国王一家の平穏な休日 1
      ※ 480000Hitリクエストです。キリ番ゲッターよゆまま様に捧げます。
      ※ ちなみに2人は結婚してる前提の未来話です。お子様'sは7歳&5歳です。




 夜が明けて、世界が明るくなった頃。
 夕鈴はいつも通りの時間に目を覚ます。

「―――…」
 眠ったときと同じ、彼の腕の中での目覚め。
 もうすっかり慣れてしまったこの温かさから、今更離れようとは思わない。

「…でも、朝までこの状態はどうかと思うのよね。」
 目の前にある端正な顔を見上げながら、夕鈴は何度目かになる同じ言葉を呟いて小さく息
 を吐いた。

 別にこの状態が嫌なわけではないのだけど。
 ただ、朝までということは、つまり 一晩中頭で陛下の腕を敷いてしまっているというこ
 とで。
 腕が痺れてしまうからと何度も注意するけれど、こればかりは一向に止めてくれない。

「そんなことないよって笑顔でかわされるだけなんだもの…」
 彼が眠った後でこっそり離れたこともある。
 けれど朝起きたら結局同じ。けれど夕鈴もこればっかりは諦めるわけにはいかないし。
 いたちごっこみたいな勝負は今もまだ終わりが見えなかった。

「いつまで経っても陛下は私に甘いままですね。」
 指先で頬に触れて、細く尖った輪郭をそっと撫でる。
 普段は恥ずかしくて自分から触れることはできないけれど、彼が寝ている今だけはちょっ
 とだけ大胆になれた。
 これは彼が目を覚ますまでの、夕鈴にとって短いけれど楽しい時間だ。



「……へーか?」
 いつもなら すぐ目を覚ますはずの彼を小さな声で呼んでみる。
 整ったきれいな顔をしばらく眺めていたけれど、彼の人は珍しく起きなかった。
「…昨晩も遅くまでお仕事されていたし 仕方ないわね。」
 よほどお疲れなのだろうと苦笑いする。

 昨夜は陛下から言われた通りに彼の部屋で待っていたものの、戻ってきたのはずいぶん遅
 かった。
 それからちょっとはいちゃいちゃもしたけれど、いつもよりずいぶん早く人を抱き枕にし
 て寝入ってしまったのだ。

「―――陛下はもう少し寝てても良いわよね。」
 夕鈴としても一緒にいたい気もするけれど、こちらはそろそろ起きなければならない時間
 だ。迎えに来る侍女を待たせるのも忍びない。
「…では、陛下。また後で。」
 触れるだけの軽いキスを瞼に落として、彼を起こさないようにそっと寝台から抜け出す。
 そうして女官達が聞かれたときにすぐに答えられるように、自分の居場所を伝えに寝室を
 出ていった。






















 朝食を子ども達と食べた後、夕鈴がひとしきり用事を済ませて子ども達の部屋に戻ると、
 本から顔を上げた鈴花がぴょこんと顔を上げてこちらに走ってきた。

「おかあさまぁ、おとうさまはどこー?」
 5歳になる娘が飛びついてくるのをぽすんと両腕で受け止める。
 髪に結わいた鈴がリンっと鳴って、今の彼女の気持ちを表しているようだった。

 今日という日を彼女は心待ちにしていたのだ。
 そしてそれは全員が揃わないといけないのだけど。

「お父様はちょっとお疲れなの。だから、待ってくれる?」
 鈴花には悪いと思うけれど、そんなに急ぐ必要もないし陛下をできるだけ休ませてあげた
 い。
 そんな夕鈴の気持ちを感じとったのか、鈴花は不機嫌になることもなく「うんっ」と元気
 良く頷いた。
「良い子ね。」
 にっこり笑って頭を撫でると、可愛い娘は嬉しそうにはにかむ。
 陛下と同じ綺麗な黒髪はさらさらの触り心地も同じ。


「―――母上。先に着替えておいた方が良いですか?」
 そこへ息子も顔を出す。手には今日のための衣装一式が乗っていた。
 凛翔の言葉を聞いて、夕鈴もふと考える。
「そうね。その方が早いかも…」

 陛下もそろそろ目を覚ます頃だろう。
 ならば先に準備を終わらせておいた方が早いかもしれない。
 もし着替え終わっても陛下が起きてこない時は、みんなで起こしに行くのも面白そうだと
 思った。

「凛翔は自分でできるわよね?」
「はい。」
 しっかり者の息子は母の問いにこくりと頷く。
 公子・公主だからと甘やかさず、自分のことは自分でするのが夕鈴の方針だ。
 陛下もそれには賛成で、華南ももちろん協力してくれている。
「鈴花。私達も着替えま」

「夕鈴!」

 大きな声に驚いた鈴花が小さな声を上げる。
 それすらもかき消すほどの勢いで、陛下が慌てた様子で駆け込んできた。
「あら、おはようございます。」
 夕鈴が笑顔で挨拶をしたけれど、彼は厳しい顔のまま。
 大股でこっちまで来たかと思ったら、いきなり抱きしめられて腕の中に拘束されてしまっ
 た。
「夕鈴」
「ど、どうなさったんですか??」
 夕鈴をぎゅうぎゅうに締め付ける力は強い。
 その強さは息苦しくもあるが、それ以上に心配になった。
「陛下?」
「―――起きたら君がいないから… 焦った……」
 言葉を吐き出して、ようやくゆるゆると力が抜ける。
 夕鈴の肩口に頭をもたげて彼は深く息を吐いた。

「無理に起こすのもどうかと思って… あの、ごめんなさい。」
 陛下のさらさらの髪をそっと撫でながら謝る。

 何だか陛下の様子がおかしい。
 それは分かっているけれど何もできなくて、力が込められる抱擁をただ受け止めるだけ。


「ごめん、夕鈴… もう大丈夫。」
 ―――しばらくして、顔を上げた陛下はもういつも通り。
 すっかり落ち着きを取り戻してふんわりと笑う。
「ちょっと嫌な夢見ちゃって。ごめんね。」
「いえ……」

 ……ひょっとして、まだトラウマなんだろうか。

 そう思い至ると非常に申し訳ない気分になる。
 今度からは一声かけてから抜けだそうと決めた。



「おとうさま、おはようございます。」
 くいくいと裾を引っ張られた彼が足下に視線を落とす。
「………」
 今まで彼は子ども達の存在すら視界に入っていなかったらしい。
 見上げてくる娘に挨拶されて一瞬固まっていた。

「…おはよう 鈴花。」
 しかし、そこはさすが"父親"だ。
 即座に表情を子どもに向けるものに変えて、背丈の半分にも満たない娘を抱き上げる。
 目線を会わせて笑顔で返せば、娘は満面の笑みでそれに応えた。

「凛翔も、おはよう。」
「おはようございます。父上。」
 さっきまでの不安定さは嘘のよう。
 片手で鈴花を抱きかかえ、凛翔の頭を撫でる姿は、すっかり父親のそれだ。
 そういうところはさすがだと思う。



「おとうさま、もうおきた?」
 こてんと首を傾げて見つめる鈴花に、陛下は苦笑いする。
「うん、起きた。遅くなってゴメンね。」
 彼が謝ると同時に鈴花の瞳がキラキラと輝き出した。
 娘の感情が手に取るように分かってしまって、今度は夕鈴が苦笑い。


「お出かけ!」
 待ってましたとばかりに鈴花が言って、みんなで笑った。




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2012.11.5. UP



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あれ? また夫婦が勝手にいちゃついてますよ(笑)
前置きが長くなりましたが、後半でようやく家族でお出かけです。
 


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