夢のような夢の話 -小ネタ集・下町編-
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      ※ 「夢のような夢の話」は夕鈴・黎翔・几鍔が幼馴染という設定です。←整理部屋にミニカテゴリ有





1.明玉 視点

 私の友人はモテないことを少しばかり気にしている。

 確かに並の男より男らしい部分もあって、そこらの男じゃ相手にならないのかもしれない
 けど。
 ―――でも本当は、そんなのは全然理由にならなくて、その"本当の理由"は全く別の場所
 にある。

 そして、そのことを知らないのは本人だけなのだ。



「あれ、夕鈴は?」
 出会い頭に開口一番、彼から出てくる名前はいつも同じ。

 彼―――黎翔さんは我が友人 夕鈴の幼馴染の片割れで、下町に馴染みすぎているが一応
 王宮で武官をしているという貴族様。
 ついでにもう1人の幼馴染である几鍔さんも一緒。こちらは大店の跡取り息子で、この辺
 一帯を仕切る兄貴的存在だ。
 きっと几鍔さんが聞きたいのも黎翔さんと同じなのだろう。その表情を見れば丸分かり。


「あそこです。」
 そんな相変わらずな彼らにクスクスと笑いながら、明玉はちょっと離れた先を指差した。
「何だ? あの男は…」
 途端に眉を寄せて几鍔さんが呟く。

 そこにいるのは夕鈴と、この辺りでは見かけない若い男が1人。
 この話の後で2人がどんな反応をするのか少し楽しみだ。

「最初は別の女の子をナンパしてたんですよ。で、迷惑そうだったので夕鈴が怒鳴りつけ
 て…」
 そこはいつも通り。違うのはここから。
「そうしたら何を思ったか、今度は夕鈴を口説きだして―――あら。」

 明玉が言い終える前に、2人は明玉の前から消えた。








「貴女が初めてです。」
「…はぁ」
 意味が分からない夕鈴は曖昧な返事しか返せない。
 手を握られてそんな感動した風に言われても、夕鈴の頭の中には疑問符しか浮かばなかっ
 た。

 そもそも声をかけられている女性が迷惑そうだったから怒鳴っただけだ。
 そこからどうしてこんなことになるのかさっぱり分からない。

 …というか、相手が自分に何を求めているか理解できない。

「ですから、」
 相手はさらに身を乗り出してくる。
 何を言われるのかとちょっと身構えた。



「―――オイ。」
「誰に手を出そうとしてるの?」

「…え?」
 夕鈴の後ろから投げかけられた声に、彼はそちらへと視線を移す。
 そしてさっと青ざめたかと思うと息を飲んだ。
「……?」
 突然顔色を変えて震えだした男に夕鈴は首を傾げる。
 それからゆっくりと男の手が離れて、ようやく両手が自由になった。
「…ッッ」
 男はさらに一歩分後ずさり、声にならない様子で口をパクパクさせている。
「? 何―――わっ」
 後ろに何かあるのかと振り返ろうとして――― その前に頭と肩にポンと手を置かれた。
 2つの影がそれぞれ夕鈴の横を通り過ぎて、追い越した大きな背中が男と夕鈴の間に立つ。

「黎翔、几鍔…?」
 2人の表情は見えない。
 ついでに2人に隠れて男も見えなくなった。





 真っ昼間のはずなのに辺り一面冷気が漂う。
 そしてその全ては、何も知らずに彼女に触れてしまった哀れな男へと向けられていた。


「―――僕らに喧嘩を売る勇気があるのがまだいたとはね。」
 紅い瞳の男が冷ややかに笑み、
「余程の自信家か。」
 眼帯の男がそう言って目を細める。

 そんじょそこらの男では絶対に敵わない。
 全てにおいて上級の男が2人。
 1人でも勝てそうもないのに、それが2人では迫力も桁違いだ。

「え… あ……」
 その2人から睨まれて、震える声は正しい言葉を紡げない。
 なのに視線を逸らすことはできず、背筋を冷たいものが流れていく。

 そこで男はようやく気づいた。
 自分は、手を出してはいけないものに手を出してしまったのだと。


「―――やるか?」
 眼帯をした男にぎろりと睨まれる。


「すみませんでしたー!!」
 ただひたすらに頭を下げて、男はその場から逃げ去った。







「お前も学習しろ!」
 男が走り去った後、振り向いた几鍔の怒りはそのまま夕鈴に向かった。
「せめて僕達が来るまで待てない?」
 いつもは笑って許す黎翔も今回は几鍔側。
 一歩間違えば夕鈴の身が危険に陥るところだったのだから当然だ。
 けれど、そんな2人に責められながら当の夕鈴はけろっとしていた。
「だって、待ってたら女の子が連れて行かれちゃうじゃない。」
 さも当然のように言い放ち、そして自分は正しいとばかりに胸を張る。

