狼陛下の兎 オマケA
      ※空白の半年間の話です。




 かちゃかちゃ、かしゃん…

「う……」
 規則正しい音に混じる不協和音。
 …もとい、箸を落としてしまった夕鈴が泣きそうな顔になった。

「大丈夫、ゆっくりで良いから。」
 立ち上がりかけた腰を何とか落ち着け、代わりに優しく笑ってみせる。
 目にいっぱい涙を溜めながらもコクンと頷き、彼女は再び箸を手に取った。

 すぐに手を差し出してやりたかったが、彼女は今 食事の練習中。
 簡単に甘やかしては彼女のためにならない。
 …と言ったのは李順だが。

 健気で頑張り屋の彼女はやる気は十分。
 よいしょと箸の位置を整え、比較的大きな茹で野菜に狙いを定める。

 かちゃん

 箸が十字になってしまい、人参は横に逃げてしまう。

「がんばる!」
 それでも諦めないでもう一回。
 夕鈴は頑張る姿も可愛い。

 がちゃ、かしゃんっ

 刺すと早いが、行儀が悪いから駄目だと李順に怒られた。
 真面目な兎はそれを律儀に守っている。

 かちゃ、かちゃ

 駄目ならもう一回。あと一回。
 奮闘しているが、なかなか上手く掴めない。

「………」
 さすがに十を越えた頃、夕鈴の手が止まった。


慎様よりいただきました☆
 ※ 50%縮小サイズです。原寸はクリック。


「たべられ、ない…」
 ぺたんと垂れた耳、小さく震える唇。
 今にも溢れんばかりの涙を湛えて、夕鈴はこちらを見つめてくる。

「〜〜〜っ」
 そこが、黎翔の我慢の限界だった。

「夕鈴!」
 さっと立ち上がって彼女のそばまで行き、抱き上げると自分の席に戻る。
 夕鈴を膝に乗せて片腕で支えると、彼女が好きそうなものを選び箸で摘んだ。

「はい、あーんして。」
 彼女の目の前にあるのは、たった今まで格闘していた人参。
 黎翔の顔とそれを見比べ、少し躊躇ってから彼女は口を小さく開けた。
「頑張ったね。」
 一口サイズのそれを放り込むと、もぐもぐと咀嚼する。
 こくりと喉が鳴るまでそれを黙って見つめていた。
「おい、しい…」
 幸せそうに、ほんわりと微笑った彼女もまた可愛くて。

「じゃあ、もっと食べさせてあげる。」
 やっぱり夕鈴にはどこまでも甘い。
 結局いつもの食事風景に戻ってしまっていた。



「陛下! 甘やかさないようにと言ったでしょう!!」

 李順の怒声が響いたのはその数分後。




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2014.6.18. UP



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兎さんの上目遣いはリーサルウェポンです。
こんなんされたら陛下が我慢できるわけないですね。
でも、手は出してませんよ!(笑) 
一緒のお布団に寝てますが、半年は健全な関係です。



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