A Midnight Music Box その4
2人が会えるのはあと3日、残された時間はわずかしかない。 もちろんそれは2人ともわかっている。 だから王子は決心したのだ。 2人が永遠に一緒にいられるための言葉、それを伝える事を。 昨日と同じように抜け出した2人は、取り留めのない事を話しながら噴水のそばまでやって来た。 月光に照らされた水がきらきらと宝石のように輝きながら落ちている。 水面には月がゆらゆらと留めない形をとって浮かび、手で触れると月は姿を消してしばらくすると今度は手のひらの上に乗った。 「見てください、月を捕まえましたわ。」 「あ、本当だ。」 王子も水面を覗き込む。 「ああ今日は満月なんですね。」 気づいて今度は本物の月の方を見上げた。 リネも空を見上げる。 (まだ高い・・・) 時計塔とはまだ離れているからしばらくは大丈夫。 まだ一緒にいられる。 「手が冷たくなってますよ。」 くすっと笑って彼女の手をとる。 そしてそのまま近づけて手の甲に軽くキスをした。 「!!?」 すごく熱い。 けれど「アツイ」のは手なのか顔なのか。 もはや自分が何を感じているのかさえ解らなくなってしまった。 「お・・・・・・」 言いかけた彼女の視界を何かが遮る。 何か唇にやわらかい感触のものが触れた。 「―――――っ!?」 ほんの一瞬だけ、軽く触れるだけのキス。 顔を赤くした彼女の目の前にあったのは彼の優しい表情だった。 「・・・私は貴女の事をもっと知りたい。」 「え――――・・・?」 「この宴が終わっても貴女とずっと一緒に過ごしたい。駄目ですか?」 え・・・・・・? 突然のことにリネは驚いた。 「わたし・・・私は・・・・・・」 これは夢じゃないかしら。 だって本当の私はぼろぼろの服を着て、王子様だって一目でも見れればいいと。 そんな私が・・・ ―――・・・違う。 「っ! ごめんなさい!!」 突然王子を自分から突き放す。 「姫?」 今度は王子が驚く番だった。 忘れていた。 この姿は魔法で着飾ったウソの自分。 本当の姿を見ても王子は私だと絶対わからない。 「こんな大切なコト忘れてたなんて・・・」 2人で過ごした時間が楽しすぎて。 大きな勘違いをしていた。 「私」が「お姫さま」になれるはずがないのに。 「ひ、め・・・?」 彼が伸ばした手をするりとかわす。 「私じゃダメなんです・・・」 「何が・・・?」 うつむいた顔があげられない。王子の顔が見れない。 「これは月が、月の魔法が見せた夢なんです。本当の私はここにいるべきじゃない・・・」 部屋の窓からお城を眺めているのが本当の私。 これは「私」じゃない。 「私より相応しい人を―――・・・ごめんなさい。・・・もうここには来ません。」 1度も顔をあげないまま言い、そのまま走り去ろうとした。 がしっ 「!?」 強い力で掴まれた腕。 後ろから抱きしめられた。 「離し・・・!」 「どうして!? 私は貴女しか必要ない!! 他に相応しい人なんて考えられない!」 ごめんなさいと言うならどうしてそんな悲しい表情をする? 「きっと貴方は私に気がつかない・・・」 「どうしてそう思うの?」 「だってわかるもの・・・」 全く違うもの。 今の私を「私」だと、お義母様やお義姉様だって気づかなかった。 それなのに王子がわかるはずもない。 「・・・ああ、月がもうあんな所に・・・・・・」 ! 王子の呟きにリネははっとして時計塔を見た。 月が時計塔にさしかかっている。 (! 間にあわない!!) 「魔法が解けちゃう!」 むりやり王子の腕から離れる。 「さようなら、王子。もう2度と会えないかもしれませんけど。」 今度は彼の顔を見て言葉を残すと門の方に走っていった。 「やってみなくちゃわからない事もあるよ!」 走り去る彼女の背中に叫ぶ。 「たとえどんな姿でもきっと見つけ出すから!!」 絶対見つけ出すから! その声は彼女に聞こえたかどうかわからない。 残りの2日間、とうとう彼女の姿はお城に現れなかった。 そう、間にあわなかったのだ。 家に着く直前に魔法が解け、2度と奇跡は起こらなかった。 そして王子は―――・・・
<コメント>
あれ? あれれ?? 終わらない!?
つーか最初と変わりスギ・・・(汗)
ラブラブ度は確実に上がりまくってますな。
どーした自分!!(笑)