狼陛下の兎 オマケ@
      ※2話直後の話です。




「お呼びでしょうか。」
 寝台に腰かける黎翔の前で、女官長が恭しく膝を折り頭を下げる。
 それに隣の少女が小さな反応を示すが、今は視界に入れない。…入れてはいけない。
「すぐに女性用の服を一式用意してくれ。」
「…? それはどのような、」
 答えるために顔を上げた女官長が、黎翔の隣に目をやって一瞬固まった。

「…どちらからお連れになったのですか?」
 さすがは後宮を束ねる者だ。すぐに平静を取り戻し、少し警戒の色を滲ませ静かに問う。
 彼女は後宮の者ならほぼ把握している。見慣れない顔がいれば、そのような態度をとるの
 も当然だ。
「彼女は夕鈴だ。」
 そう黎翔が答えると、相手の表情が警戒したものから怪訝そうな顔に変わった。
「……その名は陛下が可愛がっておられる兎のものでは?」
「だから、その夕鈴だ。」
「……、医師をお呼び致しましょうか?」
 それは私にという意味か。
「私は正常だ。―――これが、証拠だ。」
 納得させるには一番早いと、夕鈴の耳を持ち上げて見せた。
 その時「ひゃ…んっ」と甘く可愛らしい声がしたのは聞かなかったことにした。
 今のその姿でその声は色々危ない。個人的に。

「………かしこまりました。」
 幸い誰にも黎翔の葛藤は伝わらなかったようだ。
 女官長も納得せざるを得なかったようで、一度頭を下げると音も立てずに下がっていった。









 ―――しかし、大変だったのはこの後だ。

「ゃ!」
 元々が兎なのだから仕方ないが、服を着るのを殊の外嫌がったのだ。
 ぷるぷると首を振り、黎翔の袖の後ろに隠れてしまう。


慎様よりいただきました☆
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「夕鈴」
 黎翔が自分の位置をずらして彼女を押し出そうとしても、ぎゅうと袖にすがりついて離れ
 ようとしない。
 …先ほどから柔らかいものが腕に押しつけられていて少し困っているのだが。
 ……加えて言うのなら、寝台に置いた手には時々白い太ももが触れてしまっているのだが。
 それを夕鈴に言っても意味は分かってくれないだろうから何も言えない。

「困りましたわ…」
「夕鈴……」
 暴れたせいで彼女の肩から落ちてしまった布を片手でどうにかかけ直し、女官長と二人で
 どうしたものかと考え込む。
「このままでは李順も呼べないな。」
「せめて、夜着でも着てくだされば良いのですが…」
 こうも頑なではこれ以上為す術もない。
 時間をかければ何とかなるかもしれないが、王である自分にはそんな時間もなかった。
「陛下、夕鈴様のことは今しばらくお待ちして、もう少し落ち着いてからに致しましょう。」
「そうだな。」
 女官長の案に賛同し、今すぐ服を着せるのは諦める。
 二人の様子から察したのか、夕鈴も力を抜いてそっと袖から顔を上げた。

「陛下、先にお召し替えを。」
「ああ。」
 彼女をその場に残して寝台を降り、夜着を脱いで女官長が差し出した衣に腕を通す。
 いつもと変わらない行動のはずのそれを、黎翔はそこでぴたりと止めた。

 ―――背後から視線を感じる。

 視線のみで後ろを振り向くと、寝台の上で夕鈴がこちらをじっと見ていた。
 兎の時と同じ行動をしているだけかもしれないが、人の姿でそうされると何となく気まず
 い。

「……」
 ふと、夕鈴が寝台の上に置いたままだった衣を見下ろす。
 何か思うところがあったのだろうか。
 そっと持ち上げて何度か見比べてから、おそるおそる着物に袖を通した。
「? ああ、真似をしているのか。」
 またじっと見られている理由に合点がいった黎翔は、彼女から見えるように前を合わせ帯
 を締める。
 彼女もそれを真似しようとするが、今度はさすがに上手くできなかった。


慎様よりいただきました☆
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「……ッ」
 3、4回挑戦してみても服はよれるし帯も結べない。
 困り果てた夕鈴は瞳をうるうると潤ませてこちらを見上げてくる。

(夕鈴、それはまずい……)

 あまりの可愛さに直視できずに目を逸らす。
 ついでにいうと前がはだけているせいで際どい部分まで見える。
 …これは見てはいけない。


「―――失礼致します。」
 黎翔が悶々としているうちに、女官長がさっと前を合わせて帯を結ぶ。
 今度は夕鈴も抵抗しなかった。

 ……まあ、ともかく。
 これで一つ問題は解決し、ようやく次に進める。


「李順をここへ。」
「御意。」




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2014.6.18. UP



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コメント欄に降臨なさった兎さんが可愛くて可愛くて。
思わずオマケが出来上がりました(笑)

最初は一枚だったんですけどね、UP後にまた降臨!
一生懸命真似っこする兎さんが可愛くてかわ(ry

こんなに可愛かったら陛下もデレデレになりますね。
格好が格好だけに直視もできませんけどもww



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