☆はっぴい・はろうぃん☆ 選択肢2『兎の枕唄ーうさぎのまくらうたー』




「う・・・ 2の子守唄でお願いします・・・・・・」
 散々悩み抜いた結果、子守唄を選択した。
 
 選んだ理由は、キスや添い寝ほど近くない!という点。
 
 陛下が歌っている間にさっさと寝てしまえばいい。

 (私にしては、・・・いいアイディアだわ。)




『子守唄なのだから、夜着に着替えておいで・・・』
『妃の衣では、眠りにくいから』と、そう言われて夕鈴が着替えてきた時には、何故か陛
 下の手元には――― 一冊の本。

「・・・・・・?」
 子守唄のはずなのにと首を傾げる夕鈴をよそに、陛下は、その本を抱えたまま寝室に足を
 向ける。
 その手は、しっかりと夕鈴の手を握り締めて・・・・

(え・・・と・・・・・・)
 少し骨ばる大きな陛下の手に包まれて、視線が、握られた手から外せない。
 ・・・・そのぬくもりに陛下をますます意識しだして、夕鈴は焦りだす。


(というか・・・今更だけど・・・・・・子守唄って、どうなのかしら・・・・・・)
 陛下と共に寝室へと歩を進めながら、夕鈴は急に気恥ずかしくなってきた。

 改めて、大きくなってから子供でもないのに子守唄を歌ってもらうなんて、という考えに
 至ってしまって。
 真っ赤になった夕鈴の足取りは、自然と重くなっていく。


『夕鈴、あきらめたら?』
「だって・・・恥ずかしいんです。」
 真っ赤な顔で夕鈴がか細く呟く。
 重くなっていた足取りがついに止まってしまった。
「やっぱり、子守唄なんて 歌わなくても・・・」
『それだと僕は約束を破ることになるよ。』
 困ったような顔をしながらも、声は楽しそうに響く。
『夕鈴が眠るまでの約束だからね。』
 少しだけ強く寝台に手を引かれ促された。

『はい、どうぞ。』
 絡んでいた手が離れて、代わりに背中を押される。
 懇願する気分で彼の方を見上げると 逆ににこりと微笑まれてしまった。
「・・・・・・・・・」
 どうやっても逃げられないと悟り、夕鈴は恐る恐る床に入る。
 それを見届けた陛下は手近な椅子を持ってくるとそこに座った。


『―――――・・・』
 紅い瞳でじっと見下ろされる。
 その表情は読めない。

(い、居たたまれない・・・・・・)
 今すぐ布団を頭まで被ってしまいたい気分だ。
 というか、早く済ませたい。

「へいか、早く子守唄歌ってください。」
『それがさぁ・・・』
 夕鈴が催促すると、彼は困った顔で頬をかく。
 ほのかな明かりに照らされた陛下は、本当に困った様子で彼女を見つめていた。

『よく考えると僕、子守唄って歌ったことないんだよね。』
「へっ?」
 根本的な問題を告げられた夕鈴は思わず間の抜けた声を出してしまう。
 ここまで準備しておいて、歌えないとはどういうことだと。
『夕鈴、僕に教えてよ。』
「えええっ・・・・」
『じゃないと、僕 君に子守唄歌えない。』
 途方に暮れた小犬の頭がだんだんと落ちていく。
 うるうると紅い瞳は潤みだし、幻の耳と尻尾は申し訳なさそうにしょんぼりと下がっていっ
 た。
 申し訳ないと全身で謝る陛下の姿を前に、夕鈴にもどうして良いのか分からない。

『歌ってよ、夕鈴。』
 潤んだ紅い瞳の小犬が懇願する。
「へ!?」
 予想もしてなかったお願いをされてしまった夕鈴は狼狽えた。
 さらには『駄目かな?』と小犬がじっと見つめてくる。

(うっ・・・ 小犬でお願いなんてずるいわよーーーーーっ!)

「私が、歌うんですか?」
 駄目元で抵抗を試みてみるも、
『うん・・・・教えて!!!』
 解決策が見つかったとばかりに喜ぶ陛下を見れば断りきれない。

(は・・・はずかしい、けど・・・)

「一度だけですよ。」
 そう 念を押して、夕鈴は歌いだした。


 かつて、弟・青慎に歌っていた子守唄・・・・

 銀の鈴が震えるような澄んだ優しい夕鈴の歌声が 静かな寝室に静かに染みていく・・・・

 柔らかな子守唄だった。


♪
 ねむれ  ねむれ
 やさしい まどろみに  ねむれ
  
 春の暖かな陽だまり
 春風の優しさ
 芽吹く季節
 はじまりの 時を夢見て・・・・

 

 ねむれ  ねむれ
 楽しい まどろみに  ねむれ

 夏の眩しい太陽
 爽やかな高原の風
 水辺の煌めき
 喜びに溢れる 時を夢見て・・・・

 

 ねむれ  ねむれ
 深い まどろみに  ねむれ

 秋の錦
 稔りの大地に
 輝く金の穂波
 心豊かな 時を夢見て・・・・

 

 ねむれ  ねむれ
 安らかな まどろみに  ねむれ

 冬の雪原
 キラキラと・・・
 野うさぎの足跡
 春を待ち望む 時を夢見て・・・・

 
 ねむれ  ねむれ
 巡る季節が 何度訪れようとも 
 変わらない 安らぎをあなたに

 満ち足りた まどろみに  ねむれ ♪♪
 
 




 夕鈴が歌い上げた後には、優しい余韻が残る。

「陛下のご希望通り、歌いましたよ。」
 いつの間にか、瞳を閉じて聞いていた陛下の瞳が開く。

 紅い瞳が、とても優しい。
 陛下には珍しい慈愛を含んだ紅い瞳で夕鈴を見ていた。

『―――優しい歌だね。これならぐっすり眠れそうだ。』
「・・・次は陛下が歌う番ですよ。」
 照れて顔が赤くなっていた夕鈴は、それを誤魔化すように早口で言う。
『あ、聞き惚れてて覚え損ねた。』
 なのに、けろっとした顔でそんな返事が返ってきた。
「ちょっ 私が歌った意味ないじゃないですかッ」
『え、僕は満足したよ?』
「陛下が、私に、子守唄を歌うんじゃなかったんですか!?」
『あー そうだったねぇ』
 夕鈴の責める言葉などどこ吹く風。
 羞恥と相まって、夕鈴の怒りは臨界点を越えた。

「歌わないなら部屋に戻ってくださいっ!」
 がばりと起き上がり、寝室の出入り口をびしっと指差す。
『うーん、じゃあ歌じゃないけど、確実に眠くなるという歴史書の朗読を―――』
「そんなんで寝たくないです! 全然気持ち良くないです!!」

(あれ、その為の本だったの!?)
 彼が今も膝の上に乗せているモノをちらりと見る。
 それで最初から歌うつもりなんてなかったんだと知った。

『いたずらだから、良いんじゃない?』
 ペロリと赤い舌を出して、怒られたとばかりににっこりと笑う。
 それはそれは、幸せそうに・・・・。

「さっさと部屋に帰ってください!!!」
 けれど、呆れて怒った兎には通用しなかった。


 くすくすと笑いながら、陛下は部屋から追い出されたという。




→後書きへ



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子守唄はさくらぱんさんの作詞ですv
いつも素敵な詩を書かれてるんですよ〜

そして、陛下が歌うはずなのに夕鈴が歌っている不思議(笑)

2012.12.9. 再録



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