狼陛下の兎 オマケD
      ※空白の半年間の話です。




「へーか」
 たどたどしい口調で夕鈴が僕を呼ぶ。
 顔を上げて「おいで」と手招きすれば、可愛い兎は耳を揺らしながらトコトコとやって来
 た。


「おはなし。よんで、ください。」
 夕鈴はまだ言葉を習い始めたばかりだ。辿々しい言葉でお願いしながら、大事そうに胸に
 抱えていた巻物を差し出す。
 まず、舌っ足らずで一生懸命話すのが可愛い。
「いい、ですか?」
 少し控えめに、窺うように尋ねるその仕草も可愛くて仕方がない。

(僕が夕鈴のお願いを断るはずがないのに…)
 そんな風に思いながらにっこりと笑う。
「いいよ。」
「!」
 答えを聞いた瞬間、まるで花が咲くようにぱっと表情が明るくなった。

 彼女は感情表現が豊かで、そんなところは兎の頃と変わらない。
 言葉がなくても彼女が言いたいことはだいたい分かる。


「今日は何のお話かな?」
 膝の上に登ってくるのを待ってから、彼女が見やすいように抱き直してあげた。
 見える?と聞くと頷いたので、落ちないように腕の中に囲う。
「あのね、ろーしがえらんでくれたの。」
 黎翔が紐解く間も待ちきれないらしく、元気な兎は飛び上がる勢いで身を乗り出してきた。
 きらきらと輝く瞳がすぐそばにあって、もう少し近ければ触れてしまうほどだ。
 けれど、興奮気味の彼女はそんなことに気づいてもいない。
 …意識もしていないのだろうが。
「ももからうまれたおとこのこがね、おにをたいじするんだって。」
「へー」
 早く読んでとせがむ夕鈴を落ち着くようにと宥めつつ、大きな字と柔らかな絵で飾られた
 物語を開いた。



「―――昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。」
「…むかし、むかし、ある、ところに、」
 黎翔が読んだ後を、夕鈴が指で押さえながら読んで追いかける。
 最近読み書きも習い始めた夕鈴は、どうやら文字を読むのが楽しいらしい。
「夕鈴、一緒に読むのと僕が読むのはどっちがいい?」
 黎翔はどちらでも構わない。どっちにしても夕鈴は可愛いから。
 クスクス笑いながら尋ねると、彼女は少し悩んで手を離した。
「へーか、よんで!」
「はいはい。―――おじいさんは、山へ芝刈りに…」
 今度は自分が読んでいるところを指で押さえてやる。
 真剣な顔でそれを見つめている夕鈴がおかしくて可愛くて。


慎様よりいただきました☆
 ※ 50%縮小サイズです。原寸はクリック。


 川から桃が流れてきたところで「美味しそう」と呟いてみたり。

 桃太郎が鬼退治に行くとなれば、自分も行きたいと言い出したり。

 鬼退治の場面では一緒に応援しだしたり。


 この短い物語でそこまで一喜一憂できる夕鈴はすごいと思う。

 でも、結局、黎翔の思考の行き着くところはいつも同じ。


(夕鈴は本当に何をしてても可愛いなぁ…)
 誰にも見せられないほど笑み崩れている自分がいた。




「へーか! ゆーりんも、おにたいじ行く!」

 と、膝から飛び降りて走っていこうとするのはさすがに止めたけれど。




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2014.8.4. UP



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何故桃太郎ww 日本の古典だろというツッコミは無しの方向でwww
おそらくかぐや姫だけは読めない陛下。
鶴の恩返しはどうだろう?って、どうでもいいですね。


・コメント欄のおまけ・
鶴の恩返しだとこんな感じになるらしい。

「おんがえしに、じぶんの、はねで……」
「夕鈴?」
「ゆーりんも、けがわで、へーかにつくる!」
「!!?」

 で、慌てて止める陛下。

「毛皮作ったら、さよならになるよ?」
「!…やっぱりやめる」

 陛下と一緒が一番なので、兎さんあっさり承諾。


「これ、おんがえしになる?」
「なるよ。」
「おひざのうえ、いつもといっしょなのに?」
「夕鈴がここにいるのが恩返しなんだよ。それにね、」
 ぎゅっ
「毛皮なんかなくても、こうしてるだけで十分温かいからね。」




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