1)夏休みの偶然




 夏休み、3年生は毎日課外授業。
 長期休みなど あってないようなものだった。

 さらに黎翔達は終わってからも暇はなく、生徒会の仕事と続く。
 生徒会の引継ぎは新学期に入ってすぐのため、彼らにはその準備があるからだ。



「ゆーりんに会いたい…」
 夏休みに入ってからは全く会っていない。
 彼女はここぞとばかりにバイトを入れているし、1年と3年では日程そのものが合わない
 のだ。

 「夏休みなら演技は要らないですよね!」なんて可愛い笑顔で言われてしまって。
 そこで引き留められなかったことに、後で思いきり後悔して凹んだのはいうまでもない。


「夕鈴…」
 李順しかいないのを良いことに、机に突っ伏して思い切りダレる。
「はいはい。」
 李順は軽く聞き流して書類を横に積み上げていた。
 将来自分の右腕となる男は憎らしいほどに優秀で相変わらず容赦がない。

「会いたいなぁ…」
 ダレたままでもう一度呟く。



 完全に夕鈴欠乏症だ。
 夢でも良いから会いたいくらい彼女が足りない。
 本当は本物に会いたいけれど、叶わないなら夢でも良い。

 そんなささやかなものを願うほど、夕鈴がいない日常は辛かった。



















「――――…」
 最初は白昼夢かと思った。
 会いたいと思い続けたから、ついに幻を見てしまったのかと。

「ゆうりん…?」

 目の前に何故か夕鈴がいる。
 何度瞬きしても不思議と彼女は消えない。



 ―――出会ったのは図書室前。
 見慣れた制服姿で彼女はそこに立っていた。



「あ、会長。」
 黎翔に気づくと笑顔で声をかけられる。
 どうやら幻じゃなかったらしい。

 …けれど、まだ半分くらいは信じられずにいた。

「…今日は、課外ない日だよね?」
 触れたら消えてしまうかもしれないと、一歩分開けて立ち止まる。
 誰かが聞いたら呆れてしまうだろうがけっこう本気だった。

「時間が余ったので図書室で本を借りようと思って。」
 そう答えた彼女はいつものように屈託なく笑う。
 試しに触れてみても彼女は消えなかった。

 聞けば今日はバイトも休みらしい。

 …つまり、今日の彼女には時間がある。
 そう思ったら黎翔の行動は早かった。


「ねえ、夕鈴。一つ提案があるんだけど―――」

 そこですかさず約束を取り付け、互いの用事がひと段落した後でお昼を一緒に食べること
 になったのだった。















「次の書類は?」
 さっきまでのやる気のなさはどこへやら。
 黎翔の機嫌はすっかり直りきり、仕事は次々と処理されていく。

 夕鈴は本を借りた後で職員室に顔を出してからこちらへ来るという。
 彼女の手作り弁当はないけれど、久しぶりに過ごす彼女との昼食の時間。
 心が浮き立つのは仕方がない。





「―――このままにはしておけませんね…」
 それに一つの危機感を抱き、李順はメガネを光らせた。




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2012.3.3. UP (拍手から再録)



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以前拍手に置いていた序章的な部分です。
何やら李順さんが企んでるみたいなコメントを頂きました(笑)
別にそんなつもりは…(ごにょごにょ)



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