「ッお前も一緒だろうが!」
 途端にブチッと切れた几鍔の雷が落ちた。
 それでも全く自覚のない彼女はカラカラと笑う。
「私は大丈夫よ。」
「…その根拠のない自信は何だ。」
 胡乱げに2人から見つめられ、夕鈴は手にしていた物を自信満々で掲げた。
「いざとなったらこの大根で殴って逃げるから。」
 大きくて太いその白い野菜は、確かに凶器にはなり得るだろうが…

「大根…」
「お前な…」
 どこまでも無自覚な幼馴染の態度に2つのため息が重なった。











「あいかわらずねぇ。」
 いつもの光景を見て明玉は笑う。
 夕鈴は自分がモテないと悩んでいるが、それは決して本人だけの問題じゃない。
 あんな上等の番犬が2匹もいて、誰が近寄れるというのだろう。

「――― 一体どっちを選ぶのかしらね。」

 賭はまだまだ続きそうだ。



+++++
こっちの世界は番犬2匹で効果も倍(笑)
明玉視点のはずが、あまりに楽しすぎてこんなんになりました☆




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2.青慎 視点

 今夜の夕食は黎翔さんと几鍔さんが来て賑やかだった。
 これはたまにあること。

 今回は姉さんの手料理が大好きだという黎翔さんが「食べたい」と言い出したことが発端
 だったらしい。
 材料費はそっち持ちだと姉さんが言って、じゃあ几鍔さんもって黎翔さんが引っ張ってき
 た。
 几鍔さんは不機嫌だったけど、そんなもの 他の2人は気にしていないようだった。

 まあ、いつものことなんだけど。



「あーあ、やっぱり門閉まっちゃった。」
 とっぷりと日が暮れた空を見て、玄関先で黎翔さんが呟く。

 貴族の黎翔さんは住んでいる区画が少し離れている。
 日が落ちると各区を仕切る門は閉ざされて、そうなると朝まで開くことはないのだ。

「しまったなー」
 そんな風に言いながら、全然困った顔じゃない。
 これもよくあることだからだ。

「ねぇ、今晩泊めてー」
「道端で寝てろ。」
 隣の几鍔さんに頼んでみるも、ばっさり切り捨てられる。
「冷たいなぁ。」
 全然堪えてない様子でクスクス笑って、黎翔さんがくるっと振り返った。

「じゃあ夕鈴ちに泊ま」
「待てコラ」
 途端に几鍔さんが黎翔さんの首根っこを後ろからひっ掴む。
「誰が許すかッ さっさと来い!」
 几鍔さんのこういうところは娘の交際に口を出すお父さんみたい。
 そのまま黎翔さんはズルズルと引っ張っていかれた。

「おやすみー」
 引きずられながらも笑顔で手を振る黎翔さんと、怒りも露わに乱暴に引っ張っていく几鍔
 さん。
 そんな彼らを姉さんと一緒に見送った。













「…ねえ、姉さん。」
「なぁに?」
 僕が食器を洗う傍らで、姉さんは明日の仕込み。
 2人で台所に並んでいるときに、それをふと思い出した。

「姉さんはどっちを選ぶの?」
「へっ?」
 さっきの光景を不意に思い出して聞いてみたけど、姉さんにはちょっと唐突だったかな。
「僕は姉さんが幸せになってくれるなら、几鍔さんでも黎翔さんでも良いよ。」


 ―――2人とも、姉さんととても大切に思っている。
 特別なのは見ていたら誰だって分かるから。

 僕はそれをずっと見てきた。だから確信も持てる。
 きっとどちらを選んでも、彼らは姉さんを幸せにしてくれる。


「ッ だからどうして2択なのっ!?」
 顔を真っ赤にして叫ぶ姉さんに、え?と目を丸くする。
「他に誰か好きな人がいるの??」
「やっ いないけど!」
 驚かされたのも束の間、即否定で返された。

(…だよね。あの2人に守られて、他の人と出会う機会なんてないだろうし。)


「でも、いつも一緒だからって結婚まではないと思うのよ。」
 真っ赤だった顔を怒りにすり替えて、姉さんは憤然として腕を組む。
「だいたいあの2人がいつまでも独り身だからこんな風に言われるんだわ。さっさと結婚
 すれば良いのに。」
「…えっと、それは」
 けれど、どう言えば良いのか分からなくて口を噤むしかなかった。


(…どうして通じてないんだろ?)

