『夕鈴』 私に名前を与えてくださったご主人様。 『今夜は冷えるね。一緒に寝ようか。』 独りぼっちの私に居場所を与えてくれた優しい人。 『―――君が、僕のお嫁さんだったら良かったのに。』 そんな顔をしないで。 今度は、―――私が貴方を助ける番です。 (おつきさま、おつきさま) 今夜も温かな寝床から抜け出して窓辺の台に登る。 そこから覗くのは真ん丸のお月様。 ―――兎は月に仕える者。 こうして毎晩こそっと抜け出して、いつもお祈りを捧げている。 (明日もよくお導きください…) じっと見つめていると、お月様は応えるように輝いた。 今、夕鈴はとても幸せだった。 温かな寝床、お腹を十分に満たす食事、優しい人達。 幸せで幸せで、身体も心も満たされる日々。 そして、その全てを与えてくれた優しい彼の人。 ご主人様がいたから今の夕鈴がある。感謝してもしきれない。 恩返しがしたいと強く思った。 あの人のために何かしたいと、強く願った。 でも、小さな兎の夕鈴に何ができるだろう? (―――おつきさま、"およめさん"って何ですか?) ふと、浮かんだ疑問をお月様に投げかけた。 時折ご主人様が夕鈴を撫でながら言っている"およめさん"という言葉。 それが夕鈴だったらいいのにとあの人はいつも言うのだ。 時々"きさき"と言うときもあるけれど、たぶんその二つは同じ意味なのだろうと思う。 ("およめさん"になれば、私はあの人を助けられますか?) それが何かは分からない。 でも、それがあの人が望んでいることなら叶えたかった。 (私は、あの人の役に立ちたいです。あの人を助けたいです。) だからお願いしますと、何度も何度も頼んだ。 『―――その願い、叶えよう。』 (!?) 突如頭上に響いた声にビックリして顔を上げる。 さらに上を見上げるとお月様がきらきらと輝いていた。 『熱心な兎へのご褒美だ。』 お月様のきらきらが夕鈴へと降り注ぐ。 ひんやりしたようなあたたかいような、不思議な感覚だった。 ※ 50%縮小サイズです。原寸はクリック。 『さあ、今夜はもうお休み。次の目覚めの時には、そなたの願いは叶っていよう。』 きらりとひとつ輝いて、お月様はそう言った。 夕鈴はそれに頷いて、ご主人様が眠っている寝台に戻る。 ご主人様が置いてくれた台を使ってぴょんと飛び乗り、元々そうしていたように、ご主人 様の腕の中に潜り込んだ。 温かくて優しくて、とても大好きな場所。 嬉しくてすり寄ると、きゅっと抱きしめてくれた。 大好きな大好きなご主人様。 私の全ては貴方のために―――… →オマケCへ 2014.7.14. UP --------------------------------------------------------------------- そんな感じで、朝目が覚めたら女の子になってましたとさ。 まあつまり、最初からお嫁さんになるために夕鈴は人間になったのでした。 その意味は分からないままでだったけど。