばな。」 「ッッ」 声は、届かなかった。 慎様より 「――――…」 戸が閉まる音で夕鈴は目を覚ます。 薄暗い天井は、あれは夢ではなかったのだと知らせる。 …身体の痛みもそれを教えているけれど。 ただ服は元のように着せられていて、起き上がるとかけられていた彼の外套がするりと落 ちた。 (あれだけ好きにしたくせに、今更優しさを見せられても…) 「……っ」 途端にまたこみ上げてきて、夕鈴は外套を握りしめて声を殺して泣く。 それでも、私は貴方を嫌いになれない。 陛下、知っていますか? …何をされても、私は貴方を嫌いになれないんです。 貴方を好きという気持ちは何があっても消せないんです――――… →2へ 2012.2.28. UP
--------------------------------------------------------------------- 前半は絽望さん、後半は夕鈴視点でした。 微妙なシリアスな上に後半怪しくてすみません。 でもギリギリ指定は入らないくらいかな?と。た、たぶん… 黒陛下を引き摺ったまま、絽望さん視点に戻って後半に続きます。 3/26追記)慎様に黒陛下をいただきました〜vv 鋭い瞳にやられました……ッ!!


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