A Midnight Music Box その2




その頃お城ではパーティーがすでに始まっていた。
色とりどりのドレスに美しい音楽、優雅なダンス。ここだけが別世界のようだ。


そんな明るい場にそぐわない不機嫌な表情でホールを見ているのはこのパーティーの主役であるはずの王子。
数段高い所にある椅子に王と王妃と並んで座り、始まってからずっとこのままである。
「王子、誰かと踊ってきたらどう?」
「私が気にいるほどの女性が見つかったら行きますよ。」
控えめに言った王妃の方も見ずに不機嫌極まりないという声で答えた。
「…まだいないの?」
「ええ。…だいたい私の嫁探しに国中の女性を集めるなんて非常識ですよ。運命の相手くらい自分で探すのに。」
何でも自分でやりたいと思っている彼の性格ゆえか、こういった王達の気遣いも彼にとっては迷惑にしかならない。
「けれど王子、そう言ってどのくらい経ったと思っているの?」
「理想が高いんですよ。」
王妃の反論は笑顔で切り返されてしまった。
「・・・たとえそうでもこの1週間の間に決めてもらいますからね。」
そのためにわざわざこんな手の込んだ事やってるんですから。
「―――わかりました。」
そこまで言われると仕方ないなぁ・・・

視線をホールに戻す。
いろいろな女性がいる、とても魅惑的な女性だって。
だけど彼にはどうでもよく見えた。
自分はまだ未熟で自分だけで精一杯で、女性に興味を持つ暇なんかなくて。
だから今まで探す気もなかった。

けれど1度だけ、遠い昔のおぼろげな記憶の中で出逢った少女だけは欲しいと思った。
本当にただ1度きり。
顔も覚えていないけれど、あの時の切ない気持ちだけが心の奥深くに残っていて。
あの娘にもう1度会えたなら・・・


ざわっ

突然会場内にざわめきが起こった。
全ての視線が入り口の方に集まっている。
?
不思議に思ってそちらに目をやる。

その視線の先にいたのは1人の女性。
金糸のような髪、月光を紡いで作ったような青白い絹のドレス。
まるで体全体が光り輝いているようだ。
全ての者が目を奪われ、ホールはしんと静まり返った。

「―――っ・・・」
王子自身も言葉を失い彼女を見つめる。
けれど彼の理由は他と違っていた。

似て、る・・・

遠い昔と同じ、あの時と同じ感情が胸に込み上げてきて。
無意識のうちに彼の足は彼女の方に向かっていた。


人々が開ける道を通り、彼はリネの目の前までやって来る。
「一緒に踊っていただけませんか?」
そして手を差し伸べた。
「え・・・?」
驚いてリネはきょとんとしてしまう。
彼は間違いなく今日の主役である王子だ。
ひと目でもいいから見てみたいとは思っていたけれど自分をダンスに誘うなんて思いもしなかった。
けれど断るのはもったいない気もする。
「―――私でよろしいなら。」
そう言って彼の手に重ねた。


音楽が再び流れ出し人々が見守る中で2人は踊り始める。
優雅でいて優しく、楽しそうに。
2人は時が経つのも忘れて踊りつづけた。

「・・・ずっと貴女とこうしていたい。」
「私もですわ。けれど・・・」
けれど時は迫っていた。
「・・・もう帰らなければなりませんの。」
「どうして?」
離れたくない。離したくない。
短い時間で彼の心はすでに彼女だけになってしまっていた。
「・・・ここには誰にも内緒で来ているのです。見つからないうちに戻らなければ2度と来れなくなってしまいます。」
魔法使いのおばあさんとの約束もあるし。
「そう、ですか・・・それなら仕方ありませんね。」
そう言いながらも名残惜しそうな表情だ。
「明日も来て下さるのでしょう?」
そうでなければこの手を離さずに帰さなくしてしまうかもしれない。
心なしか彼女の手を握る力が強くなった気がした。

「もちろんですわ。」
にっこり笑って返事をするとリネはするりと彼の手から離れて帰っていった。



<コメント>
これ書いてる時にちょうどFF8のWaltz for the Moonが。←リノアとスコールが踊ったダンスの曲。
ちょうどよかったのでリピートしまくってノって書いてました(笑)。
・・・私の書く「王子」ってみんな性格似てる気が・・・・・・ι
優秀なくせに部分的に子供だとか独占欲強かったりとか・・・
今回少し変えてみよう・・・(予定)



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