scene4:政務室



「まあ、それで?」
 政務室の一角にある彼女専用の椅子。
 そこに座り数人の官吏達に囲まれて、夕鈴は世間話に花を咲かせる。
「もちろん追いかけました。あんなに珍しい毛色の鳥は初めてで…」
 最近は陛下がいない時に話しかけてくれる人が増えた。
 他愛もない会話ばかりだけれど、接する人間がそう多くない夕鈴にとっては新鮮で楽しい。
「結局その鳥は捕まったのですか?」
「いえ、それが……」


「―――楽しそうだな。」
「「!!」」
 カツと背後で響いた靴音に彼らの表情が固まる。
 冷えた声に室内の温度もぐんと下がり、誰かの肩がぶるりと震えた。


「…まずは治水工事の件からだ。」
「はい!」
 黎翔と李順が入ってくると夕鈴の周りにいた者達は慌てて散る。
 場が一気に引き締まり、室内はあっという間に仕事モードに切り替わった。





*





 ふと窓の外へ視線を向けた夕鈴がそっと息を吐く。
 それを偶然見てしまった何人かが固まったのも見えた。

(…全く、)
 内心で溜め息をつく。

 黎翔が咲かせた花は、最近艶を増して他の男をも惹きつけている。
 あれは私のものだと皆知っているだろうに、近づく男は数多い。
 本当に腹立たしいことだ。

 見せたくなければ後宮へ閉じこめてしまえば良いのだが、会えない時間が増えるのもまた
 悔しい。


 ――――ならば、とる方法は、、



「夕鈴。」
「は、はいっ」
 ハッとした彼女が慌てて顔を上げた。
 目が合った黎翔は席を立ち、彼女の傍へと歩み寄る。
 後ろで李順が睨んでいるような気がするが無視した。

 今 何より優先するべきは、美しい花に群がる害虫の駆除だ。


「どうした? 溜め息などついて。何か憂い事でもあるのか?」
「いえ、そういうわけでは…」
 頬に手を添えると、逸らそうとしたのか目が泳ぐ。
 ごにょごにょと言葉を濁す彼女の態度が面白くなくて、顎をとらえると無理矢理こちらを
 向かせた。
「では何に心奪われている?」
「え…」
「私のためにここにいる君が、私以外のものに心奪われているとは…」
 そうして互いしか見えない距離で彼女の大きな瞳を見つめる。
 こんな風に互いだけを見ていられれば良いのに…と思いながら、彼女の瞳に映る自分を見
 ていた。
「君の心をひとところに留めることはできないようだな。」

「―――いえ、私の心はいつも貴方のお側におりますわ。」

「――――…」
 予想外の切り返しに返す言葉を忘れてしまう。
「奪われてなどおりません。先程のあれは… 誰かのせいで寝不足なだけですわ。」
 にこりと笑みを浮かべられ、演技か素か一瞬迷った。
 …寝不足と言われてしまえば、確かに原因は黎翔にあるのだが。
「私のせいか。だがあれは夕鈴が可愛すぎるせいだぞ。」
「陛下…」
 その言葉の意味に気づいて夕鈴は赤くなる。
 熱を持った赤い耳元に唇を寄せた。
「―――止められなくなる。」
「!」

 私だけが近づける距離、私だけが彼女に触れられるのだと。
 彼女は"私"のものだと見せつける。

 横目で見れば息を呑む官吏達が目に入った。
 優越感を得て、ようやく満足する。




 こほんと咳払いが聞こえた。
 この場でそんなことができるとするなら、おそらく李順くらいだろう。
「仕方ない。続きはまた後に。」
 ぽんっと赤い顔から湯気を出す彼女に小さく笑って席に戻る。


 本当に可愛い私の恋人。
 誰にも渡しはしない。


 溢れそうな愛と共に、独占欲も増すばかり。





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2011.7.31. UP



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独占欲丸出しかー!!とツッコミ。
次はキスだけなんですけど、一応指定入れときます。



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