☆はっぴい・はろうぃん☆ 選択肢1『-緋色の花弁-』
      ※ 大人味注意報です。本編以上の関係が苦手な方はUターン推奨。




『3つの中から1つだけ選んで、ね。』
「〜〜〜っ」

(どれも、いやぁ〜〜)
 どれを選んでも、いつかのイヤガラセとほとんど変わらない。
 選択肢があるだけマシのような雰囲気だけど、結果が変わらないなら同じだ。

 夕鈴の頭の中は、大混乱に陥った。
 残念ながら、ハロウィンの魔法にかかったままの今の彼女には、選ばないという選択肢が
 浮かばなかった。


『何番にする?』
 焦れた彼から再度問いかけられる。
「で、では、1番で…」
 それに慌てた夕鈴は、問われるがままに、深く考えずに思いついた番号を呟いていた。
『分かった。1番だね。』
 にっこりと微笑んだ彼の瞳が、飢えた獣の彩(いろ)に変わる。
『では、夕鈴のお望み通りに口づけすることにしよう・・・』
 大胆な兎だと、腰を引き寄せられた。

(ええっ!!!・・・口づけぇ!?)
 適当に答えただけで順番など気にしていなかったため、その内容に夕鈴は激しく動揺する。
 よりによって、なんてものを引き当ててしまったのだと。


『選んだのは君だ。』
「・・・!!」
 ゆっくりと、陛下の顔が近づく。

 遠くからでも近くで見ても、端整で綺麗な顔。
 見つめられると動けなくなってしまう強いまなざし。
 そして、妖艶な笑みを作る薄い唇。

「・・・っ」
 居たたまれなくなって、ぎゅっと瞳を閉じた。
 見えないだけに 夕鈴の顔に近づく陛下の気配が分かる。

 静まれ心臓。
 そう思うのに、鼓動は激しさを増すばかり。
 

 (ああ・・・・なんで、1番なんて言ったの私・・・・。)
 でも、他の選択肢よりすぐに済むから良いかも・・・ なんて、甘い期待をしてみたり。
 
 跳ね上がる鼓動がピークに達したとき・・・・
 
「!」
 ちゅっと唇に軽い感触・・・
 
 触れただけのぬくもりはすぐに離れる。
 
(終わった・・・?)
 ほっとしたのもつかの間・・・
 
「ッッ」
 吐息が唇にかかったと思ったら、また同じ場所にキスされた。


「ん ――――ッ!?」
 今度は触れるだけじゃない。
 何度も何度も押し当てられて、時に柔らかい下唇を甘噛みされて舐められる。

 それは、長い長い、永遠のような時間に感じられた。

 押しつけられる熱に頭が沸騰しそうになる。
 背筋を這い上がる何かに身体が震えて、意識が遠くに飛んでいきそうになって。
 そんな自分が、怖くて。

「ゃ ・・・んっ」
 けれど、逃げようと後ろに下がるほど、彼との距離は近くなる。
 とん と軽い音を立てて背中が壁につく。
 息苦しさに涙がこぼれて、息が乱れて足が震えて。

 ―――囚われた唇がふいに離れた。


『・・・ん、ごちそうさま。』
 小さく笑う気配がして、ようやく解放される。
 ぱちりと夕鈴が目を開けると、赤く染まった唇が目に入って瞬時に固まった。
『可愛い、夕鈴。』
 最初の時と同じように、頬に羽根のようなキスをされる。
 
 その衝撃で、逆に目が覚めた。
 
「な、なにするんですかっ!?」
 約束と違うと叫んで相手を睨む。

(いたずらで、こんなの、有り得ない―――ッ!)

「は、離してくださいっ」
 胸元に添えた手で陛下を押しのけようとするが、全然うまくいかない。
 それでも暴れるままに押していたら、陛下に手首を囚われた。
「ちょ・・・っ」
 背中はすでに壁についていて逃げられないし、絡んだ手を壁に押し付けられると身動きで
 きなくなる。

『夕鈴、』
 夕鈴の耳元で、陛下の危険を孕んだ囁き声。
 甘く熱い吐息が耳朶をくすぐる。
『私は一言も、唇とも、一回だけとも、言っていない。』
 低く痺れる声が、しれっとそんなことを言った。
 
「なん・・・! ひゃ・・・ッ」
 反論する前に 派手な音をたてて耳にキスされた。
 聞いたこともない自分の変な声に慌てて口を引き結ぶけれど、それを面白がるように陛下
 は繰り返す。
「っ ・・・ゃ!」
 耳の形を丹念に舌で嬲(なぶ)られる。
 感覚が、音が、熱を上げていくようだった。

 囚われの兎は動けないまま、耳を辿った唇は柔らかな首筋へと降りていく。
「っ!」
 チリッ・・・ピリリ・・・と 首筋に見知らぬ甘い痛みが走る。


 お互いの息遣いしか聞こえない静寂の空間で、清らかで真っ白な雪原に散る寒椿の花のよ
 うに・・・
 夕鈴の白い首筋には、黎翔の紅い花弁がくっきりと刻まれていく。


 ひとつ・・・・ふたつ・・・・みっ・・・・

「あっ・・・・ぁん・・・やぁ・・・」
 首筋に甘い痛みが走る毎に、乱れる息遣いと零れ落ちる聞きなじみの無い甘い声。
 増えていく・・・紅い花弁

 やがて・・・・鎖骨まで陛下の唇が這い、陛下の黒髪しか見えなくなった。


 (もうーーーーーーーーーーーーーーーーーー限界。)
 すぅっと意識が途絶えて、夕鈴の全身から力が抜けた。




 気を失い、黎翔の腕の中で 力の抜けた身体。
 未だ全身を、朱(あけ)に染めたまま 彼女は無防備に身を晒す。

『―――夕鈴には、刺激が強すぎたか・・・』
 気を失ってしまった彼女の腰を掬い上げ、自分の肩へ身体を預けさせる。


 自制できず、止められなかった。
 己の自制心の無さには呆れるしかないが、選んでしまった夕鈴も悪い。

 一度のキスで止められるわけもなく、彼女の限界も考えずに求めた。


 腕の中の獲物の白い首筋に残る緋色の花弁に満足する。
 と、同時に残念に思う。
 
 その先を知りたかったという思いに苦笑する。
 気絶することでその先に黎翔は手を出せず、上手に逃げることのできたかわいい獲物。

 逃げられたという思いとこれからも狩る楽しみができたという思い。



『これだから、夕鈴、君は面白い。』
 夕鈴を抱きしめて、まだ熱を持つ耳元に囁く。

『きみは、もう僕のもの。』

 一度でも手を出したら手放せなくなるのは分かっていた。
 だから、深く触れようとはしなかったのに。

 それを崩してしまったのは夕鈴だ。


『今回は、逃がしてあげる。』

 夢の中へと逃げ込んだ兎を、今はそのままにしておく。
 けれど、君はもう僕の囲いの中。

『二度目は無いよ・・・・もう、逃がさないから。』

 ゆらゆらと夕鈴を抱きかかえて、大事そうに寝室へ運ぶ。



 愛(いと)しくて愛(あい)らしい獲物は狩人の住む後宮からもう逃げられない。


 紅い瞳を光らせた彼の言葉だけが、静かに空気に溶けて消えた。




→後書きへ



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緋色・・・・思ひの色。情熱を指す言葉【色辞典】

初っ端からがっつりです(笑)
最初の案ではどれを選んでも朝には痕がv ってゆー展開でしたけど。
他がほのぼのになったので、これだけ大人味に。

2012.12.9. 再録



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