かちゃかちゃ、かしゃん… 「う……」 規則正しい音に混じる不協和音。 …もとい、箸を落としてしまった夕鈴が泣きそうな顔になった。 「大丈夫、ゆっくりで良いから。」 立ち上がりかけた腰を何とか落ち着け、代わりに優しく笑ってみせる。 目にいっぱい涙を溜めながらもコクンと頷き、彼女は再び箸を手に取った。 すぐに手を差し出してやりたかったが、彼女は今 食事の練習中。 簡単に甘やかしては彼女のためにならない。 …と言ったのは李順だが。 健気で頑張り屋の彼女はやる気は十分。 よいしょと箸の位置を整え、比較的大きな茹で野菜に狙いを定める。 かちゃん 箸が十字になってしまい、人参は横に逃げてしまう。 「がんばる!」 それでも諦めないでもう一回。 夕鈴は頑張る姿も可愛い。 がちゃ、かしゃんっ 刺すと早いが、行儀が悪いから駄目だと李順に怒られた。 真面目な兎はそれを律儀に守っている。 かちゃ、かちゃ 駄目ならもう一回。あと一回。 奮闘しているが、なかなか上手く掴めない。 「………」 さすがに十を越えた頃、夕鈴の手が止まった。 ※ 50%縮小サイズです。原寸はクリック。 「たべられ、ない…」 ぺたんと垂れた耳、小さく震える唇。 今にも溢れんばかりの涙を湛えて、夕鈴はこちらを見つめてくる。 「〜〜〜っ」 そこが、黎翔の我慢の限界だった。 「夕鈴!」 さっと立ち上がって彼女のそばまで行き、抱き上げると自分の席に戻る。 夕鈴を膝に乗せて片腕で支えると、彼女が好きそうなものを選び箸で摘んだ。 「はい、あーんして。」 彼女の目の前にあるのは、たった今まで格闘していた人参。 黎翔の顔とそれを見比べ、少し躊躇ってから彼女は口を小さく開けた。 「頑張ったね。」 一口サイズのそれを放り込むと、もぐもぐと咀嚼する。 こくりと喉が鳴るまでそれを黙って見つめていた。 「おい、しい…」 幸せそうに、ほんわりと微笑った彼女もまた可愛くて。 「じゃあ、もっと食べさせてあげる。」 やっぱり夕鈴にはどこまでも甘い。 結局いつもの食事風景に戻ってしまっていた。 「陛下! 甘やかさないようにと言ったでしょう!!」 李順の怒声が響いたのはその数分後。 →オマケBへ 2014.6.18. UP --------------------------------------------------------------------- 兎さんの上目遣いはリーサルウェポンです。 こんなんされたら陛下が我慢できるわけないですね。 でも、手は出してませんよ!(笑) 一緒のお布団に寝てますが、半年は健全な関係です。