scene3:妃の部屋



「お帰りなさいませ。」
 ふわりと微笑み、部屋を訪れた黎翔を夕鈴はいつものように出迎える。
 そんな彼女の元へ歩み寄り、頬に手を添えて上向かせた彼もまた、極上の甘い笑みで愛し
 い妃を見つめ返した。

「君の笑顔を見るだけで疲れもどこかへ行ってしまうな。」
「まあ、陛下ったら…」
「嘘ではない。君の存在そのものが私の癒しなのだから。」

 極甘な会話を繰り広げながら、黎翔が片手を上げて人払いを命じる。
 するとにこにこと笑みを見せながら侍女達は下がっていった。






「ただいま、夕鈴。」
 彼女達の気配が完全に遠ざかってから、改めて頬にただいまのキスをする。
 それを受けた夕鈴はぽんっと赤くなりつつも、怒ったり逃げたりはしなかった。
 これは彼女を本当の意味で手に入れてからの進歩だ。

「…でもさ、演技とか必要ないと思うんだけど。」
 あんな白々しい夫婦演技で見せつけなくても、本物の恋人同士なんだし。
 そもそも演技より実際の方が甘いとか変な感じだ。
 けれど、夕鈴はぶるぶると首を振る。
「私の心臓が持たないんです!」
 人前でキスとか絶対に無理だと、それが彼女の主張。
「…だったら、2人きりなら構わないんだ?」
「だ、誰にも見られてないなら…」

 嫌なのではなく恥ずかしいだけ。
 黎翔の服の裾をぎゅっと握る手がそれを伝えてくれている。


「…どうしてずっと気づかなかったのかな。」
 君はこんなにも想ってくれていたのに。
 言葉はなくても態度が仕草が、そして澄んだ榛色の瞳が。彼女の全てが"好き"を伝えてい
 た。
 それにずっと気づかなかった自分が不思議でならないくらいに。

「必死で隠していたんですから、気づかれたら困ります。」
「今は?」
 意地悪な質問だと自分で思う。
 にっと笑うと彼女から上目遣いで軽く睨まれた。
「隠したい貴方に知られてしまったのに、今更隠してどうするんですか。」

(…可愛いことを言ってくれる。)

 その言葉も瞳も、そして声さえも。
 僕を煽っていることに気づかないのかな?


「……今夜も泊まろうかな。」
「え!?」
「こんなに可愛い君を置いて帰れない。」
 戸惑う彼女を抱き上げる。
「え、ちょ、陛下!?」
 どんなにもがいても黎翔には何てことはない。
 腕の中にあっさり封じ込めて彼女を寝室に連れ去った。





→寝室へ進む ※(R)


2011.7.31. UP



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実は最初に書いたのはこれでした。
入れ替えたのは、次の寝室が年齢制限入ったからです。
まあ、最後までは書いてないので、そんなないんですけど。一応。



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