『秘色 ーひしょく Yー』




 先ほどの夕鈴の姿を黎翔は思い出していた。
 結果として誤解だったとしても、あの夕鈴の姿には心乱された。

 ・・・・とても他人には、見せたくない。
 ・・・・次回、自分を抑えきれる自信がない。

 (実際、未遂とはいえ抑えきれなかった・・・)


『夕鈴・・・ごめん。』
 寝台が黎翔の重みでギシリと音を立てる。
 静かに眠る夕鈴に、黎翔は身を重ねた。

 吐息が白い夕鈴の首筋にかかる。
 首筋の根元・・・鎖骨の柔らかなところに唇を寄せた。

 甘い匂いのする柔らかな夕鈴の白い肌。

 黎翔は、キツく吸い上げて消えない花を一つだけ咲かせる。
 鮮やかな赤の黎翔の所有の花を・・・

 白い首筋に咲き誇る一輪花。
 これでしばらくは、首筋の開いた悩ましい衣装を夕鈴は着たりしないだろう。

 (君は、きっと怒るのだろうな・・・)
 黎翔は複雑な心境で、寝台に眠る夕鈴を切なげに見つめるのだった。





 次の日、目覚めた夕鈴に、やはり黎翔は怒られた。

 真っ赤になって、激昂する彼女に素直に黎翔は謝罪する。
 
 気絶した激しい口付けと、鮮やかな夕鈴の首筋の所有の花に・・・
 そして、意識の無い状態で衣を脱がせたことに・・・

 もちろん、黎翔は後悔などしていない。
 昨夜は、全て仕方なかったことなのだから・・・

 怒られながらも、やはり黎翔の勘は当たった。
 この事態は、全て「氾家」の仕業だったのだということを知ったのだ。
 しかも、あの衣装は《新年参賀》の衣装なのだという。


 首筋の花のせいで衣装が着れなくなったと君は嘆くが、僕は謝りつつも内心ほくそ笑む。

(色っぽい夕鈴のあんな姿、私以外の他の者に見せられるものか・・・)

 夕鈴のあの姿は、僕だけが目にするべきもの。
 秘した色なのだから・・・


 それから僕は結局許してもらえなくて、夕鈴とは仲直りできなかった。
 ・・・・・そして、今に至る。















 はぁ・・・・・

 もう、何度目なのだろうか?
 あの日から、重いため息ばかり零れる。

 
 僕の贈った慎ましやかな衣装を着て美しく着飾り、臣下に優しく微笑む君。
 君が視線をなげかけた臣下達に、理不尽な醜い嫉妬が巻き起こる。
 僕の胸を激しくかき乱す。
 
 ―――夕鈴。
 僕は、もう我慢の限界だ。
 
 いい加減 君をどうしようか 。


 夕鈴に意味深な視線を投げかけて、こちらへと引き寄せた。
「っっ」
 真っ赤になりつつも、臣下の目前のことゆえさほどの抵抗もせず、夕鈴は素直に腕の中に
 納まる。


(もうそろそろ仲直りしよう・・・?)
 君の耳朶に吐息を届けながら、甘く熱く囁いた。
 
(もうそろそろ機嫌を直して・・・ね?)


 僕の腕の中で、羞恥で身を染め 美しく色づく夕鈴。
 その様も、愛(あい)らしくて・・・
 (僕は、愛(いと)しい君を、愛(め)で足りない・・・・・・)



 この国の王、珀 黎翔陛下に《新年の参賀》に来た大臣を始めとする臣下達が眼にしたも
 の。

 臣下の目の前でさえ一時も離さず愛しの妃をその腕に抱き、真っ赤な顔で恥ずかしそうに
 俯く寵妃の耳元で甘く囁く狼陛下とその妃。

 狼陛下の寵愛は、変わらずただ一人の妃にありきと臣下に強く印象付けたのだった。




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秘色・・・翡翠色した門外不出の景徳鎮・官用の色
      皇帝しか使えなかった。 

とのことです。

最後に、さくらぱん様の幕間をお楽しみください。


2013.1.14. 再録



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