第三部『星遊び』




☆本誌11月号本誌まるごとストーリー・がっつりネタバレ含みます。
 コミックス派の方は、Uターン推奨。


 

『ゆうりん、ほら・・・早く早く!!!』
 弾む陛下の声が夕鈴を呼ぶ。
『あと少しで、一番見晴らしのいい所だから!!!』
 
 先を急ぐ陛下は、はるか階段の上。
 星離宮での星祭りの宴を終えた後、陛下に誘われて離宮の夜の庭へとで抜けだした。
 

 疲労困憊な私とは違い、陛下は駆け出すほどにとっても元気で・・・
 「・・・・お元気ですね。陛下・・・・」
 ヨロメキながらも、やっと追いついた陛下にようやく呟く。
 
(祭りの後の深夜だというのに・・・この陛下の元気さは・・・)
 呆れつつも、疲れていてもそれにつき合う私には、疲れた乾いた笑みしか浮かばない。
 
『えーーーーーーー?』
 始終ニコニコ大変元気な陛下には、私の厭味(いやみ)は届かなかった。
 
 それどころか・・・・
 
『そりゃそうだよ!!』
 邪気の無い純粋な笑顔が輝く。
 
『やっとお嫁さんに会えて(嬉しい)!!!』
 見えない小犬の耳が ぴんと立ち、喜んでいる。
 
『思う存分(遊びの)誘惑していいんだからね!!!』
 これまた見えない陛下の尻尾がブンブン振られていた。
 
 ―――夕鈴をいっぱい待ったよ。星祭りが終わるまで、ずっとずぅぅっと待っていたんだ。
 
 ―――さあ、遊ぼう!!! 今すぐ、遊ぼう!!!
 
 瞳をキラキラと輝かせ、陛下は全身で無邪気に遊ぼうと訴えている。
 

 (・・・・このひと、どれだけ遊びたかったの)
 全身で遊ぼうと言っている陛下に唖然とした。
 
 だけど夕鈴は、陛下の心に気付かない。
 こんなに遊びたいと願うのが、夕鈴ただ一人だけということを。
 
 はぁーーーーーーーーー・・・
 
 夕鈴は小さく長いため息をつき、瞑目する。
 
(こっちは、もうクタクタだわ・・・)
 陛下は元気だけれど、私はよろめく身体をようやく支え、立っているのもやっとだ。
(・・・・この旅行ほんと思ったより大変だった・・・)
 

 振り返る旅行の思い出は、あまりに予想外だった。
 
 一人祭りの勉強に励む夕鈴に、陛下の(遊びの)誘惑、
 幽霊騒ぎに、あげく刺客に襲われ、いつのまにか囮になっていたこと。
 
 星祭りの参加・・・・失態と神事と宴・・・・・
 
 どれも、これも夕鈴には、辛い日々だった・・・・
 

『だって』
 不意に、夕鈴の右手がやさしく捕られ、陛下に引き寄せられる。
 
『夕鈴と二人で星を見るの楽しみにしてたんだよ。』
 
 柔らかく嬉しそうに笑う陛下に、『とくん。』と、心臓が大きく跳ねた。
 時が、止まったかのような一瞬の笑顔に魅入られる。
 

(ああもうっ)
 そんな笑顔、反則だと思う。
 
(そんなの 私だってずっとーーーーーー・・・)
 言えない言葉、言えない気持ち。
 でも、星祭りと聞いた時から、私も陛下と二人で星を見るのを、ずっと楽しみにしてたん
 だもの。
 
 思い出されるのは、星祭に夢を馳せて、ドキドキ、ワクワクで過ごした王宮での数日間。
 
 火照りだした身体の熱は、止まらない。
 きっと、顔まで赤いに違いない。
 
 今が、夜でホントによかった。
 

(この人はまた、バイト相手にそー言うことを言って・・・)
 ・・・勘違いするじゃない。
(もーーーーーーっっ)
 もちろん、ほんとは理不尽な怒りだと分かってるけれど。
 
 でも、その怒りもすぐに静まる。
 
 怒りたいけど、怒れない。
 
 貴方も、私と同じ気持ちで時を過ごしていたことを知ったから・・・だから。
 貴方の溢れる気持ちが暖かい。私まで暖かくなれる。優しくなれる。
 

 それに、貴方のその笑顔を見てると・・・
 (クタクタなのとか、全部どうでもよくなっちゃうじゃないの)
 



 漆黒の空に輝き冴えわたる煌めく星空を背に、陛下が少年のように笑う。
 
 握られた右手は、そのままに・・
 火照る頬はそのままに・・・・
 
 貴方と、遊ぼう。綺麗な星の下で。
 今まで、会えなかった分まで・・・・
 

『ねえ、夕鈴。あの星分かる?』
 陛下の指差す星を私も眺める。
『えっと、ですねっ・・・』
 
 星祭りも終わり、明日からはいつも通りの日常へ・・・
 
 その前に、少しだけ。
 貴方と約束した二人だけの時 ー星遊びー を楽しみましょう。
 


 ―――やっと、貴方と見れた星空が、こんなに綺麗なんだから
 



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ここまで本誌軸。
けれど、この後も もう少し話は続くのですww

2012.12.22. 再録



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