夏祭りの夜 1
      ※ 330000Hitリクエストです。キリ番ゲッターともりゅう様に捧げます。
      ※ ちなみに2人は結婚してる前提の未来話です。兄妹は14&12設定で。
      ※ 「星空の約束」前提の話でもあります。




「終わってから一度帰るだろ?」
 星風が聞くと香月はもちろんと答えて頷く。
「あ、雪兄様は後から合流するって朝言ってた。」
「りょーかい。」
 確認が済むと、星風は回廊の柵を飛び越して外に降りる。
 階まで行くのは遠くて面倒だったからだ。

「春兄にも伝えてくる。」
「うん。」


「あら、何の相談?」
 香月の後ろからひょっこり顔を出したのは鈴花。
 兄妹を交互に見て、興味深げに尋ねる。

「今夜は下町の夏祭りに行くんだよ。」
 自慢とばかりに言う星風は今から楽しみで仕方がなさそうだ。
「年に一度だからさー これは外せないっしょ。」

 下町の夏祭りについては凛翔と鈴花も母親から聞いたことがある。
 星が一番綺麗な夜に行われる祭りで、たくさんの屋台が並んでとても賑やからしい。
 そしてそれが今日らしいとのこと。

 碧家は家族で行くのが恒例なのだとか。
 そういえば、今日は華南も早く帰ると言っていた。



「…良いな。ね、兄様。」
 いつの間にか後ろにいた凛翔を、鈴花は特に驚くでもなく振り返る。
「そうだな。」
 一度も行ったことがないそれには彼らも興味があるようだった。

 しかし、中流貴族の碧家くらいなら気軽に混じれるが、凛翔や鈴花はそうはいかない。
 王族とは不便なものだと星風なんかは思う。

「土産くらい買ってきてやるから。」
 さすがに連れていこうとは星風でも言えない。
 だからそれくらいの優しさは見せてやろうと思ったのだが。

「いや、要らない。」
「え?」
 まさかの否定に星風は目を瞬かせる。
「ね。」
 鈴花も悪戯を思いついた時の目で自分の兄を見ていて。

「……まさか。」
 嫌な予感に背筋を汗が流れていく。
 香月は大きな溜息付きで頭を抱えていた。

 止めても無駄だということは彼女もよく分かっているのだろう。
 そしてそれは星風も同じ。

「大丈夫。お前達は黙ってさえいてくれれば良い。」
 上から星風を見下ろして、凛翔はとてもいい笑顔で言った。





「バレないように。」
「こっそりとね。」
 顔を見合わせて、兄妹はふふっと楽しげに笑う。
 小さな秘密の共有はいつだって楽しいものだ。


 ―――けれど、その秘密を聞いていた人物がいた。
























「だってさ。止めるべき? 放っておいて良い?」
 自分が見聞きしたありのままを浩大は黎翔に報告する。
 けれど、だからといって焦っているとかそういうのは全くなく、態度も口調も随分のんび
 りしたものだ。

 止めろと言われたなら止めるし、放っておいて良いなら知らないフリをしておく。
 浩大にしてみればその程度の内容だった。



「…夏祭りか。」
「ん?」
 ほややんと呟かれて、浩大はあれと思う。
 思っていたのとちょっとばかり反応が違っていた。
「懐かしいなぁ。そういえば最近行ってなかった。」
「んん?」
 何やら話が妙な方向に進んでいる気がする。
 何故かとてもウキウキしているというか、楽しそうというか。
 こんな上機嫌な陛下はあまりお目にかかれないというか。

「夕鈴喜ぶかなぁ。」
「…へーか?」
 まさかとは思う。
 だが、聞き流すには、この王には前科が多過ぎた。


「―――浩大。凛翔と鈴花を夕鈴の部屋に。」
 うん、ものすごく嫌な予感がする。
「…えーと、何する気か聞いても?」
 聞いてはいけないと分かっていても、ここで聞かずにはいられない。
 浩大の問いかけに彼はニヤリと笑う。


「もちろん、王宮を抜け出す準備だ。」



 …ああ、やっぱりね。

 自分も共犯にさせられるのだろうということも何となく分かっていた。




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2012.5.28. UP ※夜 一部修正。



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ここまで前半。てか前置き長いから!
こういうところが親子だと思う 陛下と子ども達。

そんなわけで後半へ続きます。
 


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