紅い華 5




「離せよッ」
「静かにしろ!」
 暴れる男達を軍人達が後ろから押さえ込む。

 国境西端の反乱の鎮圧から半刻。
 首謀者達が指揮官である黎翔の前に引き出された。


「―――元気がいいな。」
 肘掛けに肘をつき、黎翔が薄く笑うと男達は押さえつけられたまま睨み上げる。
 それを眺めてさらに面白いと、黎翔は笑みを深めた。
「我々に喧嘩を売った勇気は認めよう。」
 普段畏怖され怯えられることはあっても、真っ向から反抗されることはあまりない。
 新しい玩具を見つけた気分で黎翔は彼らを見下ろす。
「だが、少々やり過ぎた。」

 今回の反乱鎮圧では軍にも死傷者が出ていた。
 それも黎翔だからこそ最小限に抑えられただけで、その分を差し引いてみればどれだけ規
 模が大きかったかが分かる。

「お前らにオレ達の気持ちが分かるかっ」
「…確かに分からんな。」
 噛み付いてきたのはリーダー格の男。
 それに眉一つ動かすことなく、黎翔は静かに返す。

 この地域の現状は黎翔も知っている。
 だが、それだけだ。事実として知っているだけで彼らの気持ちまでは分からない。

「虐げられ続け、搾取され続けた! オレ達にはもうこれしか方法がなかったんだ!!」

 彼らが住む地域では一部の高官が過剰に税を徴収し、私腹を肥やしていた。
 それに怒りを爆発させた民衆が立ち上がったのが今回の事件の発端だ。

 そこまで追いつめられてしまった者達の気持ちも分からないではないが。

「―――浅はかだな。」
「ッ!」
 彼らの言い分を、黎翔は一言で切り捨てた。
「方法なら他にもあったはずだ。ここまで被害を拡大させる必要はなかった。」
「っ うるさい!!」
 カッとなった男が押さえていた兵の腕を振り切る。
 その勢いで相手の剣を奪い取り、黎翔の方へと刃を向けた。

「待て!」
 制止の声も手も男には届かない。
「司令!!」
 しかし黎翔も動こうとはしない。
 男を見据えたまま目も逸らさず、腰に佩いたものに手を伸ばすこともなく。
「お前も道連れにしてやる!」

 ガキンッ

「!?」
 しかし、向けられた刃は黎翔まで届かなかった。


「!?」
 ※ 50%縮小サイズです。原寸はクリック。


 黎翔の目の前で、横から伸びた剣の鞘が受け止めている。

「―――少しは避けろ。」
 それの持ち主である几鍔が呆れた顔で自分の上司を見遣った。
 顔色一つ変えず―――瞬き一つしなかった黎翔は、そんな彼を見上げて心底不思議そうな
 顔をする。
「何故だ? 私の部下は優秀だ。」
「あー そうかよ…」
 一応彼への褒め言葉らしいが、全く嬉しそうでもなく几鍔は顔を顰めただけだった。
 それから向きを変え、突然の乱入者に唖然としている男から剣を叩き落として奪い取る。
 痛みに蹲る男を冷ややかに見下ろし、几鍔は鞘を突きつけた。

「おい、お前。図星さされたからって逆ギレしてんじゃねーよ。」
「ッッ」
 男は再度膝を浮かしかけたが、喉元に当てられたもののせいでできずに終わる。
 そして、男を見下ろす力強い瞳もまた、男を動けなくさせていた。
「自分や誰かを守るためにってのはいい。だが、関係ない一般市民まで巻き込んだのが俺
 は許せねえ。」
「!」
 冷静でありながらも怒りを抑えた彼の声に、さっと男の顔が青褪める。
 彼らもそのことには罪悪感を感じていたらしく、他のメンバーの顔色も同じように変わっ
 ていた。

 今回の反乱は蜂起した町から中央へと進んでいった。
 その時に別の町で無抵抗の一般人が巻き込まれ、数十人が命を落としている。
 だからこそ、それ以上被害を広めないために黎翔が指揮を執ることになったのだが。

「お前等を酷使したバカ共のことはどうでも良い。だが、お前等のせいで犠牲になった奴
 らのことは生きて償え。」
「〜〜〜ッ」
 男はその場にガクリと項垂れ、几鍔に指示された兵が来ても今度は抵抗しなかった。


「……彼らの処分を決めるのは私だが。」
「どうせ同じ考えだろ?」
 几鍔が首だけ振り向いて言うと、その視線を受けた黎翔は口角を上げる。
 確かにそう指示するつもりだったからだ。

「やはり君は私のことをよく分かっている。」
「気持ち悪いこと言ってんじゃねーよ。」
 心底嫌そうな顔で返してきた几鍔に、黎翔は声を出して笑った。







2014.7.3. UP



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ダリ子司令からの任務が遂行できないため、別の話で誤魔化してみました!←
ちなみに今回のサブタイは、
「几鍔の格好良さと黎翔さんとの信頼関係を追求してみた結果。」です♪
感想では夕鈴をご所望されたので、次は夕鈴が出る話を考えます(笑)



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