A Midnight Music Box その1




昔、ある貴族のお屋敷に1人の女の子が生まれました。
リネと名付けられたその子は両親の愛情を受け大切に育てられました。
そして美しく育った彼女は何不自由なく幸せに暮らしていましたが、ある日突然母親が病気で死んでしまったのです。
悲しむリネを見て父親は彼女のためを思い新しい母親を迎えました。
けれどその継母は自分の3人の娘より美しい彼女が気に入りません。
そしてしばらくして今度は父親が事故で死んでしまいました。
これを機会にリネは高い塔の上に部屋を移され、服も何もかも取り上げられて使用人同然の扱いを受けるようになります。

これはそれから2年後、彼女が17になってからのお話です―――――…




ある日、家にお城からの招待状が届いた。
「明日の晩から1週間お城でパーティーがあるんですって。」
2番目の姉が手紙を広げて見ながら言う。
「あ、それ噂で聞いたんだけど、王子様の結婚相手を探すものらしいわよ。」
「それじゃあ王子の目に止まれば玉の輿じゃない!」
3人の義姉達は楽しそうにはしゃいでいる。
「ドレスを新調しなくちゃv」
「私もお気に入りの着ていこうっと。負けないからね。」

(パーティーかぁ…いいなぁ……)
楽しそうに話している義姉達の近くでリネは小さくため息をついた。
ボサボサの髪にヨレヨレの服、ほうきを持つ手はあかぎれで傷だらけ。
こんなナリで自分が行けるはずがない。
(王子様か――…)
3人が言う「王子様」はこの国の第1王位継承者、民からの信頼も厚く本人もかなり魅力的だという事で国中の娘たちの憧れだ。
だから今回のパーティーは願ってもないチャンス。
リネだって会ってみたいと思う。
だけど今の自分じゃ見ることさえできない。
ドレスでもあればいいが義姉達がドレスを貸してくれるはずもない。
望みはなかった。

「3人とも、浮かれるのは構わないが準備を怠らないようにね。それからリネ!」
「あ、はい!?」
呼ばれて顔をあげる。
「お前は留守番だよ。連れて行ってもこっちが恥をかくだけなんだから。」
「…はい。」
わかっていたけど改まれて言われるとさらに辛い。
「お母様、言わなくてもわかってるわよ。第一この子ドレス持ってないもの。行こうとしても無駄だわ。」
「それもそうね。すっかり忘れていたよ。」
そう言って4人でくすくす笑う。
リネは下を向いて涙を堪えるのが精一杯だった。
「私たちは準備しに行くからせいぜい掃除がんばってね。」
笑いながら彼女を見下して言うと4人で奥へ行ってしまった。



パーティー初日。
リネは継母や義姉達の支度の手伝いで大忙し。
けれど自分は連れて行ってもらえない。美しく着飾って楽しそうな義姉達を羨ましそうに見ているしかないのだ。


家の外にはもう迎えの馬車が来ていた。
「留守番頼むわよ。」
継母はそれ一言だけを言ってさっさと行ってしまう。
「私たちが王子に見初められてもひがまないでね。」
「あーそれ私のセリフ!」
「早い者勝ちよっ。」
笑って言い合いながら義姉達も馬車に乗り込んだ。
そして馬車が見えなくなるまで見送った後、深いため息をつくと沈んだ様子でリネは家の中に入っていった。



パタン
ひと通りの仕事を終えてリネは自分の部屋に戻ってきた。
明かりも何もないこの部屋を唯一照らしているのは窓から入る月明かりだけだ。
雲がない澄んだ空には少し欠けた月と瞬く星。満月まではあと5日ほどある。
「ふぅ…」
力を抜いてベッドに倒れこむ。スプリングがきしむ音がした。
頬に触れる冷たいベッドの感触が熱い頬に心地よい。

幸せだった昔。
お父さまとお母さまがいて不自由なんか考えたこともなくて。
覚えているのは暖かい木漏れ陽と鳥のさえずり、庭の木の下でお父さまの膝の上でお母さまに本を読んでもらった。
思い出して目頭が熱くなる。
もうあの頃には戻れない。お父さまもお母さまももういない。

―――元気がなくなった時はこの歌を歌うといいわ。

そう言ってオルゴールの音色にのせて歌ってくれた。
思い出してリネはベッドの下から小さな宝石箱を取り出す。
それは緻密な細工で上等な造りの宝石箱。
隠しておいたおかげでこれだけは見つからずに助かった。
蓋を開けるとオルゴール独特のやさしいメロディーが流れ出す。
オルゴールと彼女の歌が重なって、その子守歌のような歌は外に出て夜の風に流される。

「いい歌だね。」
「!?」
声は外から聞こえた。
見ると声の主は空中に浮いている手のひらサイズの老婆だった。
あまりの不思議さに驚いてリネはきょとんとしている。
「おやおや、そんなに驚かないでおくれよ。」
老婆の言葉で我に返ったリネは頭を振ってもう1度老婆の方を見た。
「夢じゃない…」
「そうさ。私はお前さんの歌が気に入ってね。聞かせてくれたお礼に願いを叶えてやろうと思ったのさ。」
「…願い?」
「パーティに行きたいんだろう? 行かせてあげるよ。」
にっこり笑って老婆が言うとリネの表情が輝いた。
「本当!?」
「ああ本当さ、ついておいで。」



老婆は庭の真ん中までやってくるとなにやら呪文を唱えだした。
ポン!
何もない空間から突如立派な馬車が現れた。
そして今度はあっけに取られているリネに手をかざして呪文を唱える。
パアァァァ
すると彼女の全身を光が包み込み、ボロボロだった服が美しいドレスに変身した。
ボサボサの髪は結われて頭には小さな王冠がのっている。
その姿はまるでどこかのお姫様のようだ。
「…これ!?」
「さあ早くお行き。けれど覚えておいて、月があの時計塔に差し掛かるまでには戻ってこなくちゃいけないよ。
じゃないと魔法は解けてしまってもう2度と奇跡は起こらないから。」
「はい。ありがとう魔法使いのおばあさん!」
リネがお礼を言うと老婆は微笑んで消えてしまった。



<コメント>
死にました…
どうやらデータ保存してなかったらしくて…打ち直したですι
1番短い話で助かった……(短いのか?)
つーかまだ続きます。




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