☆はっぴい・はろうぃん☆(1)




 ・・・・お妃様、今夜は、こちらをお付けになり陛下をお待ちくださいませ。

 その日、突然侍女に手渡されたのは、見たこともない不思議な形をしたものだった。
 それは薄くて大きさは手のひらに乗るくらいで、表面を撫でると柔らかい布の触り心地で。
 縁を金糸のレースで縁取られて、中央に大粒の緑柱石を配し、見たことの無い綺麗な鳥の
 羽がついたもの。

(でもこれを「付ける」って、一体どこに??)

 
「これは、何でしょうか? 見たことが無い品ですが」
 ・・・・西の国の献上品で《ますかれいど》という仮面らしいですわ。

 首を傾げて問いかけた夕鈴に、侍女は丁寧に説明をしてくれた。
 どうやらこれは目元を隠すものらしい。
 でも、李順さんのメガネとは違って、これは正体を隠す時に使うとのこと。

  
 ・・・・もうすぐ、陛下がお渡りになります。

 そう告げた侍女が、夕鈴の手の中にある"仮面"を指差す。
 そうしてにこりと微笑んだ。

 ・・・・こちらをつけて老師のもとにいくそうですわ。
「老師のもとですか・・・?」

 これと老師に何か関係があるのだろうか。
 先程から疑問は尽きない。

 けれど、全ては陛下の指示。
 だったら夕鈴が取る行動は他になかった。

「分かりました。こうですか?」

 それを自分の目にあててみる。
 でも、これを次にどうしたら良いのかが分からない。

 
 ・・・・お妃様失礼致します。

 察した侍女の1人が後ろにまわって 夕鈴の手からそっと仮面を取る。

 ・・・・お手伝いいたします。

 夕鈴がきょとんとしている間に、彼女は伸びる紐を夕鈴の頭の後ろに回して固定させた。

(何だか縁の大きなメガネをしているみたい。)

 
 ・・・・まぁ、瞳の色が映えて、大変お美しいです。

 瞳をキラキラとさせて侍女が褒める。

 ・・・・陛下の目は、確かですわね。

 お世辞だと分かってはいるのだけど、こう正面から言われると恥ずかしくて堪らない。

 
「・・・・・ありがとう。」

 今はそういうのが精一杯だった。

 






《幕間》 数刻前の老師

《なんじゃい。きょうは、献上品がお菓子ばかりじゃの。》
 卓の上に並べられたそれらを一つ一つ確かめて、いつもと違う品々を疑問に思う。
 しかし、さすがは献上品。どれを見ても涎が落ちそうなほど美味しそうなものばかりだ。

《こんなにあるんじゃ・・・食べきれないの。》
 悪戯を思いついたような顔で老師はニタリと笑む。

 
《・・・・どれ、わしが、少し手伝ってやろうかの。》
 そう言って、"選別"するために、献上品の山に手を伸ばした。

 









 ・・・・陛下がお渡りになられました。

 侍女が告げる声に夕鈴はぴょこんと顔を上げる。
 そうして立ち上がり振り返ったところで、待ち人が姿を現した。

『ただいま、夕鈴。』
「おかえりなさいませ、陛下。」
 いつもの挨拶、いつもの光景。
 2人が笑み交わす間に、心得た侍女達は音もなく退出していった。

 
『夕鈴、綺麗だね。』
 2人きりになった途端に小犬に戻った陛下がふんわりと微笑む。
『仮面の色が、深いグリーンだから、君の瞳が引き立って、とても綺麗だよ。』
 若い芽の淡い色ではなく、大樹の深い深い緑。その色だからこそ夕鈴の大地の色が映える
 のだと。
 甘い微笑みと甘い声でそう言いって、彼は夕鈴の目元に口付けた。

(か、仮面の上からで良かった・・・)
 内心でこっそり息を吐く。顔が赤いのも仮面だと隠れてくれるはず。
 そこにほんのちょっと、本当に少しだけ、残念かもなんて思ってしまった気持ちは押し込
 めた。

 

「これはなんなのですか?」
『西の国のお祭りで、【はろうぃん】なる楽しいお祭りがあるんだって。』

 はろ・・・? 聞き慣れない言葉、異国の発音。
 全く想像が付かない。

『何でも、仮装してお菓子を貰う日なのだそうだ。』
「楽しそうですね。あ、だから仮面なのですね。」

 "仮面"で"仮装"して、老師に"お菓子"を貰いに行く。
 これが"はろうぃん"という祭りなのかと理解した。

「陛下も素敵です。」
 陛下もまた、目元を仮面で隠していた。
「陛下は黒の仮面なのですね。」
 陛下の紅い瞳に黒はよく似合う。

『そう、だから老師のところにお菓子を貰いにいこう。きっと、楽しいよ。』
「はい。行きましょう。陛下。」
 差し出された手に夕鈴は自分の手を重ねる。
 すると黒い仮面の向こうで紅い瞳が嬉しそうに笑んだ。

 
『あ・忘れてた。お菓子を貰うには、一つだけルールがあるんだ。』
 人差し指を口元に当てて、楽しそうに陛下がウインクする。

『とりっく・おあ・とりーと』

 陛下の薄い唇から紡がれたのは また知らない言葉だ。

『お菓子をくれないといたずらするぞ、って意味だよ。』

 悪戯をされたくないならお菓子を渡すしかない。
 はろうぃんはお菓子をもらう日なのだから、確かに適当だ。

「とりっく・おあ・とりーと」

 口に出してみてもやっぱり馴染まない。
 何かの呪文みたいだと思った。

 戸惑いながら声に出してみた夕鈴に、彼は「上手だよ」とまた微笑んで。

『・・・さあ、お菓子を貰いにいこうか。』

 夕鈴を部屋から外へと誘い出した。

 








《幕間》二人が居なくなった夕鈴の自室

 ・・・・さあ、みなさん、この部屋のお菓子を撤去しましょう。

 妃の部屋に全員を呼び戻してそう言ったのは女官長。

 ・・・・陛下のご指示です。

 疑問は全て、それで片付けられる。
 それ以上知る必要もないのだと。

 

 ・・・・・あの、寝室の敷布は? 女官長?
 ・・・・取り替えておきましょう。

 ・・・・・寝台に花びらをまくのは?
 ・・・・そこまでは

 張り切りすぎの彼女達に女官長はこっそり苦笑いする。
 しかし、表に出すのは冷静な顔のまま。

 ・・・・花瓶の花を新しくする程度にしてください。

 
 さすがは後宮に仕えるだけのことはあり、手際よく作業は進む。

 

 ・・・・もどられるまで、すぐ。皆様、急ぎましょう。

 女官長の言葉に全員が頷いた。





→2へ



---------------------------------------------------------------------


そんなわけで、ハロウィンネタで遊びました〜

ベース→さくらぱんさん
便乗→かなめ
という構図です。ベースを作ってもらってるのですっごい楽です☆

2012.12.9. 再録



BACK