A Midnight Music Box その3




ポンッ

家にたどり着いたのと同時に魔法が解けて全てが元通りになった。
夢の時間は終わったのである。
けれどリネにとっては王子様と過ごせた時間の嬉しさの方が大きかったのでたいした事ではなかった。
「王子様・・・素敵な方だった・・・・・・」
まだ彼と握った手の温かさが残っている。

早く明日が―――・・・

月がかかる時計塔を見つめそっと呟いた。



帰ってきた継母達を出迎えて、疲れたように座る彼女たちに紅茶を運ぶ。

「疲れた〜・・・」
「ホント―。でもあの一緒に踊った男のヒト、かっこ良かったなぁ・・・・・・v」
「えー! 姉さまズルイ!!」
「あら、私もけっこう好みだったわよ。」
「ええー!?」

何だかんだいって楽しそうに話す義姉達を見ても今は何とも思わない。
「・・・お義姉様方、王子様はどうなさったんですか?」

しーん・・・

リネのストレートな質問に場の空気が一瞬固まった。
「だって、ねぇ・・・?」
3人とも顔を見合わせる。
「ずっと彼女とばかり踊ってたんですもの。」
「お似合い過ぎて誰も何も言えなかったのよねー。」
「そうよぉ アナタにも見せてあげたかったわ。」

それ私なんですけど。

さすがに言えるはずはないので黙っていたが。
知らないとはいえそう言われるとちょっと気分が良かった。



2日目、3日目と、他より少し遅れてくる彼女を王子は待ちわび、やって来ると真っ先に飛び出して迎えに行く。

2人が会えるのは1日のほんのわずかな時間。
その1秒をも惜しむようにずっと、2人は片時も離れずにいた。

―――永遠にこのままでいられたら・・・

お互いがそう思っていた。
このまま時が止まってしまえばいいと―――・・・



そして4日目。
2人はパーティーから抜け出して庭園へ散歩に出かけた。

夜風が静かに吹き抜け、雲1つない空には満点の星が煌いている。
そして円に近い明るい月が夜の地面に薄い影を落としていた。
「・・・きれいですね、王子。」
「ホントだ・・・」
彼も空を見上げて答えた。
夜の庭園には昼とはまた違う美しさがある。


「―――姫。」
王子が突然足を止めた。
「? 何でしょう?」
不思議そうに首をかしげて問う。
「・・・貴女と以前どこかでお会いしたことはありませんか?」

え?

「いえ・・・ないはず、ですけど・・・?」
記憶がある限りそんな事はない。
相手は王子だ、自分のような人間がそうあえるものではない。
「それがどうか?」
「・・・違うならいいのです。変な事を聞きました、忘れてください。」

そう都合のいい話があるはずないよな・・・
彼女はただ面影が似ているというだけ。しかもかなり昔のおぼろげな記憶でのこと。
それに今好きなのは―――・・・・・・


王子の横顔を黙って見つめる。
自分の返事を聞いた時一瞬だけ見せたあの悲しげな表情。
笑顔で隠されたほんの僅かな変化だったけど気づいてしまった。

誰か想う女性がいらっしゃるのかしら・・・?

そう思うと少し胸が痛かった。

・・・・・・
会話がなくなってしばらく何も言わない沈黙が続いた。
心なしか空気が重い。

そうだ、歌を・・・・・・

少し空気を多く吸う。
自然に頭に流れ込んでくるあのオルゴールの音。
声は優しく包み込むように、そして歌は木漏れ陽と風の歌。
「その歌は―――・・・」
「え? ご存知なんですか?」
「・・・音色だけは昔聞いた覚えが。」

どこでだっただろう。もう忘れてしまった。

「あ。貴女にあげたいものが・・・」
思い出したように言い、片方だけのイヤリングを彼女の手のひらに乗せる。
深い青をした宝石が1つだけはめ込まれている小さな、けれど緻密な細工が施された物だった。
「貴女と私で1つずつ。2人だけの秘密です。」
そう言ってにっこり笑う。

ドキン

顔が熱い。
鼓動が相手に聞こえそうだ。


「それから・・・あの―――・・・」
「あっ!!」

ビクッ

急に叫ばれて王子は驚いてしまう。
「ごめんなさいっ 私もう帰らなくちゃ!」
「え? もうですか?」
時計塔に近づく月に全く気がつかなかった。
もうすぐ魔法が解ける。
「続きはまた明日聞きますから!」
そう言って、急な展開についていけず呆然となっている王子を残してリネは慌てた様子で帰っていった。


「―――えっと・・・・・・・・・」
独りぽつんと残されて、王子はただ彼女の後ろ姿を見送るしかない。
別れの挨拶すらする暇もなかった。

風のような人だな・・・

おかげで言い損ねてしまった。
せっかく言えそうな雰囲気になったのに。
「・・・まあいいか。明日言えばいいんだから。」



<コメント>
知らないうちにラヴラヴに・・・(汗)
いや最後ちょっとギャグ入ってるケド。シリアスって続かない・・・
1番短いとか言いつつかなり長くなっていっているような!?
だんだん「桜花」とダブってきているように感じるのは気のせいかしら・・・ (注)桜花:高3の文芸誌に書いた話。エセ平安モノ(笑)
そういえば2人が会う時間って少しずつ長くなってるんですよね。




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