狼陛下の兎 オマケE
      ※空白の半年間の話です。ハロウィンネタですww




「はろいん?」
 耳慣れない言葉に、ことりと首を傾げる様は何とも愛らしい。
 一緒に長い耳もぺたりと傾くところは、絶対あの王様に見せちゃいけないと浩大は思った。


「ハロウィン、な。とっても楽しい祭りだよ。」
「おまつり! どこ!?」
 その辺りは綺麗に隠しながら訂正してやると、そこはすっ飛ばして別の言葉に目をキラキ
 ラさせる。

 彼女は祭りに行ったことはない。お伽話と浩大達の話で知っているだけだ。
 けれど、それがとっても楽しいと知っている彼女は祭りというものに強く憧れていた。
 確かにあれは面白くて楽しい。行って損なことはない。
 今度下町でお祭りがあるときにはこっそり連れて行ってやろうかと思う。…たぶん、陛下
 もついて来るんだろうけど。

 まあ、でも今の話はこれじゃない。


「普通の祭りとは少し違うんだ。オレもちょっと聞いただけなんだけど、仮装してお菓子
 貰って南瓜で提灯を作るんだってサ。」
「かそー?」
 耳慣れない言葉に夕鈴の頭が疑問符でいっぱいになる。
 お菓子は知ってる、南瓜は美味しい。でも、"かそー"は知らない。
 何それ食べ物?って顔をする彼女に小さく笑って、浩大は近くにあった夕鈴のお絵かき用
 の紙を手に取った。
「こーゆーカッコ するんだって。」
 全身を白い布で覆ったやつ、とんがり帽子のおばあさん、獣みたいな牙を持った男、三角
 の目にギザギザの口をした南瓜の提灯も。
 白い紙に見慣れない不思議な格好をした人(?)達が次々と現れる。
 いろいろ器用な浩大は絵も上手く、生き生きとしたそれらに夕鈴は目を輝かせた。
 そんな中、夕鈴がふと一つの絵に目を留める。

「…こーだい。これやりたい。」
 顔を上げた彼女は一つの絵を指差した。





*





「今宵はこれをお持ちください。」
 自分の部屋へ入る前に、女官長から籠を持たされた。
 中にはたくさんのお菓子。どれもうちの可愛い兎が好きそうなものだ。
 夕鈴に食べさせろということだろうか。しかし、何故今持たされるのかは分からない。


「……?」
 いつもなら、煌々と照らされているはずの部屋は真っ暗だった。
 そしていつもなら、ここで可愛い兎が元気にお出迎えしてくれるのだが。
「夕鈴?」
「―――へーか」
 暗闇の中で声はすぐに返ってきた。
 それを合図にぽつりぽつりと明かりが灯りだす。ただし、いつもより少なく。

「おかえりなさいませ」
 最後に黎翔の正面、夕鈴の声が聞こえたところにも灯が点り、―――不覚にもビックリし
 た。


慎様よりいただきました☆
 ※ 25%縮小サイズです。原寸はクリック。


 最初に目に入ったのは、可愛い兎じゃなくて明かりが入った大きな南瓜だったのだ。

「ゆーりんがつくったの〜!」
 ようやく周りが見えるくらいの明るさになり、夕鈴がそのお化け南瓜を抱えているのだと
 気が付いた。
 三角形が三つとギザギザの穴で顔を表現しているらしい。
 「怖いでしょう!?」と彼女は自慢げに南瓜を見せる。うん、今日もうちの兎は可愛い。

 視界の端で女官達が音もなく下がっていくのが見えた。
 皆頭を下げているのだが、微笑ましいと笑んでいるのだろうとその雰囲気で分かる。

 そこに、かつての殺伐とした後宮の姿は見えない。彼女が変えてしまった。
 それが無自覚なのだから、本当に彼女は凄い。

「うん、すごいね。」
 南瓜をぽんぽんと叩くと彼女は嬉しそうに笑う。
 ああ、もう可愛い。癒される。
 そろそろ抱きしめても良いかなと、二人を阻む大きな南瓜を手にとって近くの卓に置いた。
 よく見れば彼女の服がいつもと違うと気づいたが、そこは今は置いておいてとりあえず夕
 鈴を補給したい。

「とりっくおあとりーと!」
 ところが彼女は抱きつく代わりに、謎の言葉と共に両手を目一杯差し出してきた。
「鳥…?」
「ちがうの! はろいんなのっっ おかしくれないとイタズラしちゃうの〜〜!!」
 一生懸命説明してくれるが、全く言っている意味が分からない。
 はろいんって何だ? かろうじてお菓子は分かったのだが。
「お菓子…? ああ、これか。」
 そういえば、入る前に女官長に籠を持たされていた。
 それを思い出して籠を夕鈴の前に差し出すと、大きな瞳がキラキラと輝く。

「―――ねえ、」

 そこで芽生えた小さな悪戯心。受け取ろうと伸びてきた手からそれを引いてみた。
「どんなイタズラをするつもり?」
 一瞬だけ悲しそうな顔をした後、夕鈴はきょとんとして黎翔の顔を見上げる。
 ちょっとだけ考えるように首を傾げる仕草が可愛すぎてツラい。

「…んと、へーかのおしごとに、おかお かく!」
 そんな愛らしい兎から無邪気な答えが返ってくる。内容はとんでもないが。
「それは李順が泣くなー…」
 素直な兎は本気でやりかねないので、お菓子を渡すことにした。


「ところで…」
 お菓子を貰えてにこにこしている夕鈴を抱き上げて視線を合わせる。
 さっきは後回しにしたが、気になるのは夕鈴が着ているものだ。
「その外套は、私のものでは?」
「っ」
 彼女の反応からして間違いはないようだった。

 今日の夕鈴はいつもの衣装の上から黎翔の黒い外套を着ている。
 ぶかぶかで裾は引きずっているし、襟に顔の半分が埋まっているが、それがまた可愛い。
 というか、自分のものを彼女が身に付けている事実は、彼女ごと自分のものにしたような
 気がしてとても良い。

「どうして?」
 別に怒っているわけではないので優しく甘い声で聞く。
 自分の格好を一度見下ろしてから、彼女は腕の中でにこっと笑った。
「はろいんはかそーするの。こーだいの絵にへーかのとおなじのがあったの。だからね、
 きたかったの。」

 今度は黎翔が息を呑む番だった。


(………やられた)


 何この可愛い生き物。
 いつかこの心臓、止められるかもしれない。




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2014.10.26. UP



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と、いうわけでハロウィンネタでした。

相変わらず種は脳内にて絶賛放映中なわけで。
書いている時に騒がしい丸い球体や緑色の鳥が頭の中をくるくる回っていたのはここだけの話ww



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