『秘色 ーひしょく Xー』




 新年の参賀は予定通り執り行われ、恙(つつが)無く粛々と進められていた。

 年の初めの良き日、けれど黎翔の心は晴れない。
 華やかな臣下達の新春の挨拶を聞きながら、黎翔は未だ視線を合わさぬ夕鈴に、どうした
 らいいものかと考えあぐねていた。



 ・・・・・・あの夜から数日。
 あれから君は、一言も口を利いてくれない。

 あれは―――あの夜の誤解は 仕方なかったのだと思うのだけれど。
 僕は、かなり堪えてしまい凹んでいる。

 君が僕の腕の中で気絶してしまってから、僕は本当のことに気付いてしまった・・・・・











『夕鈴・・・?』
 腕の中に抱いた夕鈴に違和感を抱く。

 柔らかなはずの君の身体が 鋼のように硬かった。
 まるで、薄い鉄の板で覆われたかのようだったのだ。

 まさかと思い、君の衣を脱がせた。
 ・・・破裂しそうな胸の鼓動を止められないままに、指先だけはせわしなく君の衣の帯を
 解く。


 ・・・・まさか!?
 ・・・・・・・・まさか!?

 シュルリ・・・と絹擦れの音を立てながら、華やかな衣装を緩めていく。
 肌触りの良い絹の衣装を慎重に脱がせていった。


『・・・・・これは・・・・』
 ほとんど緩め脱がせた夕鈴の衣装を前にして、黎翔は眉をしかめた。
 黎翔の双眼が細められ・・・絶句する。

 優雅な絹造りの責め苦のような下着姿の夕鈴に・・・

 白い幾つもの複雑に編まれた紐、絞るだけ絞ったというウエスト。
 痛ましい夕鈴の姿。
 君の弱々しい姿と胸が苦しいと訴えていた姿をダブらせる。
 
『ああ・・・・君は、コレに耐えていたんだね。』

 告白と勘違いして、君の唇を奪ってしまった。
 ずきんと胸が痛い。

 背中の下着の紐の先は、おそらく他人が結んだものだろう。
 この位置では彼女の手には届かない。

『・・・・・早く気付いてあげれば良かった。』
 告白でなかったことにがっかりしながらも、夕鈴の下着の紐を緩める。
 緩めるにつれて、苦しそうな表情が薄れてきた。
 ようやく黎翔は 夕鈴の苦しさが開放されたことを知り安堵する。

 夕鈴を苦しめている責め苦の下着の下は、薄絹の下着一枚。
 それに気付いた黎翔は、忌まわしい責め苦下着を剥ぎ取り床に投げ捨てた。

 腕の中には、柔らかな本来の夕鈴の温もり・・・柔らかさ。

 そのまま髪飾りを一つずつ外し卓に置いた。
 癖の無い金茶の髪が宙を舞う。
 はらり・・・・はらり・・・・と夕鈴の背に落ちていった。
 
 全ての歩庸や花簪や宝飾品を外して・・・

 ほぼ素肌の君を腕に抱く・・・
 ほっとしたのが、半分。告白でなかった残念さが半分。


 痛ましさとこの事態を引き起こしたものへの怒りと、言いようの無い《気付けなかった》
 自分への腹立たしさと・・・

 腕の中の夕鈴を寝台に寝かしつけて、黎翔は一つだけ呟いた。


『ごめん・・・夕鈴。』と。




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不憫すぎる陛下ww
ま、良い思いはしましたけど。真実を知ってしまいました。

次でラストです〜


2013.1.14. 再録



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