『秘色 ーひしょく Vー』




 その日の夜、
 ・・・いつものように先触れが王の渡りを告げた。



 黎翔を侍女が出迎え、夕鈴が人払いをしていることを彼に告げる。
 それに分かったと頷き 侍女を下がらせた。


『・・・・夕鈴』
 足を踏み入れると、新月で星明かりしか見えない夜なのに、何故か 部屋の明かりがほと
 んど落とされていた。
 薄暗く闇に包まれた居室は静寂に包まれている。

『今、戻った。』
 声をかけるも、居間に目的の夕鈴の姿がない。
 人払いまでして誰もいないとは、どういうことなのだろうか?

『・・・夕鈴?』
 何度彼女を呼んでも返事がない。
 焦燥と不安に駆られて、彼は夕鈴の姿を探しだした。




『夕鈴!!』

 ―――そして、奥の寝室に最愛の人を見つけた。
 寝台にくず折れるようにして夕鈴はそこにいたのだ。

 灯されている灯りは一つだけ。
 揺らめく灯火に照らされた彼女は、とても座ってなど居られない風にしている。

『どうした 夕鈴!』
 ただならぬ彼女の様子に、黎翔はびっくりして夕鈴に駆け寄った。


『具合が悪いの? 人払いまでして、どうしたの?』
「ああ・・・陛下。」
 その声に反応して、ゆっくりと目を開けた夕鈴が黎翔の方を見上げた。


 ほんとうに、どこか具合が悪いのか。
 灯火の灯る闇に消えゆくか細き声は、とても儚げで・・・

 それに、美しく着飾った夕鈴のこの姿。これはどういうことなのだろう・・・
 寝台にくず折れた愛しい人の姿に、彼女には悪いが黎翔はごくりと唾を飲み込んだ。

 シャララーーン・・・
 繊細な歩庸の重なる音が響く。
 夕鈴が身動きするごとに、涼やかな音がする。


 灯火に、金剛石の光りの粒が軌跡を作り鋭く煌めく。
 淡いはずの金茶の髪が、濃い蜂蜜色の光りを放つ・・・

 大胆な夕鈴の衣装は、いつもより露に胸元が開いており、柔らかでたわわな二つの双丘が
 白く輝いていた。
 すこし、俯き加減に傾いだ夕鈴の艶めく姿態は、深い胸の谷間の奥まで見えそうで・・・・

 彼女から、くらくらと眩暈がするほどの良い香りがする。

 夜に咲くという月に愛されし、月下美人の花のごとく・・・
 なんとも繊細かつ濃厚に香りを放つ私の女神・・・


 いつもとあまりにも違う。
 艶の或る夕鈴に、黎翔は焦燥感を募らせる。

 なぜかいつもと違う夕鈴のこの姿に、先ほどから動悸が止まらない。
 黎翔の急上昇する心拍数・・・・ドキドキがとまらない。

(咽喉が渇く・・・)
 君を求める心が、飢えを訴えていた。


「・・・・・陛下。」
 微熱めいた光で濡れたはしばみ色の瞳が黎翔を見る。

 再び呼ばれた、自分を呼ぶ愛しい妃の声。
 ふっくらとした柔らかな形の良い唇が名を紡ぐ。

 愛しい人のたおやかなその姿に、びっくりして助け起こすも、どうして良いのか分からな
 い。


『――――…』
 服の胸元が大胆に開いているため、どうにも目のやり場に困る。
 視線も、両手も彷徨わせて、黎翔は動揺が隠せない。


 ただ・・・気がつくと黎翔は、はしばみ色した美しい女神に魅入られていた。 




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陛下の理性がヤバイ(笑)


2013.1.14. 再録



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