 几鍔さんはともかく黎翔さんは全く隠してないのに。
 我が姉ながら あまりの鈍さに彼らを不憫に思ってしまう。

 僕が産まれてすぐのはずだから、出会ってもう10年以上。
 そろそろ何か変わっても良いころだと思うんだけど。


(…でも、無理かな……)
 この姉だし… と、まだ不満を漏らし続けている姉さんを見つめた。



+++++
弟の中でも2択です(笑)
黎翔と几鍔は気が置けない間柄ですね。
一応黎翔の方が1つ上のはずなんですが。明らかに几鍔の方が兄貴(笑)




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3.几鍔 視点

「…アニキ、行かなくて良いんスか?」
 いつもの窓辺で外を眺めていると、子分の1人が気遣わしげに聞いてきた。
「どこに」
「だって、今日は…」
 言葉を濁したその先を、几鍔は正確に理解する。


 ―――今日は夕鈴の母親の命日だ。
 それは誰もが知っていること。


「ああ、アイツが行ってるだろ。だったら行く必要ねーだろうが。」
 アイツが傍にいるのに、自分まで行く理由はない。
 それに気づいたのはいつだったか。

「アニキ…」
「何だ?」
「何でもないッス…」
 まだ何か言いたそうにしていたが、結局そいつは引き下がった。






 夕鈴が声をあげて泣いたのは一度きりだ。
 それを、自分は少し離れた場所から見ていた。


『僕がそばにいるよ。』
 その彼女を抱きしめて優しく宥める背中。
 たった1人にだけ向けられる声で、同じ言葉を繰り返す。

 ―――あの時アイツを泣かせてやれたのは黎翔だった。

 だから、今日は会いに行かない。



「…さっさとくっつけ。」
 その方がどんなに気が楽か。

 2人がそれを自覚したのはかなり前だ。
 …気づいていないのは想われている当の本人だけ。
 どこまでも鈍い幼馴染は、今だどちらの気持ちにも気づいていない。

 変わらない。だから変われない。
 だから、アイツも俺もその一歩が踏み出せないでいる。


「早くしやがれ。」
 他の誰かなら許さなかった。
 だが、アイツなら良い。周りが何を言おうとも、俺だけは味方してやる。
 ―――だからさっさとしろと思う。

「……馬鹿が。」

 小さく毒づいた頃、静かに降り続いていた雨が止む。
 それに気づいて空を見上げ、それから誰にも告げずに部屋を出た。













「あ、几鍔!」
 今一番会うつもりがなかった2人に会う。
 先に気づいて声を出したのは夕鈴の方。
「ちょうど呼びに行こうと思ってたんだ。」
 後ろの黎翔もそう言ってにこにこと笑う。
「…あ?」
 そのまま無視して通り過ぎてやろうかとも思ったが、2人の行き先は俺のようだ。
 めんどくさいと思いつつも立ち止まらざるを得ない。

「今から母さんのお墓参りに行くの。」
「だから一緒に行こうかって。」
 一度顔を見合わせてから、2人は几鍔に笑顔を向ける。
「……」

 もう少し時間をずらすべきだったか。
 …本当は、こいつらより先に済ませておくつもりだった。
 こいつらに誘われるのは分かりきっていたから。

(つーか、気ぃ遣ってんのがわかんねーのか こいつらは…)

 命日の墓参り。そんなもの 断れない理由の最たるものだ。
 …断ってもしつこく誘うんだろうが。

「行くよね?」
 異論は認めないと黎翔は笑顔のままでプレッシャーをかける。
 …来て欲しいんだか欲しくないんだか。
「……ああ。」
「よし! じゃあ行きましょう♪」
 几鍔の返事にぱっと表情を明るくした夕鈴が、元気良く背を向けて先頭を歩き出す。
 男2人はその後ろ。これが定位置。


 ―――そしていつもの3人組。


 変わるきっかけが、まだ見つからない。



+++
拍手に置いてた(カテゴリ収録済) 命日編のアニキ視点。微妙にシリアス?
あの日出遅れたというのは几鍔の中で大きくて、だから身を引いてる感。



→王宮編へ



2012.8.29. UP



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お題:≪ 夢のような夢のはなし ≫…を色々なキャラの視点で描いて沢山載せて欲しい

幻想民族様、ものすごくお待たせ致しました〜!(土下座)
一月過ぎどころか3ヶ月ほどお待たせしてました(汗)
さらにあと半分… もうちょっと待って下さいませ…!(>_<)

とりあえず下町編のみ。
明玉のだけやたらに長いのは悪ノリしたせいです。
明玉視点になってない。というツッコミはご尤もでございます。
でも書きたかったんだもん…!(開き直るな)

王宮編も数日中には書き上げたいです!!
こちらは方淵と水月と李順と浩大かな?

オマケまで行き着くかが問題です。
黎翔&夕鈴の話と、こちらの"狼陛下"のお話も書けたら書きたいです。


このパラレルワールド入れ替わりネタは考えるほどにあるマンガを思い出します。
昔なかよしという雑誌に「せりなリニューアル!」というものがありまして。
そのイメージがどうしても。いや、作品内への影響はありませんが。
ちょろっとウィキってみたら、あまりのざっくり説明に苦笑い。
しかも6話だったんだなと。もっと長いと思ってた。
 


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